表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様のごちそう  作者: 石田空
神在月編
35/79

お茶菓子を準備しよう

 その日の賄いは、きのことしじみの炊き込みご飯をおにぎりに握って、それを皆で玄米茶を飲みながら食べる事になった。ちょっと固めに握ってそれを炭火で表面焼いてみれば、いい具合におこげができて、においも香ばしさも格段に上がる。

 我ながらうまくできたなあと思いつつ、食べ終わってしまったら夜まではやる事がない。と、言うより。最初の三日間が濃過ぎたんだ。いきなり朝餉係になったり、御前試合をする事になったりなんて……。

 さて、困ったなあ。お米を研いでしまったら、もうやる事がない。

 あたしはポテポテと廊下を歩きつつ、中庭を見る。

 ずっとここを見てるけれど、緑が広がっている。狐の嫁入りのおかげで綺麗に生え揃っている苔に、艶々した針みたいな葉をつけた松。枝は太めで、多分これが盆栽だったら、ものすっごい値段になりそう。わびさびが効いているって言えばそれまでなんだけれど、季節感がないんだよなあ……。

 これは出雲大社にある神域だからそうなのかな、それとも伝統のある神社の神域って、皆こんな感じに格式ばってるの?

 あたしの知ってる神域なんて、御先様の神社の神域位だけれど、あそこは季節感が滅茶苦茶になってしまっているから、いまいち参考にはならない。

 でも今が神在月って事は、秋なんだから、もうちょっとこう、紅葉が見たいなあって思うのはあたしだけかなあ。

 紅葉、銀杏、はまだ早いかなあ。でも彼岸花もこの時期だったような気がする……。

 そう思いながら廊下をぽてぽて歩き、仕方ないから自分の部屋で今日の料理の事を日記にでも書こうかなあと考えていた時。廊下を軽い足音が響いてくるのに気が付き、あたしは振り返った。

 氷室姐さんがにこにこ笑いながらこちらに手を振って来たので、あたしは思わずぺこりと頭を下げる。


「ああ、いたいた! りん、あんた今暇かいっ!?」

「暇って……まあ、まだ夜までは暇なんですけど……」

「そりゃよかったねえ、今から女神でお茶会する予定なんだけどさあ、あんた、茶菓子は作れるかい?」

「はっ……茶菓子……ですか?」


 そりゃもう。

 ここの材料があったら何でも作れる、とは思う。

 流石出雲大社と言うべきか、ここの食糧庫はないない尽くしだった御先様の食糧庫よりはよっぽど潤ってるから。でもあたしも簡単なお菓子だったらともかく、女神様のお茶会用の茶請けなんて、何食べるのかって言うのがまだ分からないんだけどな……。


「ええっと……お茶会って、何ですか?」

「男連中は酒ばっか飲んでればいいんだけどねえ、あたし達は酒飲んでくだを巻くよりも、男抜きでお茶を立ててまったり甘いもの食べてた方がいいって話さねえ……」

「ああ、抹茶の」


 そうは言われてもなあ……とあたしは困る。

 茶道のお菓子って、基本お茶菓子って言われてるけど、生菓子って呼ばれるタイプと、干菓子って呼ばれてるタイプ。

 どちらもが、美味しければいいってタイプじゃなくって、まずは見た目を楽しむって言うのが作法としてあるから、前に御先様に出したずんだ白玉とは訳が違うんだよなあ……。

 正直、料理はやってても和菓子職人とはやってる事が全然違うあたしには荷が重い。


「あたしにはちょっと難しいなあって思うんですけど……」


 そう言ってちろっと氷室姐さんを見てみるけれど、氷室姐さんは動じない。そりゃ、氷室姐さんは気難しい御先様とも普通に暮らせる訳だから、ちょっとやそっとの事じゃ動じないんだよなあ……。


「あー……蛇神みたいに威張りくさってる奴もいるから、気にしてるんだねえ。構いやしないよ。あたし達だってそりゃ見目だって気にするけど、甘いものを何となーく食べたい時だってあるさね。小さい菓子じゃなくって、手掴みで食べられるような、ね」

「はあ……手掴みで食べれ……」


 そこまで考えて、ふと思った。

 手掴みで食べられるものだったら、確かにそこまでこっちがプレッシャー感じなくっても大丈夫だとは思うけど。でも冷める時間考えないと、お茶の時間に間に合わないんじゃ……。出来立ては美味しいけど、熱すぎて手じゃ持てない。


「えっと、また勝手場借りれるか伺って来ますけど、お茶の時間っていつからとか決まってますか!?」

「いつからか? まあ、日がまだ白いうちかねえ……」


 ……ここ、時計の概念ないのかな。でも神様達は多分分刻みのスケジュールでは動いてないし、無茶苦茶長い時間生きてるから、あんまり意味がないのかもしれない。

 でもよくよく考えれば、あたしも時計を気にした事ないから、おんなじもんか。よし。あたしは「ころーん!」と呼んでみると、ころんがころころと寄って来てくれた。


「それじゃ、ちょっと食糧庫行ってきて、考えます!」

「ああ! 嬉しいねえ。それじゃ、こっちもお茶の用意をしておくから」

「はい!」


 女神様の女子会って奴なんだよなあ……。でも手掴みでもいいって……。どんな事するんだろうと戦々恐々としつつ、ひとまずは材料を調達する事から考える事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