むかしばなし・二
烏天狗だったころはどうだったのか、か……。
昔から、現世と神域を行き来しておった。烏丸はしょっちゅう行き来しているだろう。あんな具合だ。我の神域に住まう烏天狗は、大分減ったがな。
住まう社の神の世話になっている以上、普通に社の世話をする者もおれば、現世に見聞に向かうものもおる。
我はそれなりに現世を見に行っていたよ。
行くたびに、様子が変わるのが面白くもあり、恐ろしくもあったな。
木の家が気付けばどんどん減っていく様も、夜でも明るくなったのも、気付けば道が石を流し込まれて固まったのも、不思議なものであった。
神を決める儀式のことは、やはりあまり覚えてはおらぬが、皆で並んで、すぐりを食べさせられた。それで当たりを引いたものが神になった、はずだったな。
それが神になることなのかと聞かれると、どう答えたものか。社と契約できたか否か、が、神になるならないになるはずだ。
それで選ばれたんだ。そのときに、名前を忘れた。社から与えられたのが「御先」という総称だ。
烏天狗をやめて神になり、なにか変わったのか、か……。
わからんな。強いて言うなら、腹がよく減るようになった。神は供えられた物でなければ食べたことにはならぬ。烏天狗ほど自由にあちこちを行ける訳でもなく、社を管理するのが仕事で、それ以外はほとんどできなくなったな。
神になったことを恨んだことはないのか……か。別に。……くどい。別に嘘などついてはおらぬ。本当に、別に他の者を恨んだ覚えはない。
ただ、神在月の宴だけは億劫だった。なにやら力の強い弱いを決めたがる者はどこにだっている。それは神域も現世も同じだという、それだけの話だ。
神在月は、ただときどき宴に参加して膳を食べ、そのあとは適当に引っ込んでいた。なにやら力を見せつけるようなものは、面倒くさくて叶わないからな。
今まで現れた料理番の話、か?
ふむ……。何故そこで身を乗り出す。そちがつくりたいものをつくればいいだろうが、そこで真似をしてもしょうがなかろう……模倣も技術を学ぶ上には必要な……。
別にそこまで学ぶものがあるとは思えんぞ。
烏丸が一番最初に連れてきたのは、老人だった。ひどく怒っていたな。元は麺をつくっていたらしいが、ここでは材料が足りないと憤っていた。
仕方がないから、味噌をつくりつつ、海魚が欲しいと近くの神域までもらいに行き、他の神域に肉をもらいに行って、なにがなんでもつくると頑張っていた。麺自体は雑穀小屋にあるものを使って頑張っていたようだな。
あれは美味かったがな、その料理番は腰をやられた。烏丸は慌てて腰を見れる者のところに連れて行って、そのあと現世に帰還させた。一応腰を治したから、向こうでもまた麺をつくっているとは思うが。
次に連れてきたのは子供だった。こちらはわんわん泣きながら、必死で川魚を焼いている者だったな。やけに川魚に詳しい者で、釣りに行ってはそれでなにかをつくっていた。やけに床下に干物が多いのは、あれがつくったものが原因だろうな。




