冤罪と旅立ち
強力な味方……かもしれない存在を得たルシフ。
となれば、ここで悲しみに暮れている場合ではない。
外へ出ようとした直後、礼拝堂の扉が勢いよく開き、兵士がなだれ込んでくる。
ルシフとアルマンドは一瞬にして囲まれた。
「ようやく見つけたぞルシフ」
「……大臣」
髭面の男が正面から現れ、鋭い目つきでルシフを睨みつける。
「あれほど目にかけてやったにも関わらず、国を裏切り……王や勇者様にさえ仇で返しよって」
「大臣、アナタまで……」
「それにその女はなんだ? もしや仲間か? ……ならば丁度いい。両方ひっ捕らえて打ち首にしてくれる」
大臣が兵士達に合図しようとした直後、後方からひとりの男が大慌てで走ってきた。
それはルシフにとっては見知った顔であり、普段から恩を感じている人でもある。
「お待ちください大臣!」
「なんだ、お前は確か親衛隊隊長。……この私に意見するか!」
「恐れながら大臣。これはなにかの間違いです! 彼は実直で誠実な騎士です。国王陛下に忠義を尽くし、常に職務を全うしてまいりました。そんな彼が敵国と繋がっているなどありえません! 大臣、どうぞお考え直しを……! 彼は被害者です、彼の屋敷を焼き家族を殺した犯人は別にいます!」
隊長は必死でルシフを弁護した。
その姿にルシフは思わず目頭が熱くなる。
だが、そんな隊長の言葉を大臣は蠅を掃うかのように一蹴する。
「えぇい! これは国王陛下並びに勇者様の御命令である! それに逆らおうというのか? ……それとも、小さな小さな島で一日中海を眺める仕事がしたいか? んん!?」
それを言われると隊長は悲し気な表情を浮かべたまま黙り俯いてしまった。
だが、ルシフに隊長を責めることは出来ない。
むしろ、感謝したいぐらいだ。
こんな状況下で、最後まで自分の味方でいてくれた。
それだけで満足だ。
彼にも人生がある、それを自分のせいで台無しにすることは出来ない。
「隊長、もう結構です……」
「……ルシフ」
「大臣……進言いたします。此度の騒動、全ては勇者ヴェニンと戦乙女ユーリナが企てた欲望と穢れに満ちたもの。私は、無実です。私は、国に忠誠を誓いこれまで騎士としての務めを果たしてきたつもりです」
「黙れッ!」
大臣は聞く耳を持たない。
周りの兵士達もきっとそうだ。
もう、ここに自分の居場所はない。
完全に諦めがついた。
となれば、尚更ここで捕まるわけにはいかない。
そう思っていた矢先、アルマンドが飄々と口を開いた。
「おーい、話終わった? だったらもうこっから出ていいよな? お偉いさんの話って眠くなるんだよ」
相変わらず酒にでも酔っているのかと言いたいほどに自由な態度をとる彼女に、大臣がしびれを切らし更に怒鳴る。
だが、アルマンドの軽口がここで止まるはずがない。
「えぇい貴様ッ! この私を誰だと思っておる! 不埒な女め、貴様は打ち首だけでは生温い。拷問の後、市中引き回しの刑も追加してやる!」
「そんな怖いこと言うなよオッサン。オレ、アンタみてぇに物分かりの悪いバカって好きなんだ」
これには大臣も頭に血が昇っていく。
流石のルシフも彼女の軽口には引いた。
過去の歴史を遡っても、ここまで無礼千万な女などいないだろう。
「おいおい、怒るなよ! よく考えてもみろ、このご時世バカを好きになってやる女なんてそうそういねぇぜ? だが、オレは好きだ。ギュッて抱きしめてやってもいい。……これが博愛主義でなくてなんだっていうんだ? ってかむしろ、バカなのに頭いい風に見てやる方が失礼だろバーカ」
「あー……アルマンド。そろそろ黙った方がいい、うん」
頭にきた大臣が兵士に命令する。
兵士達がわっと2人に押し寄せてきた。
槍の穂先が勢いのまま、今にも貫かんとしたそのとき。
「短気だねぇまったく。ま、人のこと言えねぇか」
アルマンドが指を鳴らしたと同時に、砂を含んだ風がステンドグラスをバラバラに砕き、一斉になだれ込んできた。
兵士達や大臣、そしてその傍にいた隊長を巻き込み、城中に満遍なく吹きすさんでいく。
「な、なんだこれは!? ……く、奴め……どうやら魔術師と手を組んでいたとは」
大臣は砂と風に埋もれそうになりながらも目を凝らす。
だが、ルシフとあの女の姿はどこにも見当たらない。
完全に逃げられた。
大臣は溢れ出る口惜しさの中、風が止むのを待つ他なかった。
(ルシフ……、すまない)
隊長はひとり心内で謝罪した。
風と砂がやんで、ようやく身動きが取れるようになったとき、大臣が兵士達に彼奴等を探し捕らえるよう再度命じた。
そして、砂を掃いながら礼拝堂を後にする。
隊長はただひとり礼拝堂に残り、ふと神の像を見上げた。
「……神よ、どうか彼を御救いください」
例え届くはずがないものとしても、祈らずにはいられなかった。
同時に己の無力さを悔やむ。
彼の心の中ではまだ、あの風と砂が吹き荒れていた。
虚しさとやりきれなさを運び、思わずため息を漏らすほどに。




