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第1話『北朝鮮核実験・大怪獣プルサガリ現わる』

 青く透きとおった秋の空。空の青い天井にうろこ雲が貼りつく。それは日本でも北朝鮮でも同じ風景だった。

 荒涼たる砂漠、周囲より一段高い岩盤。その中に鉄塔が組まれ、なにやら球体と機器類が据え置かれている。

【00:30】とタイマーがカウントダウンを始めた──ここに、北朝鮮の地下核実験が行われるのである!


 ……その様子を、朝鮮民主主義人民共和国国務委員長にして朝鮮人民軍最高司令官にして朝鮮労働党委員長と国家、党、軍の要職を自ら兼任する金序運(キムジョウン)が双眼鏡で見据える。

「最高司令官同志、間もなくです。閃光に備えてください」

「うむ」

 北朝鮮ナンバー2たる宰龍風大将の進言にキムは素直に応じた。 

 キムの手元の双眼鏡が上下逆なのは誰も指摘していない。そんな彼が実戦部隊を生で視察しているのだ。

 

 キムはシェルターに篭り、核実験の状況はモニターで中継される。


 ──閃光!


 シェルターの中にいたキムは、口の中に鉛のような味がするのを感じた。これこそが原爆の味。あのエノラゲイの乗員も体感したという。

 直接見ていたら失明してもおかしくないのだ。

 次いで轟音と爆風。シェルターの天井からアスベストが砂塵となってキムの肩にパラパラと落ちる。キムは口を歪め、肩の塵を払い落とした。


「最高司令官同志、そろそろ外に出ても大丈夫です」

「うむ」

 梯子を登り、シェルターのハッチを開けたキムは……絶句した。

「なんだ、あれは……」


 異形だった。


 焼死体のように焼けただれた皮膚に、下から覗く朱色の皮膚。直立二足歩行の大怪獣は頭から二本の角を誇らしく生やしていた。











 《 シン・プルサガリ 第1話『北朝鮮核実験・大怪獣プルサガリ現わる』 》











 東京都千代田区──首相官邸


 内閣情報集約センターには「北朝鮮情勢に関する官邸対策室」と銘打たれ、外交安全保障分野の危機管理を担当する国家安全保障局長と、内政分野の危機管理を担当する内閣危機管理監が揃い踏みで、関係各省庁の局長級幹部を集め、対応を協議していた。


 そこへ日本国内閣総理大臣にして政権与党保守党総裁である物部泰三(もののべたいぞう)が入室する。

「総理入られます」

 副総理兼財務大臣の青梅一郎(おうめいちろう)、内閣官房長官兼対北朝鮮特命担当大臣の羽賀信義(はがのぶよし)も一緒だった。


 皆は立ち上がるが、緊急事態のためすぐ自席につく。


「荒垣防衛大臣、状況の説明をお願いします」 

 物部はそう切り出した。

 荒垣健(あらがきたける)防衛大臣は顎を引いて了承し、書類片手に立ち上がった。

「30分ほど前のことです。北朝鮮核実験をモニターしていた高倉統合幕僚長より第一報がもたらされました。口で説明できない状況です。とにかくこの映像をご覧いただきたく……」

 若干42歳にして内閣総理大臣臨時代理まで務めた荒垣が言うのだからきっと彼の言う通りなのだろう。物部は何も聞かず正面の巨大モニターを注視した。


 映し出された大怪獣に皆がどよめく。


 物部は顎を左手でさすり、荒垣に向きなおった。

「内閣官房に対応チームを設置しましょう──」

 内閣府に対策本部を作る場合、法の裏付けが必要だが、内閣直轄の内閣官房ならば総理の指示でいかようにもできる。

「──荒垣大臣に特命担当大臣をお願いします」

 ここ数年の日本国政府はもはや荒垣さえいればどうにかなるようになっている。

「承知しました。謹んで拝命致します。──立花、チームの人選に取りかかってくれ」

 荒垣の台詞の後半は立花康平(たちばなこうへい)外務大臣に向けられたものだった。

「おう、俺がか?」

「霞ヶ関には顔が広いだろ?」

 立花は経済産業省OBでもある。

「名前はそうだな──内閣官房特定事案対策統括本部──特事対(とくじたい)にするか」


     *    *


『──先ほど羽賀官房長官は記者会見に臨み、北朝鮮に大怪獣が現れたと明らかにしました。北朝鮮当局はこれを現地の伝説になぞらえプルサガリ、プルサガリと呼称しています。自衛隊も北朝鮮に派遣する用意を整えているとのことです──』 


 新型コロナウイルスの蔓延で外出禁止令が出ている防衛大学校。座学、訓練のいくつかも中止、変更され、学生らは鬱屈した毎日を過ごしていた。

 そこへこの北朝鮮の怪獣騒ぎである。当然学生らはテレビに釘付けとなっていた。

 三年生、東城洋祐(とうじょうようすけ)も例外ではなかった。彼の父は自衛艦隊司令官、東城宏一(とうじょうこういち)である。気が気ではなかった。

 陸海空三自衛隊には、有事の際実戦部隊を総指揮する統合任務部隊となりうる将階級の司令官が3人いる。それぞれ陸上総隊司令官、航空総隊司令官、そして東城宏一が現在その任にある自衛艦隊司令官だ。

 

 キャスターは続ける。


『──日本国政府は荒垣健防衛大臣を本部長とする内閣官房特定事案対策統括本部、略して特事対を設置しました。官民学の有識者が集まり、プルサガリの弱点を探るとのことです──』


 画面が切り替わり、国会議事堂の中の応接室が写し出される。


『──保守党幹事長、御屋敷芳弘(おやしきよしひろ)土本明美(つちもとあけみ)立憲民衆党副代表が会談し、自衛隊の派遣の是非を国会で審議するため、3日間に期日を絞った集中審議を開くこととなりました──』


 土本は北朝鮮との関係が噂されているし、御屋敷も対中国で同様なのだ。


『──次のニュースです。その北朝鮮でもコロナ患者が発生──』


 プツン、と洋祐はリモコンのスイッチを押し、ため息をついた……


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