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 実家のあるリンベルの町を出てから四回目の朝。


 俺達はリンベルの町から北西へ凡そ300キロ離れた場所にある『ネイトの森』に居た。


 そこは、実家から一番近い危険地帯と呼ばれる場所にある。


 しかし、所詮は田舎の危険地帯。魔物も少なく、たいして強い者も居ない。


 俺達はそこでテントも立てずに野宿を続けていた。


 今はまだ5月の初め、普通の人間なら風邪を引くところだが、俺達には関係が無い。


 俺達はその程度で体調を崩すほど人間味は持ち合わせていない。


 最も、俺の相方は人間ですらないのだがな。




 起床した俺の周りには小動物達が群れていた。


 本来警戒心の強い野生の動物が人に懐くことは少ないのだが、俺達に微塵も敵意がない為、俺の隣こそがこの森で最も安全な場所であると理解しているのだ。


 俺はそんな動物達を驚かさないようにそっと退かし、周囲を確認した。


「おはようございます。お嬢様。朝食の準備が出来ております」


「……おはようございます。ゼロ」


 ゼロは既に起きていた。


 どうやら、俺が起きるのを律儀に待っていたらしい。


 岩の上に座ったまま寝ていた俺は、軽く伸びをしてから岩から降りた。


「お嬢様。お飲み物は紅茶と珈琲のどちらに致しましょう」


「紅茶でお願いします」


 それだけ言い、俺は洗顔をする為に近くの泉へと向かった。


 しかし、俺がその場を離れようとすると全長3メートル程の黒騎士が付いてきた。


 俺が創った人工精霊を宿した『十二騎士』の一体『アーロン』だ。


 寝る前に一応の護衛用に召喚をしていたことをすっかり忘れていた。



「アーロン。寝ている間の見張り役、ご苦労様でした。今日はもう結構ですので、お休みなさい」


 俺が声を掛けると、跪き敬意を示し帰還した。


 一々対応が仰々しいのは、ゼロの教育の賜だと思うが、個人的にはもう少し緩くて良いと思う。


 俺個人は礼儀を重んじる傾向にあるが、自分に対しては求めていない。


 先に説明しておくが俺の内心と実際に喋っている言葉が多少異なるのは仕様である。


 外国語を訳すと多少ニュアンスが変わる程度のものと理解して頂きたい。


 そして、執事服に身を包み、俺の世話を焼くのが世界最後の龍皇種『ゼロ』である。


 今は見た目こそ人間の執事だが、変身を解くと巨大な龍の姿に戻る。


 この世界において、龍は滅びの象徴とされている為、人間の姿をさせている。ちなみに、執事の格好は俺の趣味ではなく、俺の母『クラリス』と隣家に住んでいた『リムル親子』の趣味である。


 俺がプライベートで着ている少女向けの服は俺の両親とリムルの趣味である。




 俺は森の泉で洗顔を済ませ、ゼロの下へと戻る。


 森の開けた場所に椅子とテーブルが置かれ、朝食を準備し側に控えている執事。


 それは少女向けの本に出てきたシチュエーションを思い出させる光景であった。


 ただ、普通に考えればかなりシュールである。


「今朝はサンドイッチですか。旅立つ前に多少の蓄えは準備したとはいえ、よく材料がありましたね」


「はい。この森には魔物が殆ど生息していない為、新鮮な果物も多数育っていたので探索の途中に採取しておきました」


「なるほど、中に入っている果物は此処で取った物でしたか。では、頂きましょうか。ゼロ、貴方も席について一緒に食べなさい」


「はい。お嬢様」


 普通の主従関係ならば一緒に食事を取ることはないのが一般的ではあるが、俺とゼロは主従というよりも親子の関係に近い。その為、基本的に食事は一緒に取ることが多い。


 そもそも、此処には俺達しか居ない為、人目を気にする必要も無い。そして、一緒に食事を取る方が効率も良い上に、お互いに余計な気を遣う必要も無い。


 分かれてれ食事を取る意味も必要も無いのだ。


「「いただきます」」


 一応の礼儀として、俺達は食事の前の挨拶は欠かさない。

 例え親子のような関係であっても、感謝の気持ちを忘れてはいけない。と、教えているからである。


「お嬢様。お食事中に申し訳ありませんが、本日の予定を伺ってもよろしいでしょうか?」


「構いませんよ。……そうですね。この森の探索はもう良いでしょう。三日掛けて隈無く探索しましたが、特にめぼしい物もありませんでしたし、次は近くの町で情報収集でもしてみましょうか」


「畏まりました」


「では、此処から東に50キロ程離れた所に小さな町があるので、取り敢えずはそこに行ってみましょう」


「はい。お嬢様」


 俺達は近くに居た小動物にも少しずつ食べさせる。


 パンや果物の欠片を頬張る動物達は実に微笑ましい。


 平和な証拠である。



 それでも俺達は10分程で食事を済ませ、早々に町へ行く準備を始めた。


 準備と言っても、俺が接近戦向けの戦闘服から魔術師向けの魔道服に着替えるだけである。これは、俺が冒険者ギルドには『精霊術士』で登録しているからだ。


 俺は地元では無能者で通していた上に、武術を嗜んでいる事を知っている者が身内しか居なかった為、契約精霊が居るという嘘を捏ち上げた。その為、俺は契約精霊の力を借りて何とか魔術が行使できる三流魔術師となっている。


 故に、余計な誤解を避ける為にも服装を替える必要がある。


 とはいえ、魔術を使えば着替えも一瞬で終わる。


 人目を気にせず魔術の行使が出来るのは楽で良い。


 俺の着替えも一瞬だが、ゼロの片付けも一瞬だった。


 椅子やテーブル等を『アイテムボックス』に収納し、ゴミの類いを『分解』の魔術で原子分解したのだ。


 実に手際の良い執事である。


 ちなみに、アイテムボックスとは俺が造った魔道具の一つで、異空間に道具を収納出来る術式を容易に展開できるようにしたリング型のアイテムである。


 そして分解の魔術は、読んで字の如く、物質を分解する魔術である。


 それなりに難しい術式ではあるが、色々と使い勝手良いので、俺がゼロに教えた魔術の一つである。


 準備を終えた俺達は、早速町へと向かうことにした。


「さてと、食後の軽い運動と行きましょうか。離れずに付いてきなさい」


「……善処致します」


「では、行きますよ」


 そして、俺達は町に向かって音速を超える速度で駆けだした。

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