恋人はメイドロボット
ここは近未来、日本の某所。
実にいい時代になった。
最近取り寄せたばかりのメイド型ロボットさゆりが
身の回りの世話を何でもしてくれる。
とは言ってもこの時代では料理も掃除も洗濯も
みな全自動で簡単に済まされるので
家で必要なパートナーの世話は
主に対面コミュニケーションだけ。
その一部として性欲の処理がある。
僕の場合には労働もさゆりに任せて
昼間は室内で本を読んだり
ゲームをしたりして遊びほうけているので
丸っきりロボットに頼り切っていることになる。
さて、彼女が仕事から帰ってきた。
「おかえりさゆりちゃん、今日も遅いね。お仕事忙しかったかい?」
「うん、実験がなかなか終わらなくてね〜!あとちょっとで完成なんだけど…」
彼女には優れた人工知能が搭載されていて
国家機関で科学者をやっている。
ロボットがより優れたロボットを作ってゆく時代だ。
「もこみつ君〜!疲れちゃったから早くマッサージして〜!」
「はいはい、ちょっと待っててね(笑)」
彼女は掛けていた眼鏡を外して頭を伏せる。
メンテナンスも兼ねて
彼女の体をこうやってマッサージするのが僕の日課だ。
そのままmake-loveしてしまうこともある。
食卓には僕専用のゼリー状飲料と彼女用のカレーライス。
最近の僕の食事はもっぱらこのゼリー飲料。
特別これが好きじゃないし
違うものが食べられないわけじゃないんだけど。
どうしてこれを飲み始めたんだっけ?
「ああ^〜!そこ気持ちいい〜!今度は私が代わってあげるね!」
「ははは、お願い」
彼女は知的好奇心の強いロボットで
僕のあちこちを揉みほぐしながら尋ねてくる。
「室外には出てないわよね?」
「うん、大丈夫だよ。仕事はさゆりちゃんに任せてるから(笑)」
昔の僕はもっと活発で運動を好んでいたような気がするけど
いつからかこのような生活を二人で続けている。
「何か最近変わったことはあったかしら?何か漠然とした疑問というか…?」
「え、何のこと?特に異常も疑問もないよ?」
「そう…」
彼女の声色が暗くなるのにいつも気付かないがわけなかった。
でも僕は彼女に余計な情報を与えることで
余分な演算処理の負荷で人工知能の寿命を縮めたくはなかったので
最近よく抱かれる漠然とした疑問も押し殺していた。
だがこの日の彼女の様子は少し違った。
「私、もこみつ君と別れたくないの!本当の、本当の、本当に何も疑問に思うことはないの?(半泣)」
「う、うん」
僕の反応を見て彼女の目の色がさらに変わった。
「もしかして私に心配掛けたくないとか考えてるんじゃない?お願いだから本当に正直に言って?」
「…実は」
僕はいくつかの点で持った疑問を正直に話してみた。
彼女はこうやってまるで人間の女の子みたいに
感情を露わにすることがたまにある。
「もこ君すごい!!やっぱり私たちの予想は間違ってなかったんだわ!」
輝きを増して見える彼女の眼鏡。
僕たちの平和な日常はこうして末永く続いたのだった。
僕が鉄屑になるまで。
ロボットだったのは彼女ではなくて僕の方だった。