テスト投稿 ~真の投稿者じゃないと追放された訳じゃないけど読み専だって投稿してみたい~
タイトル通り、単なるテスト投稿をするつもりでしたが思いつきで書いていたら長くなったのでそのまま投稿してみました。
———異世界転生、悪役令嬢、主人公最強。
このなろうのすべてを手に入れた男、なろう王ナールゾ・サッカー。彼の死に際に放った一言は、人々をなろうへ駆り立てた。
「次のバズタグか? 欲しけりゃくれてやる。探せ! なろうのすべてをそこに置いてきた!」
男達は、メディアミックスを目指し、夢を追い続ける。
世はまさに、大追放時代!
男はノートパソコンのタイピングを止めると唸った。テスト投稿するにあたって即席で考えたパロディネタが200文字に届かなかったからだ。なろうに投稿するには、その本文に最低でも200文字が必須となっている。このままでは小説を投稿する以前に――別に本命の作品などないのだが――テストすら投稿できなくなってしまう。
――この危機的状況を打破するためには文字稼ぎが必要だ。
しかし、既にパロディとしては完成している。これ以上は蛇足でしかない。ではいっその事、全部消して200文字の「あ」で埋め尽くしてしまおうか。いやいや、折角ここまで書いたのに消すのは勿体ない。何よりそれではただの荒らし、一人のなろラーとしては唾棄すべき行為だ。
「何、悩んでるの?」男が思案に暮れていると声がかかった。なろラーの同士――もとい男の妹だ。
「いや小説家になろうにテスト投稿しようとしたんだけど200文字書かないと投稿できないんだよ」
「ふーん、お兄ちゃん小説なんか書いてたんだ」
「……あぁ言ってなかったっけ」
嘘だ。小説など一回も書いたことがない。学校の作文でも鉛筆が進まず居残っているぐらいである。そもそも投稿したい作品があるなら200文字分テスト投稿すれば済む話だし、パロディで文字稼ぎなど素人の浅知恵そのものだ。
「今度読ませてよ」
「テスト投稿してからじゃないと夜も眠れず、続きが書けないんだよ」
今更、素直に本当は書いていないとはいえない。何しろ妹には日頃、なろう作品の評価とともに講釈を垂れているのだ。小説を書く能力のないことがばれて失望されるのは兄として避けなくてはならない。
――なお、その実態はネットで拾った他人の感想の受け売りで、妹も適当に聞き流していることに男は気づいていない。
「なんでそんなテスト投稿に拘るの? 普通に投稿すればいいじゃん」
「やれやれ」
男はこれ見よがしにため息をつくと分かってないなと首を振る。
「なろうを読むだけでは、ただのなろラー、なろうの投稿システムを把握して初めて真のなろラーになれるからだ」
「それって読者視点の話で投稿者としての理由になってなくない?」
思わず本来の動機を語ってしまった男に妹は的確なツッコミを入れる。言葉に詰まった男は慌てて話題の転換を図った。
「……まあ兎も角、何か良いアイディアはないか? 後ちょっとで200文字なんだよ」
「うーん……」 妹の誘導に成功したことに内心で安堵していると妹が手を打った。
「そうだ! メタ的な視点でそのこと自体を文章にしちゃえばいいんだよ」
「ん? どういうことだ」 男が怪訝な表情を浮かべる。
「だからさ、テスト投稿しようとしているお兄ちゃんを主人公にした文章を足せばいいんだよ。実際のお兄ちゃんの状況を書くだけだから簡単でしょ!」
「おお! お前は天才だ!」 妹の見事な打開策に男も思わず声を上げた。
「早速書いてみようよ」
「おう」
数十分後、200文字をゆうに超えた文章が書き上がった。オチはパソコンが爆発して結局、投稿できなくなるという大どんでん返しだ。恐らく自分以外、誰にも思いつかない展開だろうと男は悦に入りながら画面をスクロールしていく。
「ほうほう、こうなってるんだなぁ」
「なんだか裏側を見ているみたいでちょっと面白いね」
「あぁ、これでも俺もお前も真のなろラーだ」
「そ、そうだね」
テスト投稿という大業を成した男は満足し、そろそろお気に入りの作品が更新される時間だと管理画面から抜け出した。
「この作品、面白かったから読んでみろよ」
「うん、有難う。今度読むね」
男は上機嫌で暫し会話を続けた後、そろそろ宿題をするかと席を立った。全ては上手くいきこのまま大団円で終了――とは問屋が卸さなかった。
「それじゃお兄ちゃん、テスト投稿も出来たことだし書いてる小説読ませてよ」
本日最大の危機が男に訪れる。完全に虚をつかれた男は、思考停止に陥った。
「……お兄ちゃん?」
(やばい……どうする)
「あっ、もしかしてエッチなの書いてたり……」
「するわけないだろ!」普通の小説も書けないのにエッチなのなんて書けるわけないだろと心の中で憤慨する。
「じゃあ見せてよ」
進退窮まった男は、自分でも想像のつかない――後から思うと頭の片隅に残っていた――行動に出た。
「こんなところにゴキブリがぁああああああ!」
そう叫びながらノートパソコンを掴み上げると勢いよく床に叩きつける。けたたましい音が鳴り響き、ノートパソコンの残骸が飛び散る。突然の兄の恐慌に妹は言葉を失ったまま、呆然とパソコンだったものを見つめている。
「これで投稿できなくなったな」
爆発オチなんてするじゃなかったと後悔しながらなろうの投稿体験は幕を閉じた。
冒頭タイピングを止めるまでがリアルです。