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【6】

「……というわけです。以上で、僕たちがル・シェネにて活動した任務の報告はすべてです」

 そう言い終わったユージーンと揃って、カフォラは姿勢を正す。

「了解した。その後の詳しい状況は、追って現地の支援要員から入るだろう。二人ともご苦労だった」

 オーベルリートの労いに、二人は頭を下げる。

 カフォラたちがいるのは、オルテン第九師団詰所の師団長室だった。

 カフォラとユージーンがル・シェネから師団の宿舎に戻って来たのが、この日の午前中。しばらくの休憩を挟んで、午後の遅い時間に師団長オーベルリートの元へ任務完了の報告に来ていた。

 もちろんその休憩の間に、カフォラはいつものようにばっちりと身支度を整えている。

 動きにくいドレスではなく、自分にぴったり合った制服に着替え、長い髪は真っ直ぐ艶やかに梳り、落ち着いた笑顔も備えて、第二分団の優等生カフォラとして遜色ない出来上がりだ。

 だが、そうやっていつも通りの準備をしながらも、カフォラは内心でいつもとは違う戸惑いを抱えていた。

(おかしいわ。これから久し振りにオーベルリート師団長にお会いできるというのに、どうしていつもみたいに、気持ちが弾まないのかしら)

 もちろん、オーベルリートに会うのが嫌だというわけではない。色々とあったものの、ひとまずは無事に任務を全うして帰着できたので、報告に困るわけでもない。ユージーンと並んで報告するのは嫌だが、オーベルリートの前でなら我慢できる。

 負の要因はないはずなのに、オーベルリートとの対面に以前ほど気分が跳ね上がらないのが、なんだか落ち着かない。

(オーベルリート師団長にお会いできるのよ! 一番楽しみにできることでしょう、カフォラ!)

 そう自分に言い聞かせて、気分を盛り上げようとしたが、いまいち盛り上がりきらないまま、面会の時間を迎えていた。

 師団長室の前で、ユージーンと待ち合わせる。久々に見たユージーンの制服姿は彼に馴染んでよく似合っていて、ほんのしばらく見入ってしまった。

 そんなカフォラを我に返らせたのは、ユージーンから掛けられた言葉だった。

「ああ、君はその制服が一番良く似合うね。ドレス姿も悪くなかったけど、その方が君には合ってるよ、カフォラ」

「な、何よっ。もう夫婦のフリは必要ないでしょ! そんな甘ったるい台詞!」

「……別に、演技じゃなく、本心なんだけどね」

 ユージーンのその呟きはカフォラの耳には入らなかった。空々しい甘やかさを振り払うように、師団長室の扉を開けて先に入室する。

 師団長室には、任務を受けたときと同じく、オーベルリート一人しかいなかった。

 実際にオーベルリートの姿を目にしても、やはり今一つ盛り上がりきらない気持ちは、直前にユージーンにからかわれたせいだと思うことにする。

 そうして、ユージーンと交互に、ル・シェネでの任務について報告したのだった。

 報告も終わったので、退出しようかとしたところで、オーベルリートが少し態度を砕けたものにして問いかけてきた。

「それで、第一、第二分団の優等生同士で組んだ初めての任務だったわけだが、どうだった? 互いの感想は?」

 執務机に座ったオーベルリートに、興味深そうな視線で見上げられて、カフォラはすぐには答えられなかった。

 その沈黙をどう思ったのか、オーベルリートはユージーンに先に目を向ける。

「そうですね。さすが皆が噂するだけあって、とても優秀な相棒だったと思います。彼女の直感に素直なところは、僕にはない点なので、一人きりの任務とは異なる経験もできました」

 捉えようによっては貶されているとしか思えない評価に、カフォラは心の中で思いっきり眉をしかめる。

(何よ、その嫌味ったらしい言い方はっ)

 だが、オーベルリートは特段、ユージーンの発言に疑問を持たなかったようだ。

「そうか。自分とは違う仕事の遣り方を見るのも、いい体験だからな。カフォラはどうだ?」

「わ、わたしも……ユージーンの任務を完璧にこなそうとする点には、見習うところが多かったと思います」

 なんとか好意的な感想を捻り出したカフォラに、オーベルリートは満足そうに頷いた。

「二人ともに得るものがあったのなら、良い機会だった。またそのうち、二人で組むこともあるかもしれないが、その時も今回のように上手く連携してくれると助かる」

 『それは無理です!』と喉元まで出かかった声を、カフォラはぎりぎりで飲み込んだ。代わりにユージーン同様にもう一度、姿勢を正す。

 それでオーベルリートとの面会は終わった。

 師団長室を出たカフォラは、気持ちのもやもやが収まらなくて、裏の庭園に足を向ける。いつものように一人きりで気分を落ち着けるつもりだった。

 だが、背後にユージーンがついてくる気配を感じて、気分を鎮めるのは諦めた。

 庭園に出て、他の師団員の目が届かなくなってから、カフォラは振り返って声を荒げる。

「なんなのよ! どうして人の後をついてくるの!?」

「そんなつもりはないよ。この庭の樹はちょうどいいって言っただろう。休憩しに行くだけだ」

「じゃあ、わたしは行かないわっ」

 そうして建物内に戻ろうとしたカフォラを、けれどユージーンが呼び止めた。

「待って! ……さっきのオーベルリート師団長の話だけど」

「何?」

「『またそのうち組むことがあるかもしれない』という件だよ。……僕も、また君と組めることを期待しているから」

 青紫の瞳が正面からカフォラをじっと見据えてきて、カフォラは息を飲む。

 その瞳に絡められそうになりながら、それでもカフォラは寸前のところで堪えた。

「わ、わたしは嫌よ! もう、あなたと組むなんて冗談じゃないわっ!」

「冷たいなぁ」

「何とでも言って。とにかく、あなたとの仕事はもうご免よ、ユージーン!」

 ぴしりと指を突き付けて、そうはっきりと告げると、カフォラは身を翻した。

 足音も高くユージーンから離れながら、けれどカフォラも頭の片隅ではわかっていたのだ。

 きっとそのうちまた、ユージーンと組む機会が訪れ、そして自分はそれを受け入れてしまうだろうことを——

 

 

 

 

 


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