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神様のごちそう  作者: 石田空
番外編
74/79

女神の戯れ・五

 あれ以降、たびたび蛇神殿はわらわの神域に遊びに来るようになった。話すことは他愛のない話。今日はこんな願いを叶えたとか、こんな奉納があったとか。

 庭で花が咲いたとか。たくさんある場合は、わらわが蛇神殿の神域に向かう場合もある。彼は花を手折ることをためらうのだ。

 それでも神在月のたびに巫女殿の無体な真似を働こうとしては、わらわが怒るというのを繰り返しているが、今のところはうまくいっていると思う。どうせ神在月なんて年にひと月しかないのだ。残りの季節と比べれば、大したことなんてない。

 今はこうして、ふたりであいすくりんをすくっている。蛇神殿は相変わらず、御先殿の料理番が苦手らしい。


「変化に富むものが好きではなかったのか? あの子はずいぶんと面白いと思うがな、わらわには」

「ふん。あの小娘は好かん」

「また訳のわからない拗ね方をして……」

「……貴様があの小娘を好いてるからだろう?」


 はて。どういう意味かと思って一瞬考えたが、本当に珍しいことだとまじまじと彼の顔を眺めてしまった。


「なんじゃ、その顔は」

「……それは、やきもちか? 本当に珍しい」

「知らぬ」


 はあ、道理で。普段頼みごとをしても、嫌なものは嫌だと跳ねのける癖して、今回はずいぶんと素直に聞いてくれたものだと思ったら、そうか。そういうことか。

 普段はわらわが怒ってばかりだというのに、蛇神殿にそんな感情があったことなんて、長い付き合いでも知らなんだ。

 本当に珍しいこともあるものだと、わらわは笑うと、またも拗ねたように唇を尖らせてしまった。


「茶はないのか?」

「今出すよ」


 たゆたう波の音を聞きながら、今しばらくは楽しめそうだと微笑んだ。


****


「えー……海神様と蛇神様ー? うん、りんのいうところの付き合ってるってやつじゃないのかい?」


 御先様の神域に飛び込んで、さっき海神様の神域で見たものを洗いざらいぶちまけてみたら、あっさりと氷室姐さんは答えてくれた。

 それには兄ちゃんもぎょっとした顔をしている。


「あのさ、蛇神様って、あれだよな。無茶苦茶女好きの神様……だったよな?」

「そうだよ! 腹立ったから思わず喧嘩売っちゃった人だよ! 海神様、なにもあんな人と付き合わなくっても、他にいい人いなかったの……」


 あたしと兄ちゃんでギャーギャー言っていたら、それを聞きながら氷室姐さんは「うーん……」と髪を揺らした。


「でもねえ、あたしの知ってる限りじゃ、神様同士って、あんまり逢引きとかしないよ?」

「え? 思いっきり、普通にふたりでお茶してましたけど……」


 あまりにも信じられない光景だったから、なにかしらあたしはショックを受けてそう思い込んでるだけなのかしらんとか思うけれど。

 挙動不審になっているあたしに、氷室姐さんはマイペースに酒粕アイスをしゃくしゃくさせながら続ける。どうも氷室姐さんが気に入ってくれたみたいだし、これは新デザートとして採用してもいいかもなあと思う。


「珍しいもんだよ。本当に。でも基本的に海神様は見る目ないんじゃないかってえのは、女神間でも言われてるけど、面と向かって言ったのはいないはずさね」

「えー……止めないんですか?」


 やっぱり見る目ないって言われてた……。でもなあ。あたしは帰る間際に見た海神様を思い返してみる。元々綺麗な人だけれど、蛇神様とふたりのときはもっと綺麗なんだよなあ。恋しているからとはちがうと思うけれど……。

 それに蛇神様は、神在月で巫女さんたちに手を出そうとしてたじゃないか、とついつい思ってしまう。あれのどこがいいんだ、とは思うんだけれど……。

 本人たちが幸せだったら、やっぱりなにも見なかったことにすべきなのかな?

 あたしが「うーんうーん」と唸ってしまったら、氷室姐さんはマイペースに答えてくれた。 


「うん、人の恋路を邪魔するやつは、牛に蹴られて死んじまうんだよ?」

「……牛なんですか?」

「牛だねえ」

「馬じゃないんですね?」

「牛だよぉ」


 ……うん、わかんない。神様って、本当に人間と全然ちがう価値観で生きてるなってこと以外、よくわかんない!

 頭を抱えようとして、兄ちゃんはひと言言う。


「お前さ、それよりもさっさと蒲団片付けてきたらどうだ? 蒲団持ったまんま世間話とか、聞いたことねえよ」

「はっ! そうでしたそうでした。それじゃちょっと蒲団片付けてきまーす! もうちょっとしたらご飯の用意!」

「おーう、頑張れー」


 ふたりにそう言って、あたしはいそいそと蒲団を持ってうちの小屋へと走っていった。

 今晩のご飯は、この間つくった干物があるから、それを使って混ぜご飯つくって、豆腐食べちゃいたいから、豆腐を崩して汁物にして……そう考えていたら。

 珍しいものを見て、思わず足を止めた。

 まっ白な髪が揺れている。御先様が珍しく、広間から外に出ていたのだ。あたしが持っているものを見て、少しだけ目を瞬かせる。


「なんだそれは」

「ええっと! 蒲団が燃えました。だからちょっともらいに行っていました」

「……は?」


 ……うん、そんな反応になっちゃうよね。あたしががっくりと肩を落とした。

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