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神様のごちそう  作者: 石田空
番外編
77/79

むかしばなし・三

 あたしは正座してその話を聞いて「はぁ……」とか「ふうん……」とか、間抜け過ぎる相槌を打ちながら、それらを聞いていた。

 まさか現世と神域の間、あんなところになにか住んでいるなんて思ってもいなかった。でも昔はもうちょっといろんなものがいたとは聞いたことがあるから、現世に隠れ住むことができなかったなにかが、隠れ住む場所を探していたら、そんな辺鄙なところになってしまったのかもしれない。

 でも……意外だなと思ったのは、もっと人に対して興味がないのかと思っていた御先様は、案外いろんな人のことを覚えていたことだ。

 あたしが普段床下を漁って使わせてもらっているもの……味噌だったり、干物だったりも、つくっているのを知っていたんだな。いや、あたしが醤油つくっているのも御先様は察していたから、意外と知っているのかもしれない。


「あの、御先様」

「なんだ」


 声をかけてみたものの、どう聞いたものかと、あたしは「あー」「うー」と口の中でごにょごにょしてから、意を決して口を開いた。


「御先様って、人間好きですか?」

「嫌いだ」

「あー……」


 思わずがっくりとうな垂れる。御先様の性格上、ストレートに聞いても欲しい答えなんてくれる訳ないのになあ、あたしの馬鹿ぁ。

 うな垂れたあと、しばらく御先様は口を結んでいたけれど、やがて、開いた。


「好いているときもあるし、それだけとは言っていない」


 その言葉に、あたしは心底ほっとした。

 好きの反対が嫌いなわけはない。むしろ好きなもののほうが嫌いになりやすい。本当にどうでもいいってものは、視野にも入れないし、なんの感情も浮かばないことだ。

 御先様は、人間が嫌いで、好き。本当にそれで、それ以上に意味はないんだろうな。

 あたしがにこにこと笑ってしまっていると、御先様は憮然と目を細める。


「笑う部分がどこにあったのか」

「い、いえ! ただ安心しただけですので」

「なにがだ、そんなに」

「本当に! こっちの話ですから!」

「……ふむ、そうか」

「あ、御先様。質問です」

「なんだ」

「付喪神や、氷室姐さんみたいな居候が来たのって、いつ頃のことなんですか? 付喪神は、神在月のお祭り目当て……でしたよね?」


 あたしが思ったことを口にすると、御先様は黙り込んでしまった。……もしかしなくっても、地雷を踏んだのかなあ。思わず御先様の顔色を伺っていたけれど、御先様は「ふむ」と言いながら顎をしゃくっただけだった。

 なんだ……単純に思い返していただけみたい。あたしはほっとしつつ御先様のほうに視線を送ると、ようやっと御先様は口を開いた。


「そこまで面白い話でもないぞ」

「面白いとか面白くないとかは、いいです。御先様の話をお聞かせください」

「……そうか」


 思わず身を乗り出すのに、御先様は顔色ひとつ変えることなく、淡々と語り出した。

 そういえば、長いこと話をするのははじめてだなあと、今更ながら思う。いや、単純に互いの言いたいことを言っているだけなんだけれど、そもそも会話が成立しないことのほうが多いから、まあいいや。


****


 付喪神が住みはじめた頃か……。

 我が力が出てままならなくなった頃、烏丸が広間に入って来たんだったか。

 あれは我がほとんど動けなくなってからも、社の面倒を見ていたし、神域に入ってくるものの窓口にもなっていたからな。


「御先様、ここで働きたいというものたちが来ましたが」

「……払えるもんなんてないぞ?」

「一緒に神在月の宴に連れて行ってほしいんだそうです」

「……そうか」


 対価を支払わなければ、それ相応の願いは叶えられない。なまじ神在月の宴には神しか集まらないものだから、付喪神も普通の方法では入ることはできない。だからこうして神域に居候させてもらっては、神在月の宴に入る口実を探る。鍬神の場合は食材を運ぶことだし、火の神の場合は勝手場の火の番だな。

 我は行きたくはないが、行きたいと言っている者を止める気もない。そのまま放っておいたら、気付いたら勝手に増えていたわ。

 氷室のの場合は、ちょっと様子がちがったがな。

 あれは社を持たぬ身だから、あちこちでふらふらとしているよ。何故うちに住み着いているのかはよくわからん。

 あれが氷室の面倒を見る代わりにこちらが支払っているのは、あれの秘密を探るなというものだ。

 訳がわからない? ああ、人だとそう思うか。

 古いものはいつか朽ち、その上に新しいものが出来上がる。温故知新……古いものから学んで新しいものをつくる……それができればまだ幸せだが、人間というものは古いものを壊して、それらをなかったことにして新しいものを打ち出すということはよくある話だ。

 恐らくは、氷室のも我と同じで、忘れられかけている神なのであろう。社を持たぬということは、社と契約していないことであり、既に人間から祀られてはいないということだ。

 食事をたまにするのか、と言われてもな。

 あれは滅多に広間には来ぬし、我もあまり氷室には長居はできぬ。神在月の宴であれば、他の神もいるからそれなりに近くにいられるが、我らはあまり相性がよくないから、互いに長居はできぬから、互いに顔は合わせても、滅多に共に膳を食べることはできぬよ。

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