プロローグ07:無謀な勇気
「…ッ!」
ちょっとした高さだった…、それに恐怖を感じる。いや少しというには大分心に余裕がないかもしれないのか、自分の心がわからなくなってくる…。
足が付かない、そして目の前の地面は思っていたよりも遠い、それが時間がたつにつれてだんだんと私の心を揺さぶってくる…
「無理だったら言っていいんだよ?」
医師のその言葉でハッとする、少し昔いやはるか昔からかもしれない、考えるにはとてもあやふやな時間だった。何度いわれても何度いわれようが、その言葉は…失敗を重ね続け、言われ続けたその言葉は…
…無理?いや、そうじゃない。少し、ほんの少しだけ怖いと感じただけだ、それだけだ。
今の高さはほんの少し高いにしか過ぎない、たった少しだ。そう自分に言い聞かせる。
だったら…今までの人生において、最初に踏み出したその一歩より大きい一歩ではない、ならすこし、たった少し動くだけ、前に体を動かす、たったそれだけ…!ならやれる、やれるんだ…!
恐怖を過去の自分で、過去の功績で踏みつける、そう思い込むことで。
身体を、少し前に、押し出す・・・!いや、押し出した!
そして、身体が宙に舞う…そして初めてその全貌を見ることが出来た。
まるで子供のような身体つき、幼く、肌の色が抜けてしまった、小さく、やわらかいのにちょっとしたことで傷が付いてしまいそうなそんな…身体だった。
髪はというと、それも色が抜けてしまっていた。かつて臨死体験をした前まで伸ばしたことがないほどに伸びた髪、それは腰よりももっと下まで伸びていた。
本当に、自分の身体なのか…?それとも他人の?
それでも確かなことは自分のこの意識だけは、この記憶だけは自分のものだ。それだけは確か…なのかもしれない、もしかしたら自分ではないほかの人のものかもしれない、でも今は、今だけは自分のものだった。
そして、まるで子供が座っていたいすから落ちてしまうような格好で、受身なんてまったく考えていないそんな格好で落下していく。
…そんな格好だったからか、また失敗をしてしまった。医師が完全にそれを受け止められるような位置でもなければ、それに対応できる、そんな状態ではない状態で落ちてしまった、思ったよりも最悪な状態で、落ちてしまった。
身体は、ベットの横斜め上にちょっとだけ跳躍しただけで、すぐ落下した。その際にまるで蛙飛びのような感じで落下してしまう。
…イタイ、尋常ないくらいイタイ…何が一番イタイかっていうと身体とか精神とか考えというよりも、その格好で大丈夫だと思ってしまった、その自分が何よりも痛い、ちょっとした無謀なほどにも過ぎるそんな勇気、それが何よりも大分尋常じゃないくらい痛かった…