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神様のごちそう  作者: 石田空
神在月編
34/79

朝餉の準備

 次の日の朝も、あたしは日の出前に起きて、食糧庫まで歩いて行く。狐の嫁入りを見送りながら、今朝の朝餉の献立を組み立てる。

 前はトマト麺、その次はあたしが作ったのじゃないけどお茶漬けに南蛮漬け、じゃあ次は何を作ろう。胃に優しくて、栄養があり、夜の宴会まで腹が持ってくれるもの……。食糧庫を探してみたら、しじみがあったけれど、しじみ汁って言うのだけでは腹に溜まらないし、だからと言って大量に材料を追加して炒め物にしてしまったら、油が原因で胃が荒れてしまう。椿さんが漢方を処方していた位だから、神様が全員お酒に強いとは考えない方がよさそう。

 さんざん考えた結果、ころんに手伝ってもらって大量のしじみに、昆布、きのこを持っていく事にした。お酒は兄ちゃんのもの、醤油はあたしが御先様の神域で作ったものを使おう。お米はまた炊かないと駄目だけど、余ったものは全部皆で賄いとして食べればいいや。

 しじみは塩水に漬けて砂を吐かせ、その間にお米を研いでおく。取って来たきのこを食べやすい大きさに裂いておく。きのこ類は包丁を使うよりも手でちぎった方が、香りが強く残る。

 ある程度砂が吐けたのを確認してから、しじみの実をくり抜くと、お釜にお米と一緒にしじみを入れ、お酒と醤油を混ぜる。その上にきのこをふわっと乗せて蓋をした所で、あたしは火の神に声をかけてみた。


「ねえ、火をつけて。ご飯ね」

「おおー。ん? 前に御先様に作ったみたいに、炊き込みご飯なのか?」

「うん、しじみご飯。しじみは酔い覚ましに効くらしいから」


 火の神は「おー!」と嬉しそうに火を膨張させると、くぷくぷと音を立ててご飯を炊き始めてくれた。後は火の神が温度調節してくれるとして。あたしはお盆の上にそれぞれ和紙を敷くと、その上に紅葉を散らした。その上にお椀を並べていく。

 やがて、鼻をひくりと動かすと。きのことしじみの出汁をたっぷりと吸ったご飯が、醤油で香ばしいにおいを添えて、美味しそうに炊き上がっているのが分かる。それにあたしは安心すると、手を急いで洗って、塩水で手を湿らせた。


「りんー、ご飯炊けたんだぞー……ん、ご飯握るのかあ?」

「うーんと。本当はそのままお茶碗に盛るのも考えたんだけれど」


 急いでご飯をしゃもじでかき混ぜると、それをぎゅっと握る。熱々のご飯を握ると皮膚がヒリヒリと痛むし、時には皮膚が火傷で破れる事もあるけれど、それに気付く事もなく、一心不乱にご飯を握って、お皿に盛りつけていく。今日も中庭は狐の嫁入りが通過したおかげで、庭木が程よく湿り、庭に並べられている岩が綺麗に苔むしている。朝一番にここを通ると分かるけれど、ここでお茶とかって飲まないのかしらん。それとも神様って、庭木を愛でるものじゃないの? 確かに御先様もしょっちゅう引きこもって庭の畑を見ているのなんて、見た事ないけどさあ。


「神在月って、十月で、秋でしょう? 庭木を愛でながら朝餉をどうぞって意味なんだけれど。もし必要ないなら、玄米茶を付けるから、それでお茶漬けにしてしまえばいいんだし」


 お椀におにぎりを載せた後、それぞれに小さな茶瓶を添えていく。そこにはたっぷりの玄米茶だ。しじみのすまし汁……って言うのも考えたんだけれど、それは流石に昨日負けたからって、柊さんの鮭茶漬けを意識し過ぎだ。

 そうこうしている間に、巫女さん達が朝餉を取りに来てくれた。それぞれお盆を持って去って行くのを見ながら、今度はまかないの準備をしないとと、ひりひりした手をもう一度塩水につけた。

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