#5
「少年よ、本契約を結ぶのか?」
僕の部屋の中で聞き覚えのある声が耳に入る。
ふと見たら彼が寝床にちょこんと腰をかけていた。
「……って……一体全体いつからいたの!?」
「少年が家に入った時からだが?」
「もしかして、僕と母さんの会話も聞いてたということになるよね!?」
「すまないが、話はすべて聞いていた」
「もう!」
ああ……僕が家に着いてからの会話とか、すべて彼にバレバレ。
まさか、彼が僕のあとを追っていたことには気づかなかったよ……。
今までそれに気づかなかった僕は鈍感だ。
本当に鈍感だよ。
「ところで、俺がどのような思いで少年のところに来たのか知りたくないか?」
僕が「知りたい!」と答えると、彼はこう続けた。
「簡単に言うと、仮契約を結んだところから、少年は俺に興味が沸いてきたかどうかなのさ」
「えっ!? 興味が沸いてきたか、そうじゃないか、が基準なの!? 僕はてっきり「負の感情」が基準かと思っていたから……」
実際にそうだ。
僕はずっと「負の感情」が基準かと思っていた。
しかし、彼は「興味があるかないか」と答えていたため、内心単純だなあと感じていたりする。
「まぁ、あとからになるが、依頼主である少年との信頼関係もあるからな……」
「ところで、出会ってからすぐに本契約を結んだ人っているの?」
「俺ではないが、他の奴だけど人かはいるんじゃないのか?」
「そ、そんなにあっさりと結ぶ人っていることが意外すぎるよ」
実際に速やかに本契約を結んだ人も意外といるんだなぁ……。
おそらく僕みたいに仮契約を結ぶところから始まりということが多いのかもしれない。
僕は彼に「よろしくお願いします」と告げた。
「本契約だな? もう後戻りはできないぜ?」
「はい。僕は復讐さえできればそれでいい。そのあとの僕はどうなってもいいから」
「よし、契約の成立だな。よろしくな、少年」
「はい」
僕は悪魔と本契約を結ぶ。
そして、僕の死へのカウントダウンが今、刻々と始まろうとしている――――。
2016/12/10 本投稿