人魚、陸へ
「結界が脆く?」
フィオはリオーネからの言葉を俄に受け入れられなかった。
結界が脆くなっていると言うことは、それはつまり…
「あぁ、父君の力が弱まってるわけじゃないから」
まずフィオが心配したのはそこだ。
魔力の弱まりと身体の弱まりが比例するのがクルムカイトでの常識だから。
「でも、脆くなっている。それは事実。何せ俺がここにいるのだから」
「語り集めのあなたが何故ここに?」
「語り集めだからね。箝口令がしかれていることも、真実と嘘とが混じり合って語られてたりするし。そこから勘で海に何かあるな、と」
リオーネという人物は一体どこまで力があるのか。
語り集めとは言え、この国を見つけ、そしてここまで来るとは。
「ちなみに俺がここへ来たのは初めてじゃないよ。何回か来てる」
けろりというその言葉に、フィオの動きが止まる。
「まぁ、俺の力が強いのもあるけど。何故が君があの岩に座ってると、共鳴反応みたいなのが起こって結界を通り抜けるんだよね」
更に続けられた言葉に、フィオは頭を横から殴られた気がした。
「…ということは、私が外部の人間をこの国へ?」
真っ青になるフィオの頭を柔らかく撫でながらリオーネは続ける。
「で、多分この岩は何らかの力を持ってるんじゃないかな、と。だから君に聞いてみようと、話しかけた」
リオーネはフィオのせいじゃないと言うように、頭を撫でる。
そのおかげなのか、フィオはいつもみたいに悲観的にはならなかった。
「結界が脆くなっている部分も岩の付近なんだ。だからこそ、君は何か知らないか」
フィオは首を振る。
私がここに来てたのは、誰にも見つからない空間で。
だけど、ここに来ると気持ちが落ち着くから。
「私がここに近づかなければ、結界がこれ以上脆くなることはない?」
それならば今すぐにでも、ここから離れたい位だ。
「それはもう無理かな。少しずつ少しずつ脆くなっているから」
「じゃあ、どうすれば」
リオーネの言葉に被さるようにフィオは言う。
「ちょっと陸へ行ってきて」
リオーネの言葉に再びフィオの動きは止まる。
「え?」
「陸の気配がここから漂ってるんだ。それが原因じゃないかな」
いや、それでも自分が陸へ行かなければならない理由がわからない。
「君に反応する何かが陸にあるはず。だからそれを探さないと」
リオーネが言っていることがあまり理解出来ない。
ここが私と共鳴反応を起こして結界を脆くなっている。そして、それは陸の気配を含んでいて。陸に私と反応する何かが関係している。
あまりにもこじつけすぎる気がする。
「そもそも本当に私なんかに」
「君だから、だ」
真剣な色を含んだその声にフィオは何も言えなくなる。
語り集めとして、フィオの知らない何を彼は知っているのだ。
「どうして、私なんか」
「君だから」
リオーネは同じ言葉を繰り返す。
そして、立ち上がり、フィオに左手をかざす。
「兎に角、君は陸へ行ってきて。でないと進まないんだ」
徐々に赤い光の粒がフィオを覆っていく。
「ま、待って」
「待たないよ。待ったって君は決断しないから」
「でも…」
フィオの言葉は最後まで聞こえなかった。
光の残滓が其所にあるだけだった。
「これで物語は動き出す」
リオーネのその言葉は、誰に聞かれる事もなく、ふっと消えていった。
左頬の紋様が赤く灯っているのを感じつつ、
リオーネはこの場を後にした。
リオーネが思った以上に何も語らず、フィオを強制送還してしまった。
わかりづらい文章もあり、読みにくいかと思いますが、
次回から陸編へ続きます。
気長にお付き合い頂ければ幸いです。