前編
【SNSユーザー様必見!】本当に恐ろしい現代の神話【セックスしないと出られない部屋】
読者の皆さまは「セックスしないと出られない部屋」の噂をご存知だろうか?
この部屋は生物二匹で入り、入ったが最後、課題をクリアしなれけば出られない部屋なのだという。
カギもかかっていないのに出られないことや、生物二匹という恐るべき指定など、我が誌でも調べたいことだらけだが、それは今回は割愛する。
今回は、この部屋に一人で入った猛者の様子をお見せしよう。
――この部屋はどこにありましたか?
○○市○○の○○マンションの二階の一室に。
「セックスしないと出られない部屋」という看板がかかっていました。
――ということは、部屋に入ったのは自分の意志でなんですか?
そうです。友人を訪ねた帰りだったんですけど、興味本位でドアを開けて入りました。
――どうして一人で入ったんですか?
いや、そのとき一人だったから。
――セックスしないと、ということは二人で入る必要があるのですが。
そうらしいですね。でも、そのときは知らなくて。
てっきり、中にいるすごいブサイクな女の子とセックスしないと出られない部屋なのかな、って。だったら話題作りにもなるし、度胸試しで行ってみようと。
………………
…………
……
「見て見て、ハオス! おれのことが雑誌に載ってるよ!」
薄っぺらい本を片手に、興奮気味に話しかける男。
対する相手も男だが、こちらは打って変わって冷静だ。
ハオスというのだろう、呼ばれた名前に反応し顔を向けたが、呆れたような表情を隠さない。
それは呑気な男の様子に呆れているのか、それとも男のやらかし具合に呆れているのか。
「それは確か……割と信憑性の低いメディアの一つだっただろう。その雑誌?の取材をおまえは受けたのか?」
「いや、まったく記憶がない。強いて言うならあのあとSNSでそれっぽい発言を拡散希望したぐらいなんだが」
「どう考えても頭おかしい奴で終わるだろうに」
彼らのいる部屋は、とあるマンションの一室だ。
しかし、管理人にこの部屋の存在を聞いても、首をかしげるか、あるいはからかわれたと思って相手にしてもらえないだろう。
階段を上がって二階に到着して、201の左隣にある部屋なんて。
おまけにその部屋には、アニメの女の子がドアノブにかけていそうな可愛らしい看板がかかっていて、「セックスしないと出られない部屋」と書いてあるのだから。
そんな部屋に、雑誌を持ち込んだ男、ユウトは今日も一人でやってきていた。
「んもー、おまえじゃなくて名前を呼んでよー。ほら、ユウトって」
「うっとうしい奴め。だいたい、呼吸も衣ずれの音もしないような存在に、よくもまあそんなに馴れ馴れしくできるものだ」
「そりゃあ、おれはハオスの体内で暴れた実績を持つからね」
ハオスは現代的な服装に身を包み、部屋の中央で座って動かない。
その姿は特別美しい訳でも、醜い訳でもなかったが、奇妙な生活感があり、セックスするには普通過ぎるこの部屋にマッチしていた。
とは言え、ここはセックスをしないと出られないので、訪問者のどんな要望にも応えられるように、さまざまな隠し場所がある。
ハオスはどこに何があるか、すべて把握していた。
「暴れた……か。あとオレの体内という言い方は止せ。じゃあなんだ? オレは、今見えているオレは体外のオレか」
「ああ、ごめんって! 拗ねないでって! じゃあどうする? おれが一人セックスしたに言い換える?」
「拗ねた訳じゃない。おまえが……ユウトがしたことは、一人っきりの部屋で下半身丸出しにして、あっちこっち飛び跳ねたり走り回ったりした、それだけだ」
「一つ訂正させてくれ。下半身丸出しにして、じゃなくて全裸で、だ」
ハオスの表情がかなり珍妙になる。
人間である我々の感覚からすれば、突っ込むところはそこか?と言いたいのだろう。
しかし、ハオスの意識が表面化したのは今朝のことで、彼の表情筋や知識はそこまで表現することができなかった。
ユウトの凛とした訂正は、それを360度見ていたものにとっては受け入れがたいものではない。
確かにあのときのユウトは何も着ていなかった。
生まれたままの姿で、自身を振り回しながら、「ビックリするほどユートピア! ってこれ違う!?」などと訳の分からないことを言っていた。
「でもさ、実際に部屋からは出られたんだから、それってセックスだったってことだよな?」
「そんなことは……知らない。オレを作ってこんなところに置いた神にでも言ってくれ」
それっきり、会話は途切れた。