表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

カッターシャツを濡らしても、雨に打たれたままで。

作者: odayaka




 少し大人の僕は、相応の背丈で横断歩道を歩く。

 停まった車のドライバーさんの笑顔に、深い御辞儀を返す。

 年少の子供たちは、頭を下げることを促されたことに少し不満げだ。

 この子たちはまだ子供だから仕方ない。

 「お礼はちゃんとしないといけないよ」

 呟く言葉がどれだけ響くのかは解らないけれど。


 ――下り坂を通り過ぎる、高校生の大人の人の姿が見えた。

 かっぱを着込むこともなく、雨に打たれて、ちょっと苦々し気な表情を浮かべて。

 自転車で駆け過ぎていく。

 目の前を、颯爽と過ぎゆく。


 正直、少し怖くて傘を握る手が震えて。


 行こうよ、と促す弟に頭を振りながら。



 雨に打たれて。


 雨に濡れながら。


 走る去る大人の背中を僕はじっと見つめていた。







―――――――――――――――――――――





 冷房をつけるべきか、消すべきか。

 考えるまでもなく、無論、点けるべきである。

 噴き出す勢いのない風を感じながら、馴れた道を走っている。


 フロントガラスを濡らす無数の水滴、それを弾き飛ばすワイパー。

 目を閉じていても突きそうな程に馴れた道。単調な道。すれ違う道に横断歩道はない。


 坂の上のT字路に連なる車の列。

 (何でお前らもっと早く家を出ないんだよ!)

 時計を見る。出社時間の二十五分前。合流する道の前に連なる車は八台程度。


 寒いな。冷房を切る。

 ローカルラジオ局のアナウンサーの軽快なトーク。毎日同じことを言ってるような気がする。

 メールを送ったことなんて一度もない――今日は久しぶりに傘を持って行った。助手席を眺める。傘はある。




 ――合流地点、丘の上。こんなところに良くも道を作ったもんだ。この先には川の上に橋を築いた。

 俺が子供の頃に架けられた橋。トランペットを掲げ持って渡った――漠然とした記憶がある。吹いていなかったことは間違いない。その記憶だけは確かにある。怠惰ゆえの挫折は挫折とは言わないが――



 横断歩道はあった。合流地点の前。そう、交通量はあるのだから、そりゃ、横断歩道がなければ危ない。

 前の車が横断歩道を跨いだ。今度は俺の番――



 横断歩道の前の白線の前で、左右を確認すると。

 入れまい、と待ち構える車の列と、ペダルを必死で漕ぐ高校生の姿が見えた。


 かっぱを着込むことを良しとせず、ただ、雨にカッターシャツを濡らしながら、世の中の全てが気に入らない、と言った顔をした彼が、目の前を通り過ぎていくのを由しとした。


 彼の背中が通り過ぎて、曲がり角で消えてしまうまで、僕は陶然とその背中を見つめていた。



 「いや、そんな濡れた格好で言ったら普通困るだろ」


 唇を突いて出る疑問に、『困らなかったよ』と子供の自分が応える。


 そっか。んじゃ、いいか。

 ――捻じ込んだ車の首が旋回をして、ハザードが二度悲鳴をあげた頃には僕は全てを忘れた。


 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なにか、あのほら、バブル期に流行ったイラスト、肩にサマーセーターみたいな、あの人のイラストを文字にしたような印象でした。おしゃれで無機的な感じ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