人魚、呟く
「今日もダメでした」
フィオは岩の上に座り、そう言った。
揺蕩う銀色の髪が、憂鬱な気分のように彼女に纏わり付く。
「お兄様もお姉様もルーイ君でさえ、あんなに簡単にこなしているのに」
眉が八の字を描くほど、弱っている彼女の脳裏に
2人の兄姉と1人の弟が鮮やかに浮かぶ。
「カルロ兄様は精悍な剣捌きでした」
第一子カルロ。
父親譲りの赤銅色の髪に切れ長の赤い目を持つ
まるでライオンを思わせる風体だが、
気は優しく、国民達を第一に考える人徳者として
城下でも人気が高い。
「アーシャ姉様は凄く優美な所作で」
第二子アーシャ。
フィオと同じく銀色の髪を持ち
目尻が少し下がっている緑の目を持つ
まるで女神のようだと言われる容姿を持つが、
兄以上に冷徹な判断を下すが、やはり身内には優しい。
「ルーイ君はカルロ兄様に引けを取らない強さになってきて」
第四子ルーイ。
金色の緩くウェーブのかかった髪に幼さの残る紫の目が印象的な
アーシャに劣らず優れた容姿を持つだけでなく
兄姉に追いつこうとする真っ直ぐな性格から
同世代の者達よりも遥かに抜きん出た能力を持つ。
「それなのに、私ときたら…」
そして、第三子フィオ。
母親譲りの銀色の髪だが、アーシャほど絹めいておらず、
どこが自信なさげな青の目を持ち
何をしてもぱっとしないと評されている。
「なんで、こうなのかな…」
眩しいくらい輝いている兄弟達の姿をフィオも必死に追いかけてきた。
カルロやルーイの鍛錬に混じっては、青痣を増やし。
アーシャと作法を学ぶが、ここぞと言うときに転んでしまう。
何でもスマートにこなせる彼らの努力する姿も見てきたからこそ、憧れはするものの自分も努力はしてきた。
それでもいつもそれは上手く行かず、
長い年月の中でフィオの自己肯定感を奪ってきた。
兄弟は優しい。
フィオが努力してることを知ってるから呆れずに付き合ってくれる。
けど、失敗したときの苦笑とか静かな励ましが
フィオのやるせなさを増長する。
誰にも責められないから、自分で自分を責めてしまう。
そして、一日の終わりにこの岩の上で落ち込むのが
最近のフィオの日課のようになってきた。
徐々に暗くなり肌に冷たさを感じ始めた時に
やっとフィオはこの岩を後にする。
明日こそ上手く出来ますように、と。
失敗することを多分に含んだ予想をもって。
まずは主人公と兄弟から。
イライラする主人公かもですが、
よろしくお願いします。