006 お泊りイベント
前の後書きの答えです。
an=1、2、6、12、20……とする。
この時、この数列の階差数列は、
bn=1、4、6、8……
∴n≧2の時、bn=2n
よって、この数列の一般項は、n≧2の時、
Σ[k=1〜n-1]2k
=2*{n(n-1)/2}
=n(n-1)
n=1の時、1(1-1)=0
これは、anの初項とは一致しない。
よって、n=1の時an=1
n≧2の時an=n(n-1)
俺はあのあとイルカと別れ、先ほど来た武器屋とは別の道具屋で50Gで砥石というアイテムを買った後、宿を探してさ迷っていた。
ちなみにこの砥石についてだが、これは斬撃系の武器の耐久度を回復するアイテムだ。チャクラムは投擲武器では珍しい斬ることを目的とした武器なので、しっかり使うことができる。
武器に限らずアイテムには全て耐久度が設定されており、それが零になるとそのアイテムは消滅する。
それと、武器を修復するためには、それに対応した制作系スキルが無ければならないのだが、これはクラスを変えてからで無いと得られないそうだ。まあクラスを変える条件のスキルに大抵は武器系のスキルがあるから、そこは問題無い。チャクラムも手裏剣やクナイと同じで忍具に分類されるそうなので、大丈夫だ。
「どこも満室だな。畜生、こんなことなら、もっと早く宿を確保しておくべきだった。」
そうぼやきつつも、俺は宿探しに奔走する。ちなみにこれまで五軒ほど回ったが、どこも満室だった。こりゃ今日は野宿を覚悟するべきか……
そんなことを考えながら歩いていたせいか、前方不注意になっていたようで、まあ詰まるところをいうと、誰かにぶつかったようだ。
「おっと、すみません。」
「気にしてないからべつにいいわよ。ぼうっとしてたようだけど、どうしたの?」
ぶつかったことにたいして俺が謝罪すると、女性のものと思われる声が聞こえてきた。
少し俯いていた顔をあげると、そこにはだいたい俺と同じくらいの身長ので、青い髪を肩口あたりまで伸ばして、作業着のようなものを着た女性がいた。顔は可愛いと綺麗の中間くらいで、年の頃は俺より少し下くらいだ。ちなみに俺は今年で二十歳だったりする。それと、何がとは言わないが、あれの大きさは、C寄りのBくらいだ。
「いえ、ちょっと宿を探してるんですが、中々見つからなくて困ってたんです。」
「そういえばどこも満室ね。いいわ、ここで会ったのも何かの縁だし、今日は私のところに泊まりなさい。」
彼女が唐突に言ったその言葉に、俺は驚いた。それはもう盛大に驚いた。驚き方の教科書があったらそれに載るんじゃないかと思うくらい驚いた。何を言ってるのか分からなくなってきたが、それくらい驚いたのだ。
「いいんですか?俺みたいな見ず知らずの男が泊まっても。」
「べつにいいわよ、どうせハラスメント防止コードでたいしたことはでき無いでしょ。それに対価もしっかりもらうから、問題無いわよ。」
ハラスメント防止コードというのは、過度な身体的な接触が起ころうとすると、バリアのようなものが張られて触れた対象を弾き飛ばすコードだ。設定をいじれば無くすことができるらしい。
なるほど、確かにそれなら損はないな。だが、対価というのが気になるな。
「その対価というのは、具体的には何でしょうか?」
気になったので聞いてみた。
「簡単な話よ。あなたが持ってる素材を半分頂戴。それで泊めてあげるわ。」
素材系のアイテムを半分か。うーん、まあ今は使い道が無いから全部売却するつもりだったし、べつに問題はない。問題はないのだが、稼ぎが半分になるのが何ともな。でもそれで一宿泊めてもらえるなら、安いと見るべきか?
