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 この物語は救済の物語ではありません。


 私の姉『ソフィア』が自らのエゴを貫いた過程と結果の物語です。


 姉は異世界からの転生者だった様です。「だった」というのは、私がその話を聞かされたのは全てが終わった後だったからです。


 姉の真意を、私は勿論、両親や姉の眷属達ですら、誰一人として理解していませんでした。


 それでも姉はエゴを貫くために、全てを捨てる覚悟で最後まで戦い抜いたのです。


 『誰かのため』ではなく、『自分のため』だからと。




 私の知る限りで姉の事を話します。


 姉は前世の記憶を持たずに転生をしたと聞きます。


 ただ、産まれながらにして強大な力を持っていたそうです。


 代表的な能力として『英知の図書館』というものがあり、この能力のよってこの世界のみならず異世界の知識も多く得られたと聞きます。更にこの能力には『自動修正機能』が付いているらしく、誰か、あるいは何かから情報を得たとき、図書館の記録と違っている場合に教えてくれるそうです。


 おそらく、姉だけが『世界の異変』に気が付いたのはこの能力があったからではないでしょうか。


 結果として、姉は世界を救ったと言っても過言ではない働きをしました。


 しかし、人類からすればそれは決して救われたとは言い難い結末でした。


 姉が冒険者として旅に出たときには全世界の人口は150億人と言われていましたが、僅か6年ほどで

人口は40億人ほどに激減しました。


 更に、世界地図も大きく変わり、地図から消えた大陸もある上に、至る所に凄まじい戦いの傷跡が残っていて、全世界の3割ほどの大地が失われたのです。


 住む場所や食料等は確保されていましたが、生き残れた人達も手放しで喜べるものではありませんでした。それほど失われた物が大きすぎたのです。


 そもそも、失われた命の半分は姉が奪った物です。結果しか知らない人々の目には、さぞかし姉はおぞましい存在に映ったことでしょう。


 私を含め、姉を慕っていた者達で理由を知っている者達は激しく遺憾を覚えました。しかし、理由を伏せる事も姉の計画の一部だったため、理由と意味を知るが故に私達は何も出来なかったのです。


 その為、姉は後に死の象徴とされ『OverKill』と呼ばれることになります。


 それはもはや、象徴ではなく死そのものと言っても過言ではないほど不名誉な形で世界に名を残すこととなったのです。




 姉の物語を語る前に、姉が冒険者になる前のことも少しお話ししましょう。


 姉は新暦320年5月3日、父『グレン』と、母『クラリス』の長女として、『アスティネス大陸』東部にある『ジークリンデ王国』の南部『リンベルの町』で産まれました。


 しかし彼女は、産まれてから2年もの間を産声や泣声一つあげずに眠り続けていたようです。


 原因は今でも不明で、姉以外に誰も真相を知りません。


 姉が目覚めてからは両親に溺愛され、とても大切に育てられました。


 そして、姉には本当の家族のように接してくれる4歳年上の『姉』と呼べる人物『リムル』と『シルヴェリア』が居ました。




 当時、『リムル』は隣家に住んでいました。


 魔法学で功績を残し魔道貴族としての地位を賜った『アスベル家』の次男『レイス』と妻『イスカ』、そして一人娘の『リムル』の三人で暮らしていました。


 レイスは結婚を機に、貴族の名を捨て、田舎であるリンベルの町に引っ越して静かに暮らすつもりだったそうです。


 しかし、何の因果か、リムルはこの300年間に10人も居ないとされるほどの魔力を産まれながらに保有していました。おそらく、それも姉のいうところの『異変』の一つだったのかもしれません。




 『シルヴェリア』は町の中央付近に在る『リベリオン家』の別邸に住んでいました。


 シルヴェリアは祖父である『ボレアス』の命により、リンベルの町に住んでいたそうです。


 リベリオン家とは、アスティネス大陸の三大国の一つ、ジークリンデ王国の『当代の国王』の側近にして剣聖の称号を贈られた一族です。ちなみに、王国には二つの聖剣『リベリオン』と『ファルシオン』があり、それにちなんで剣聖の家系も二つあります。




 剣聖ボレアス・リベリオンの孫であるシルヴェリアがリムルと同年代に産まれ、近所に住んでいて、更に親友であったことは正に運命のいたずらだったのかもしれません。


 そして、冒険者だった両親から産まれたため、平民であったはずの姉がそんな二人と懇意にあったことは、『異常』だったと言えるでしょう。


 余談ではありますが、後に『大賢者リムル』と『剣姫シルヴェリア』の名は世界に知らない者が居ないとまで言われるほど有名になります。


 そんな特別な二人と一緒に育つ内に、姉の疑念は大きくなっていたそうです。


 しかし、それは仕方の無いことだったと思います。


 世界でも希有な能力と才能を秘めた二人ですら、姉には赤子同然だったのですから。


 そのせいでしょう。姉が『無能者』と偽っていたのは。


 アスティネス大陸内では各国と同盟が結ばれていて、その中の一つに『その年に6歳の誕生日を迎える全ての子供は各国の責任の下で魔力測定を受ける』というものがあります。


 姉は、その測定で『測定不能』を出し、魔力適正無しと判断されました。


 当然です。この測定は賢者と呼ばれる方々ですら完全に魔力を隠すことは不可能とされていて、ましてや6歳になったばかりの子供が完全に魔力制御を出来るなどと誰が思うでしょう。


