人魚、声を失う
フィオが目を覚ましたのはあれから数日経った時だった。
(ここは…?)
目に映るのは最後に見たと記憶している浜辺ではない。
体も適度に安心感をもたらす柔らかさのベッドに横たえられてるようだ。
ぼんやりとベージュの天井を見つめながらフィオは何があったかを思いだそうとしていた。
(陸へ来たのは覚えてる。その後に船が燃えていて。魔法使いさんが私の背中を押して。…それから?)
その先は思い出せない。
ぎゅっとシーツを握る。
そして、弾かれたように起き上がった。
(それよりも結界は…?)
自分がリオーネに陸へ来させられた目的を思い出した。
そもそも結界がどれ位持つか聞いていなかったことも。
自分の至らなさに押し潰されそうになりながら、
それでも、フィオはベッドから出た。
(まずは様子を確認しないと)
フィオは部屋から飛び出ようとした。
「…っ」
が、扉を開けた瞬間何かにぶつかった。
「何処へいく」
押しつぶされるかのような低音が上から降ってきた。
思わず一歩下がると、
力強い焦げ茶色の瞳がフィオを貫いた。
「………」
彼の纏う空気がフィオの動きを封じる。
「ヴィルク。怯えてますよ、彼女」
笑いを含んだ声が、フィオを弛緩させた。
「申し訳ありません。彼は私を護る任務に忠実ですので」
そう言って、ヴィルクの横に並んだ王子はフィオに軽く頭を下げた。
「エミーオ様…」
ヴィルクは深く息を吐き、幾分空気を和らげた。
「それで、あなたはどちらへ行こうとしてたのでしょうか」
今度は温もりのある栗皮色の瞳がフィオを捉える。
捉えられた瞬間、胸のざわめきをフィオは感じた。
ただ、それは本当に一瞬で。
それよりも結界の様子を確認したいフィオはざわめきをスルーした。
「(行かせてください。確認しに行きたいのです!)」
フィオは彼らに訴えた。
しかし、フィオの口からは音は紡がれなかった。