人魚、魔法使いより警告される
「語り集め…?魔法使いではないのですか?」
城の警備さえくぐり抜ける魔力を持ちながら、彼は語り集めと名乗る。
語り集めとは、字のごとく、人々に伝える物語を集める者。どこの国にもどんな場所でも人が居ればそこへ行き物語を記す者。
(だから、魔力が強いのかしら?)
危険から身を護る為の魔力なのだろうか。
だけど、それだけではないような気もする。
何処か懐かしいような感じをリオーネから受ける。
「いや。魔法使いでもあるか、ここでは」
リオーネは顎の下を擦りながら事も無げに言う。
「そもそも、どうしてここにいるのですか。あなたは各国王でも宰相でもない。まして、クルムカイトの者でもないでしょう」
フィオの言葉にリオーネは目を丸くする。
「あれ?クルムカイトの民に見えない?」
自分の体を見回すリオーネにフィオは頷く。
(陸の人間に見えるけれど、だったら彼はどうしてここにいるのか)
クルムカイトは父の結界により、陸の者が許可なく来られる場所でもない。
許可すらここ何百年も与えられてないはず。
フィオは縮こまりながらも、リオーネを真っすぐに見つめる。
「まぁ、君だからわかる、か」
リオーネが小さく何かを言ったが、フィオの耳には届かなかった。
「それよりも、だ」
リオーネは少し身を乗り出す。
しかし、リオーネが身を乗り出した瞬間フィオは彼の手首を自分の魔力で拘束した。
「あれま」
「私だって、この位は出来ます…!このまま父様の前に連れて行くことだって…!」
フィオは彼を逃すまいと拘束する力を強める。
けれど、彼はやはり事も無げに拘束を逃れる。
「残念だけど、それは君でも出来ないよ」
拘束の外れた手首を回すリオーネ。
「もったいないなぁ。使い所が間違ってるんだよね」
そう言ってまたフィオに近寄る。
フィオは呆然としながら、彼を見つめるしか出来ない。
(どうして、私はこんなにも出来ないんだろう)
もしかしたら、彼はクルムカイトに仇なす者かも知れないのに。
兄様達ならきっと上手く対処出来ただろうに。
ぐるぐると負の感情だけが回る中…
「痛っ…!」
フィオの中の王族としての責任感がもたらしたのだろうか。
フィオはリオーネに頭突きをしていた。
「わ、私の頭は固いんですからね!もう一度!」
二度目の頭突きをしようと構えるも、
リオーネに頭頂部を抑えられ今度は叶わなかった。
「どんな攻撃だよ、まったく。兎に角、落ち着け」
リオーネが触れている部分が温かくなる。
その温かさを感じていると、彼は悪い人ではないと思えた。
「確かに俺がここにいるのは不思議だろうけどな。けれど、俺はそれができる」
優しい声色も相まって、フィオは少し緊張を解く。
「断言する。俺は悪い奴じゃない。あやしいのは承知だが」
フィオが力を抜くと、リオーネはそのまま彼女の頭を撫で始めた。
「まぁ、君の頑張りは評価するよ」
リオーネのその言葉にフィオの目尻に涙が浮かんだ。
「で、だ。俺は警告しに来たんだ」
フィオが落ち着き、リオーネの出したお茶に口を付けると、
リオーネはそう切り出した。
「警告ですか?」
首を傾げるフィオには先程までのような警戒は殆どなかった。
リオーネが悪い人でないことを漸く理解したからだ。
そもそも彼ほどの能力があれば悪事を働こうと思えば直ぐさま実行できる。
それをしないと言うことは、彼はそうでないと言うことだと。
「結界が脆くなっている」
リオーネの一言にフィオにまた緊張が走る。