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 ネイトの森から一分。


 俺達は町の近くに到着した。


 人目を避ける為、近くの茂みに身を隠す。


「今度は、きちんと付いてこられましたね。流石です。ゼロ」


「ありがとうございます。お嬢様」


 リンベルの町からネイトの森まで走ったときには、まだ音速を超える速度に付いてくる事が難しかったゼロが今回は危なっかしくもきちんと付いてきた。


 流石は龍皇種と言うべきか、順応力の高さには恐れ入る。


「さて、ゼロ。解っているとは思いますが、この町はリンベル程治安が良くありませんし、私たちの顔を知っている方々も居ません。その為、ガラの悪い方々に絡まれる可能性も少なくありません。ですが、呉々も騒動に巻き込まれないように気を付けて下さい。宜しいですね」


「勿論です。お嬢様。私も、いつまでも同じ過ちは犯しません」


「…その言葉、信じますよ」


 リンベルに居る頃、ゼロが何度かトラブルを起こしたことがあったので、町に入る前に念を押す。


 もっとも、原因はガラの悪い冒険者や酔っ払いであって、ゼロではない。


 しかし、巻き込まれる形であったとしても、俺の目的を考えるとトラブルは極力避ける必要がある。


「では、行きましょう。ログの町へ」


 俺達は、茂みから正門へ向かい、正面から堂々と町に入ることにした。


 ログの町はリンベルよりも小さく田舎である。


 しかし、町の周りを高さ3メートル程の石の壁で覆われて、更に魔物除けの結界が施されている。


 この世界において、町と呼ばれる水準の最低限は満たしている。


 ただ町の規模が小さい為、出入り口が正門と裏門の二カ所しかない。


 そして町に入るときに、一応の検問はあるが簡易的なものでしかない。


 正門を潜る前、外から中を見た俺は違和感を覚える。


 まだ朝の比較的早い時間にも関わらず、冒険者の姿が多々見受けられた。


 町の規模から考えると、明らかに冒険者の数が多い。


 少々気になったので、ログの町の自警団に所属している門兵に尋ねてみた。


「おはようございます。朝早くからのお勤めご苦労様です。いきなりで大変恐縮なのですが、少々お伺いをしても宜しいでしょうか?」


 門兵に冒険者ギルドから発行されたライセンスカードを提示する。


 門兵はカードを適当に確認すると、笑顔で答えてくれた。


「あぁ、おはよう。何だい?お嬢ちゃん」


「ありがとうございます。では伺いたいのですが、まだ早朝にも関わらず冒険者の方々の姿を多々お見受けするのですが、何かあったのでしょうか?」


「あぁ、その事か。……お嬢ちゃんは、噂を聞いてここに来たんじゃないのかい?」


「噂ですか?。いえ、存じ上げません」


「そうか。ま、Fランクじゃ仕方ないか。あぁ…『カムリの洞窟』って言っても解からんかな。この町から南に少し行った所に初心者向けのダンジョンがあるんだが、10日程前にそこで珍しいアイテムを見つけた冒険者達がいてな。それを聞きつけた冒険者達が集まって来てんのさ」


「なるほど……珍しいアイテムですか」


「見たところ、お嬢ちゃんは魔術士っぽいが、冒険者としては、やっぱり気になるかい?」


「そうですね。まだ駆け出しではありますが、珍しいアイテムと聞くと挑戦してみたくなりますね」


「そうかい。なら、カムリの洞窟に行くときは気をつけな。モンスターは勿論だが、冒険者の中にも質の悪い連中が居るかもしれんからな」


「ありがとうございます。御忠告、感謝致します」


 俺達の会話はその後も少し続いた。


 冒険者のライセンスの提示と、軽い自己紹介を済ませるだけで、門兵は意外と簡単に情報をくれた。


 町に到着して直ぐに有益な情報を聞けたのは僥倖である。


 俺達は門兵に礼を述べ、その場を後にした。


「ゼロ。此処からは分かれて行動します。良いですね」


「…分かれて、ですか?」


「はい。私は冒険者ギルドに向かい、適当な依頼を受けてカムリの洞窟に行けるようにします。貴方は町の中で情報収集をしなさい。情報の種類は問いません。貴方が自分で判断して、私達にとって有益である情報を可能な限り集めなさい。情報の真偽は気にしなくても構いません。そして最後に、これは貴方にとって後々の為の勉強と心得なさい」


「畏まりました」


「もし、急ぎで連絡が必要は場合は思念伝達を行います。では、行きなさい」


 ゼロは静かに一礼し、俺とは逆の方向へと歩き出す。




 さて、どの程度の情報が手に入るか。


 正直なところ、大して期待していない。


 門兵から得た情報だけでも今は十分だからだ。


 しかし、今回はゼロに経験を積ませることにこそ意味がある。


 本当に情報が欲しいのであれば、俺が動く方が効率も良く確実だ。


 しかし、成功するにせよ、失敗するにせよ、挑戦をする機会を与えないことには学ぶこともままならない。


 もっとも、潜在能力で言えば人間の俺よりも龍であるゼロの方が優れている為、然程気にすることでも無いということは理解している。


 一応の育ての親である俺の、最低限の責任として、今はゼロに成長する機会を可能な限り与えているに過ぎない。 


 さて、ゼロに指示を出した以上は、俺も俺の役目を果たすとするか。


 俺は、冒険者ギルドを目指した。

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