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神様のごちそう  作者: 石田空
神隠し編
10/79

器材はある中で考える

 豆腐って言うのは、実は保存が利かない。手作りするにしても躊躇してしまうのはそこなんだよね。もし凍らせてしまったら、それは高野豆腐で、確かに出汁が上手く染みておいしい煮物が出来上がるんだけれど、豆腐のつるつるとした食感がなくなってしまうんだよね。

 豆乳があるんだったら、それをにがりで固めてしまえばすぐにできるんだけれど、残念ながらそんなものがない以上は、大豆から作るしかない訳で。厨に戻ってきてみたら随分と水分を吸って膨らんでいた。本当はミキサーがあれば楽なんだけれど、ないものはしょうがない。あたしは溜息をつきつつ、水分を吸った大豆の水を捨てると、新しい井戸水を汲んできて、大豆をひたひたになる程水を被せた。それをすり鉢に入れて、徹底的にすり潰す。水を含んでるんだから大分柔らかくはなってるけど、煮豆よりも硬いに決まっている。あたしは腕をぱんぱんにしながら、そりゃもう丁寧にすり潰し始めた。


「今度は何を作ってるんだ、りんー」


 あたしが竈に戻した火の神は暢気に声あげるのに、あたしはすりこぎ振り回しつつ答える。


「豆腐作ってるの。ええっと、豆腐は知ってる?」

「とうふ……? うーんと、本当に大昔だったら、平べったい乾いた奴だったら炊いた事があるぞ」

「ああ……多分それは湯葉じゃないかな」


 流石に神社に奉納も、豆腐をそのままする訳にはいかないだろうから、湯葉じゃないと出せないんじゃないかな。多分豆腐屋さんだったら豆腐を奉納する事もあるだろうけど、豆腐屋の減った今だったら、奉納されてる場所も限りがあるんじゃないかなあ……。うちの商店街だったらどうだろう。豆腐屋さん、昔だったらあったのかしらん。神社に奉納された時もあったのかな。


「湯葉? 出汁で煮た奴を食わせてもらった! 美味かった!」

「うん、やっぱり湯葉だろうね」


 確かに豆乳を炊いたらその被膜が湯葉になるけれど、そんなに沢山作れるかな。もしできたら、それで何か作ってあげたいけど。

 汗をかきながらも、大豆は大分綺麗に潰れてくれた。ペーストって言う程どろどろはしてないけれど、豆乳よりももっと濃いものができあがった。後は火の神のいる竈に火をつけてもらって、井戸水を張った鍋に、その大豆を潰した液体を注ぎ入れる。それを木べらを使ってしっかりと混ぜ合わせるのだ。白いつるんとした見た目と、濃い大豆の匂いがたまらない。火の神は火の調整がガス並に強いから、しっかり混ぜないとすぐに鍋底が焦げてしまうし、苦い味の混ざった豆腐は流石に御先様にも食べさせられない。火が通った途端にふつふつと盛り上がって鍋から漏れそうになるのに、あたしは火の神に「ちょっととろ火にして」と頼んで火力を緩めてもらい、更にどんどんとかき混ぜていく。盛り上がりが落ち着いてきた所で鍋を一旦火から降ろして、用意していたもう一つの鍋に布を張ったものに中身を入れて漉すのだ。これで残った大豆がおからで、下に流れて中身の漉されたものが豆乳って訳だ。おからはそのまま卯の花として食べられるけど、豆腐で作ったものよりもボソボソする味わいになるから、流石に御先様に出すのは躊躇われるなあ。

 豆乳も、これがあったら色んな物が作れるんだけれど、今は豆腐作りに専念ね。できた豆乳に、海神様の所からもらってきた出汁と一緒にもらった瓶を開ける。その瓶に納まっていたのはにがりだ。塩を作る際に一緒にできあがるものだけれど、これを豆乳に入れたら、豆腐ができるのだ。

 おからを取り除いた豆乳を再び火にかけ、あたしは木べらで味見をしながら温度を計算する。完全に沸騰したら、熱過ぎるし、ぼそぼそとした豆腐ができてしまう。だけどぬる過ぎたらそもそも豆腐が固まらない。湯葉ができる直前で火から降ろして、にがりを加えてそれが全体に浸透するようにゆっくりと混ぜる。表面に上澄みができたのを確認してから、木綿を敷いた型にそれを流し入れた。水分をじっくりと出す事で、豆腐は豆腐になるのだ。

 木綿を使っているから表面が固めの煮物にも耐えられる豆腐。これがもっと薄い布を使って表面をつるんと仕上げられたら絹ごし豆腐になり、豆腐メインの料理になるんだけれど。


「まっしろになったね、だいずなのに」


 隅っこでころんと遊んでいたくーちゃんがひょこんと出来上がりつつある豆腐を眺めながら首を傾げるような仕草をした。……あー、くーちゃんの首はどこかね。あたしにはさっぱり分からないよ。そう思いつつ、あたしは仕上げに瓶に水を張りつつ笑った。型には重りとしてさっきできあがったおからを入れた器を乗せておく。それでじっくり余分な水分を抽出するのだ。


「ああ、そうだね。大豆の茶色いのは全部皮だし。皮はおからで、それはそれで料理の材料になるけど、豆腐みたいに真っ白ではないよ」


 その間に、おかず考えてしまわないと。豆腐にしなかった分の豆乳を小さな鍋に入れて煮つつ考える。にがりを入れてしまったら、そのまま豆腐になってしまうから避けておくのだ。豆腐はそのままいただいてほしいし、醤油だって御先様に味を見てほしい。表面にできあがった湯葉を器に取りつつ、あたしは豆腐を見た。余分な水分が抜け落ちたのを確認してから、仕上げに瓶に豆腐を落とす。後は水に浸けて、余分なにがりを取り払えば、お手製豆腐の完成だ。豆腐と湯葉をメインにするとなったら、他のたんぱく質はもっとあっさりさせないとなと、あたしはそればかり考えていた。

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