1 - 1.転生準備 Ⅰ
僕は死にました。ある日、突然です。
病死であればまだ良いのですが、理由は事故死でした。いたたまれないです。その後の家族の様子などは分かりませんが、一応両親とは仲良くやっていたので、悲しんでくれていると嬉しいです。
さて、今。僕は何処にいるでしょうか。天国?それとも地獄?────答えはどちらでもありません。不思議な部屋にいます。表現が難しいですが、白っぽく曖昧な世界。ここが何処なのか、うまく認識することが出来ないようです。もしかしたら黄泉の国なのかもしれません。
取り敢えず分かるのは、僕が死んだって事だけですね。
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どれぐらいの時間が経ったのでしょうか。僕はずっとここにいます。でも飽きません。どうやら飽きる、という感情を喪失しているようです。死んだからでしょう。考えると今の僕は至極冷静です。全く感情の起伏が無いのです。これが死後の世界なのでしょうか。穏やかですね。
おや、人が来たようです。人では無いとは思いますが、仮にAさんとしておきましょう。Aさんは僕に近付いてきました。
「事故死なのですね。可哀想に……。」
Aさんは喋っています。それも日本語で。死後の世界でも日本語が使われるのでしょうか。まさか生前の世界では英語が世界共通言語であっても死後の世界では日本語が世界共通言語なのでしょうか。まさかー。それは無いですね。
「貴方がその魂ですね。」
そしてAさんは僕を見ました。美しい女性です。それ以外の感想は感情を喪失している為に出てきませんが、美しい女性である事は認識出来るようです。長い金髪には光り輝いています。いえ、Aさん自体も光り輝いているようです。凄いですね。到底真似できません。
それはそうと質問されて無視するのはいかがなものでしょうか。やはり駄目ですね。頑張って返事をしましょう。声は出せないようです。「あー」とか「いー」とか言う意思はあるのですが、声は出ません。残念ですね。
なので縦に身体を動かしました。精一杯。生前よりも体を動かすのが難しいです。違う身体だからでしょうか。頭も無ければ、四肢もありません。これも残念ですね。
「違う魂では無いようですね。貴方には選択肢があります。一つはこのままランダムな地球での輪廻転生を行う。もう一つは希望する世界に転生を行う。この二つです。輪廻転生を行えばもう一度地球で過ごすことになります。」
僕は迷いました。どちらも捨て難いわけです。地球での暮らしは間違いなく過ごしやすいでしょう。日本で生まれるとは限りませんが、それはまた次の僕が決めることです。そして、別の世界への転生。これも興味が止みません。俗に言う異世界転生ですね。
異世界転生。心躍るフレーズではないですか?やはりファンタジーというものは夢があって良いものです。夢は無限大ですから。それが実現するとなれば捨て難いわけです。
けれど僕は決めました。よし、言いましょう。────あれ?どうやって伝えれば良いのでしょうか。僕は喋れません。意思が伝わるわけでもないようです。身体は動かしますが、それでは分からないでしょう。どうすれば……!!