そんな感じで今日の稼ぎと宿を天秤にかけて暫く悩み、結論はこうなった。
「そういうことなら、甘えさせてもらうことにするよ。俺は海月、クラスは忍者だ。」
そういって俺が差し出した手を、彼女は握る。握手程度なら、ハラスメント防止コードは発動しない。
「私はエレナ、クラスは防具職人よ。よろしく頼むわね。」
そうして握手をしてお互いに自己紹介をした後、フレンド登録をしてそれからエレナの宿に向かった。
――――――――――――
エレナが泊まっているという宿は、木造建築(オーランの建物は全て木造なので、当たり前だが)の二個建てだ。
中は、一階が丸テーブルがいくつかおかれていてカウンター席なんかもある食堂で、客室は二階だ。
そして、今俺がいる場所は、エレナが泊まってる部屋だ。リアルでの女性との接点は、母と妹とくらいしか無かったから、少し緊張してたりする。ちなみに部屋の場所は、一番奥だったりする。
「あなたは最初に森に行ったのね。どれも草原では見かけなかったアイテムだわ。」
俺は今、エレナの部屋で約束通り素材を渡すべく、今日の狩りで手に入れた素材を部屋の丸テーブルに広げてエレナに見せている。
「素材はもちろん渡すが、俺に拒否権くらいはくれよ。」
「私もそこまで鬼じゃないよ。どうしても嫌なら別のにしてあげる。そうね、じゃあこれとこれとこれ、後これも一つもらおうかしら。」
そういってエレナが選んだ素材は、ビックビーの蜜蝋やフェイスツリーの枝といったモンスタードロップ品各種に、楠の枝に粘土という森の中で採取できたアイテムだ。採取品については、町や村に入ると識別されるらしい。
「蜜蝋はちょっと惜しいが、まあまた後で取りに行けばいいか。いいぜ、やるよ。」
「よし、交渉成立ね。にしてもあなた、少し喋り方変わってない?」
エレナにそういわれてみて気づいたが、いつのまにか喋り方が元に戻ってたらしい。
「ずっとあれは堅苦しくて疲れるから、いつのまにか戻ってたみたいだな。あのままの方が良かったか?」
「いえ、こっちの方が気さくでいいわ。そろそろご飯を食べに行きましょ。」
エレナにそういわれ、俺達は一階の食堂へと下りた。
――――――――――――
「何かオススメのものとかあるか?」
俺とエレナは今、宿屋の食堂の丸テーブルの一つに向かい合うようにして座っている。
「私も利用するのは初めてだから、分からないわ。というか、皆初めてよ。」
「そりゃそうか。まだ一日目だもんな。何でもいいからとりあえず注文しようぜ。」
「あ、自分の分はちゃんと払ってよ。さすがにそこまで面倒見れないわ。」
「分かってるって。ちゃんと払うよ。」
そんなやり取りをしつつも俺達はどちらともサンドイッチを注文をした。具はカツのようなものだ。味は、そこそこおいしかった。値段は10Gだ。にしても、こうしてるとまるで恋人みたいだな。
「ふふっ、こうしてるとまるで恋人みたいね。」
あっ、同じことを考えていたっぽい。
こうして俺達の食事は終わり、部屋へと戻った。
――――――――――――
部屋に戻ると、俺はイルカと別れる前に、このゲームはネトゲの一種だから、使えないのはログアウト機能だけで掲示板やWikiなどを見たり、メールの送受信といった一連のネットの機能は使えるといわれたことを思い出し、妹にメールを送っている。
――――――――――――
From:世界一嫌われてる兄
To:世界一嫌いな妹
Sub:一応の報告をしといてやる
なんかメールは利用できるみたいだから、一応大丈夫だといっておく。
まあ俺は元々一日十数時間という単位でプレイしようと思っていたから、たいして状況は変わらないな。
まあ、大嫌いなおまえの顔を見ることも声を聞くこともないと思うと、そこは結構でかいな。
お兄ちゃんはせいぜい大好きなゲームを楽しませてもらうよ。 じゃあな、できればもう二度と会いたくない妹よ。
――――――――――――
「送信っと。」
「ねえ、あなたと妹さんって、仲悪いの?」
俺が送ったメールを見たエレナが、顔を引き攣らせながらそう聞いてきた。まあ普通はこういう反応をするわな。
「顔を合わせると息をするように罵詈雑言を言い合う程度には悪いな。」
「それって最悪じゃない!」
「いいんだよ、俺達はこれで。」
エレナとそんなやり取りをしてると、返信が来た。
――――――――――――
From:世界一嫌いな妹
To:世界一嫌われてる兄
Sub:わざわざご苦労さん。
そういえばあんた今閉じ込められてるんだったね。
大好きなゲームをやっててそんな目に会うとはいい様ね。
こっちだって大嫌いなあんたの顔を見ることも声を聞くこともないと思うと、清々するわよ。
まあでもお父さんとお母さんは心配してるから、戻って来たら「お兄ちゃん大好き!」とでも言って抱き着いてあげるわ。感謝しなさい。
できれば一生帰ってこなくていいわよ。
――――――――――――
気持ち悪っ!あいつが俺に「お兄ちゃん大好き!」とか言いながら抱き着く!?想像したら吐き気がした。現実なら多分吐いてるな。
そういうことならこっちも……
――――――――――――
From:世界一嫌われてる兄
To:世界一嫌いな妹
Sub:それはありがとよ
そんなことをしてくれるなんて、お兄ちゃん嬉しくて涙が出ちゃうよ。
なら俺も戻ったら、「おお、可愛い妹よ、会いたかったぞ!」とでも言いながら抱きしめながら頭でも撫でてやるよ。泣いて感謝しろ。
――――――――――――
これでよし。
「送信っと。」
そのあとも俺は、エレナに呆れ顔で見られつつも妹と罵詈雑言のやり取りをした後、寝た。もちろんエレナがベッドで寝て、俺は床で寝た。 にしても、妹との息をするような罵詈雑言のやり取りも暫くはメールでか。それはそれで少し寂しいな。
女の子とお泊りとか、何このリア充爆発しろ。
初の女性プレイヤーは、生産職です。
それと、この兄妹はちょっとした訳ありです。まあたいしたことではありません。