 姉が無能者ではなく、異常者だったと知っていたのは両親とゼロ、リムルとシルヴェリアだけだったようです。私も知りませんでした。




 そして同じ年、姉の疑念が確信に変わる出来事がありました。


 それは、絶滅したはずの存在『龍皇種』の発見です。


 龍皇種とは創造神が世界の救済のために造った特殊な龍の総称です。


 その能力は従来の龍種を遙かに凌駕している上に、次の代へ能力を継承するという有り得ない能力を持っています。つまり、親から子へ、子から孫へと継承し、代を重ねるごとに強さを増すのです。


 しかし、龍皇種はある日を境に討伐されだしたのです。


 その驚異的な能力を恐れた者達が、恐怖に駆られ武器を取ったのです。


 龍皇種は最強の種族ではありましたが、無敵ではありませんでした。


 代を重ねて強さを増すのであれば、その前に倒すしかない。


 産まれる前か産まれたばかりの所を叩けばいい。と、1000年の時を掛けて人類のみならず、数多の種族が龍皇種の討伐に躍起になったそうです。


 しかし、彼だけは生き延びたのです。


 彼の両親と大自然に愛され、大切に大切に守られていたのです。


 そして、そんな彼の孵化に姉は立ち合ったのです。


 姉は産まれたばかりの彼に『ゼロ』と名付け、生き残る術と知識を教え、立派な龍皇に育てるために家に連れて帰りました。


 始めは両親に猛反対されたようですが、姉の説得とゼロの知性の高さから両親を納得させたと聞きます。


 私は当時産まれたばかりだったのですが、ゼロを怖からず、懐いていたそうです。


 それから2年間はゼロを鍛えるついでに、リムルとシルヴェリアにも稽古を付けていたと聞きます。


 12歳になったらリムルは王立魔法学院へ、シルヴェリアは祖父の元へ帰る事になっていたようです。


 ならば、その前に少しでも二人のために何かしたいと姉は思っていたようです。




 二人が町から居なくなった後、姉は直ぐに旅の準備を始めました。


 まず始めに、庭に小さな小屋を建て、空間を歪める術式を施し、中身を全くの別物の工房へと魔改造しました。


 姉はその工房で4年の歳月を掛け、じっくりと旅の支度をしていました。


 姉の持つ武具と人工精霊などはこの時に造られたそうです。


 今できる最善を尽くし、最高の物を作り上げると勇み勤しんだ結果、姉はとんでもない物を作り上げていました。


 姉の主な武器は三種のカタナとガントレットにブーツです。


 カタナには、それぞれ魔力、霊力、気力に適した作りになっていて、それぞれ適したチカラを通すことによって真価を発揮するという代物でした。


 素材はヒヒイロカネを主体とし、マナタイトと魂鋼たまはがねを組み合わせた圧縮合金です。


 重量にして500キロあったと聞きます。


 武器である以上、それなりの重さも必要。というのが姉の言葉だったそうです。


 本来、軽さも売りの一つであったはずの金属に圧縮に圧縮を重ねて強度を上げ、更には刃の重心すらも調整したカタナはアーティファクトと呼ばれる高性能な武具すら凌駕する代物に仕上がっていました。


 正に異世界の知識を基に、魔術と錬金術の粋を結集させた武器と言えるでしょう。


 そしてガントレットとブーツですが、こちらは素材こそカタナと同じでしたが、割合が大きく異なっていたようです。


 ただ、こちらの武具に関して私は詳しいことは知りません。


 ゼロが言うには、『お仕置き』の時によく使っていたそうです。


 姉が着ていた服もそうですが、燃えたり、濡れたり、凍ったり、破れたり、損傷したところを見た者はおらず、何かしらの付与魔法等が掛けられていたはずなのですが、知っている者は一人として居ませんでした。


 しかし、姉の身に着けていたもの全てが常識では有り得ない代物であったことは誰もが知っています。


 そして最後に、姉が造った高位の人工精霊を宿した『十二騎士シュヴァリエ』ですが、この十二体は言わば隊長騎士です。十二体それぞれが独自の思考と戦闘スタイルに能力を有していて、個々が一国の戦力と同等といわれる程の化物でした。


 そして、騎士とは名ばかりで、その姿は殆どが人とは呼べない姿をしていました。


 その容姿は歴戦の戦士ですら、戦場で相対したならば戦慄を覚えたといいます。


 更に、十二騎士の下に『軍勢レギオン』と呼ばれる低位の人工精霊を宿した騎士達を姉は造りました。


 軍勢は個々の力は隊長騎士と比べれば遙かに劣るとはいえ、全ての騎士達の意思は隊長騎士に統括されているため、連携に乱れなどあるはずもなく、それが千や万を超える数で攻めてくるため、使い方次第では隊長騎士すら凌駕する戦果を上げる化物の部隊です。


 これら全てを僅か4年足らずで造り上げた上に、自身の鍛錬も怠らなかった姉は、この地点で既に世界征服できるほどの戦力を有していたのです。




 こうして姉は過剰とも言える程の準備を整え、12歳の誕生日を迎えた翌日にゼロを連れて旅に出たのです。


 世界の異変を調査するために……。

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