ここで始めて慌てるという感情が出てきた気がします。もしかしたら感情はあるのに出ていないだけなのもしれませんね。……それは良いとして。僕は慌てふためいていました。Aさんの周りをグルグルと動いていました。目障りですね。
Aさんが気付いたのは暫く経った頃でした。
「あっ!すみません。喋れませんでしたね。────これでいかがですか?」
Aさんが何かをしたふうにも見えませんでしたが、僕には分かりました。喋れるようになったのです。これで会話が成立します。僕はすぐさま答えを伝えました。
「……べ、別の世界に行きたいです!」
上手く舌が回りませんでしたか、どうにか言葉を伝える事は出来たでしょう。意味が分からない事などは無いと思います。
するとAさんは微笑みました。選択として合っていたという事なのでしょうか。というよりも答えなどあるのでしょうか。何か裏で何かがありそうですね。ですがそれは僕には関係がない事です。
「分かりました。では詳細を決めましょう。貴方が求める世界とはどのようなものですか?」
「……どのような世界ですか?そうですね……」
僕はファンタジーは好きです。実際、生前にもファンタジー系の小説はよく読んでいました。かなりの通だと思います。それでも実際に行くとしたらどんな世界が良いか。簡単に決められる事ではありません。
「求められるのは一つの事柄ですか?」
「いえ、複数でも大丈夫ですよ。」
Aさんは首を横に振ります。要求自体は幾つでも大丈夫のようです。では、まず欠かせないのはやはりファンタジー要素です。エルフ、ドワーフ、獣人といった、種族もそうですし、ドラゴン、フェアリーなどといった、生物もそうですね。これはあくまでも第二条件です。
それよりも大切なのはやはり魔法。ファンタジーには重要な要素です。魔法でなくともスキルでも大丈夫ですね。レベルなどの制度もほしいです。これは第一条件です。
最後に付け加えるとすれば世界観でしょうか。ファンタジー要素が詰まった世界なのに現代社会。これは駄目です。勿論、ファンジーに相応しいのは中世ですね。特に中世のヨーロッパなどの街並みは素晴らしいでしょう。詳細はこれから決めるとして、まずはこれで良いでしょう。
「魔法やスキル、レベルなどの概念がある世界にして下さい。そして地球には存在していない幻の生物……例えばドラゴンやフェアリーなど、そしてエルフ、ドワーフなどの種族がいる世界が良いです。」
「それで大丈夫ですか?」
「あともう一つあります。地球での中世ヨーロッパのような世界観の世界でお願いします。それで全部です。」
「……ファンタジーがお好きなのですね。」
どうやらAさんは地球の文化にも詳しいようです。僕は素早い動きで身体を上下に動かします。Yesという意味ですね。
「探しますので少し待って下さいね。」
僕は期待に胸を膨らませました。やはり異世界転生は素晴らしいです。第二の人生が楽しみで仕方ありません。早くAさんが戻ってこないでしょうか。
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Aさんが戻ってくるまではあまり時間を必要としませんでした。大体十五分ほどでしょう。僕の体内時計がそう伝えています。恐らく間違っていると思いますが。Aさんが微笑んでいることからも見つかったのでしょう。有難い限りです。
「ありましたよ。」
やはり予想は当たっていたようです。嬉しいですね。念願の異世界転生まで残り僅かになってきたようです。
「このような世界です。」
Aさんは僕に一枚の紙を見せてきました。そこには日本語で書かれた文字が。やはり死後の世界では日本語が世界共通言語なのでしょうか。有難く読ませて頂きます。……ふむふむ。そんな世界ですか。
僕が求めた条件に合致した世界は、やはり僕の言った条件が含まれた世界でした。本当に要求を飲んでくれるようです。嬉しいですね。人口は地球よりも全然少ないです。大体十億人です。地球の七分の一程度ですね。地球の人口はまだ増えていますよ……。
そして種族。地球にも住んでいる僕達のような人はヒューマンに属するらしいです。他にも要求通りにエルフ、ドワーフ、獣人などがいますね。僕が出した要求以外にもジャイアントやピクシー、ドラゴニュートがいるようですね。魔族という種族もいるようです。やはり敵になるのでしょうか。
幻の生物も多いようです。勿論、ドラゴン。フェアリーやワイバーン、ユニコーンやゴブリン、オーガ、スライムなどなど……。こちらは沢山いますね。日本の妖怪などもいるようです。一人ぼっちにはならなさそうです。
そして僕の提示した第一条件。スキルがあるようです。では魔法が無いのか?そういう訳ではありません。魔法もスキルの一つとして考えられているのです。要するにスキルがあれば何でもできるようです。
「僕の言った要求をすべて飲んで頂き有難うございます。」
「これで大丈夫という事ですか?」
「はい。僕には十分すぎるくらいです。」
「それは良かったです。」
それと同時にAさんは微笑みました。いい加減、この女性を名前で呼ばないと失礼だとは思っているのですが、名前を知らないのです。仕方ないですよね。
「種族はどうされますか?この世界にある種族であれば何でも良いのですが……。」
「それは勿論、人間でお願いします。」
これは即答だ。僕が他の種族になるのは想像もつかないです。やはり生身の人間が一番良いと思います。これも生前が人間だったからでしょうか?
「分かりました。こちらの世界では人間は〈ヒューマン〉という種族に属するので覚えておいて下さい。では最後に私からのせめてもの土産としてこの世界で使うことの可能なスキルを一つ差し上げます。どのような効果を持ったスキルが宜しいですか?」
さて……。スキルは何にしましょうか。