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神様のごちそう  作者: 石田空
祭り囃子編
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宮司はどこに消えた・一

 人参、里芋、レンコン……。水道をひねれば水が出て、ちょっとひねればお湯も出る。文明の機器万歳と思いながら皮を向いて、それぞれを煮る。

 ガス台が三つあるというのもありがたい。火の神は分裂できるけど、釜戸は二つまでしかなかったもんなあ……。神域で慣れたと思った料理の手順も、こっちに戻ってきたらこっちの手軽さに夢中になってしまう。それでも、火の神みたいに言ったらとろ火にしてくれる事もないから自分で見ながら調整するしかないんだけどね。

 切ったレンコンを酢水で煮てあくを抜き、里芋と人参を色が抜け落ちないように気をつけながら合わせ出汁であくを抜きつつ煮る。

 鶏肉も別鍋で煮てから、器に盛りつける……んだけれど、ここであたしは出来上がった筑前煮を炊飯器のご飯に入れて、握り始めた。

 お父さんとお母さんは未だに店だから、今の内に行ってしまわないと。

 もやしは火を通したらすぐに食べないとしなっとするから、味噌汁作りは後回し。あたしは握ったおにぎりをタッパに詰めて、走り始めた。


「あれえ、梨花。ホントに見つかったんだ。久しぶり!」


 どうして行かないといけない場所がある時に限って、知り合いに会うかなあ。中学時代の友達と会うたびに手を振って立ち話をしてから去り、あたしが神社に着いた時には、すっかりと空が暗くなってしまっていた。

 神社の辺りには相変わらず人がいない。皆が皆、怖がってるもんなあ……。その事を考えながら、あたしは鳥居をくぐり、賽銭箱の前に、タッパを供えて、タッパの蓋を取り払った。


「……御先様、今日のご飯になります。家族に見つからないようにこっそりになったから、簡単なものになってしまってすみません」


 おにぎり以外は、どうやって持っていこうかな。

 神様は湯気を食べると言う。現世の湯気が神域を通ったらどうなるのかは分からないけれど、うちの店でいつも神棚に食事をお供えする時は、湯気が立っている内にお供えし、湯気が消えたら取り払うと言うのをいつもやっている。

 あたしは賽銭を入れ、手を合わせてそうぼんやりと考えていた所で。


「うん、合ってるなあ」


 その声に、思わず顔を上げた。


「あ、烏丸さん」


 いつもの修験者の格好そのままで現れた烏丸さんに、あたしは思わず頭を下げると、烏丸さんはいつものように快活に笑った。


「驚いた……あたしがこっちに帰ってきたら、もう神域に行かない限り帰れないのかと思った」

「俺がここの神社の管理をしているのは、前にも話しただろうが」

「あー……そう言えば言ってたような、言ってなかったような」


 うん、ごめんなさい。言われるまで忘れてました。

 一番最初にそんな話が確かにちらっとあったなと思っていた所で「で」と烏丸さんが切り出す。


「お前さんがやろうとしている祭りって言うのは、そんな簡単にできる事なのか?」

「それですけど……簡単にはできないと思います。お年寄り連中は皆ここの神社の話をしたがりませんし、神社が放ったらかしにされたって言う例も、あたしあんまり知りませんから。あたしが生まれるより前に、ここの神社の宮司さんがいなくなってから、ここの管理ができなくなったって言う話は聞きました」

「ふうむ……なるほど。地元民もあんまり知らないんだなあ……」

「烏丸さんは、ここにいますけど。あたしよりここの神社の事はよっぽど詳しいんじゃないんですか? 少なくともあたし、烏丸さんに聞くまでここの神社の正式名称すら知りませんでしたよ?」

「ここの神格が落ちてる影響だなあ……」

「え?」


 神格が落ちた影響で、御先様に影響があるって言うのは聞いたけど。ここの管理をしている烏丸さんまで影響あるもんなの?

 あたしは訳が分からず目をぱちくりとさせていたら、烏丸さんが続ける。


「俺もずっとお使いとして神域と現世を行き来しているが、神域より先には出られないんだ」

「ええっと? ここって現世……ですよね?」

「違う違う。神社に人間が決めた神域って言うのがあるのは知っているかい?」

「ええっと……?」


 人間が決めた神域? 人間が神域って決めていいもんだったの? あたしがクエスチョンマークいっぱいで烏丸さんを見ていたら、烏丸さんが答えてくれた。


「注連縄なり、鎮守の森なり、鳥居なり。人間はここまでだったら神がいてもいいって神に貸し与えている領域がある。一方で、それ以上は神も侵してはいけないって場所も存在する。それが人間が決めた神域だ」

「ああ、つまり烏丸さんは、鳥居より外には出られないって事なんですね?」

「そういう事だ。前はこの町一帯には出られて、拝殿にかけられた願いのために動き回れたんだが、今はこの体たらくと言う訳さ」

「なるほど……でも人間がかけた願いがあったら、動けるんです?」

「まあ……烏天狗は本来、等価交換の法則とは外れてるはずなんだがなあ……御先様の力が弱くなっている影響で、そうなってるな」

「ふうむ……」


 相変わらず神様のルールってややこしいな。おまけに知らない内に人間が決めたルールにも縛られていると言う訳か。

 でも、逆に言ってしまえば。

 あたしは財布から小銭を取り出すと、賽銭箱に放り投げた。そのまま鈴をからんからんと鳴らす。


「あたしに烏丸さんを貸して下さい。お祭りする際に、必要なんです」


 あたしがそう言うのに、烏丸さんは驚いたように目を見開く。


「おいおい……それでいいのか?」

「うーんと、あたしそもそも宮司さんがどうしていなくなったのか知らないんですよ。その辺りの事情を知りたいから。それに普通お年寄りって信心深いんで、神隠しが発生する前だったらずっと神社に通っていた人はいるはずなんです。その人達探すの、手伝って下さい」


 言ってる事が、我ながら行きあたりばったりだなあとは思うけど。

 何もしないよりはマシ。

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