005 クラス変更
俺とイルカは、露店5Gで買ったパンを食べながらメインストリートを北に向かって歩いていた。目的地は神託所だ。
この世界の金についてだが、通貨はG、まあありがちだな。
金を手に入れる方法は主に二つ、一つはNPCないしプレイヤーの店でアイテムを売る方法、もう一つはモンスターから得る方法だ。
モンスターを倒すと、各種のアイテムをドロップするほか、Skill Point通称SPと金を得ることができる。
Skill Pointというのは、新しいスキルをとるのに必要なものだ。得られる量は、ベータテストで進んだところまではどのモンスターもボス以外は1で固定らしい。なかなか世知辛い。
金はそのままなので、割愛させてもらう。敵によって量が違うらしい。ちなみに森の場合は、ビックビーが一体7G、フェイスツリーが一体10Gだ。単純計算で今の俺の所持金は、7×7+10×7−5で154Gということになる。
「とりあえず今は金が欲しいな。どこかにいい稼ぎ口はないかな……」
「だったら大罪のダンジョンにでも行ってみたらどうだ?」
俺のぼやきにイルカが茶化すようにそういう。
「冗談じゃない。今の段階でそんなことするのは、自殺行為以外の何物でもないだろ。というかそれ以上だ。」
イルカの茶化しに俺はこう答えた。随分と弱気な発言に聞こえるが、これには訳がある。
敵方の幹部である七つの大罪には、時期的にはいつでも挑むことができる。
ゲーム慣れしているプレイヤーなら、序盤から挑むことができるということは、怠惰のボスは相当弱いのではないかと思うだろう。ベータテストの時にもそう思ったプレイヤーはいたようで、怠惰のボスを倒すためにダンジョンに乗り込んだそうだ。
その結果は、雑魚の一匹すら倒せず死に戻り。実際に行ったプレイヤー曰く、あそこは中盤か最悪終盤に挑むべきところらしい。
何を思って運営はこんな設定にしたのかは知らないが、この情報があるので、序盤は大罪のダンジョンには近づかないのが暗黙の了解だ。物好きが何人か挑んで死に戻りしているという話もあるがな。
「それ以外となると、クエストを受けるのが妥当なところだな。」
「やっぱそれが一番か……」
クエストというのは、町や村で一定の条件を満たすと受けられるものだ。
クリアすると報酬がもらえ、その報酬は、単純に金の時もあれば何かしらのアイテムの場合もある。
「ん?ここは武器屋か。」
そんなことを話ながら歩いていると、武器屋を見つけたので、そこで立ち止まる。
「おっと、武器なら店売りよりも、モンスタードロップを狙った方がいいぜ。」
武器屋に入ろうとした俺を、イルカが引き止める。
「モンスタードロップを狙えといったって、今の段階で武器をドロップするモンスターなんているのか?それにチャクラムはマイナー武器なんだろ。それをドロップする奴なんて、ゲーム全体で見ても、一握りだろ。」
「確かにそれもそうだが、でもそれなら生産系のスキルを取って、自分で作ればいいだろ。それにここには普通の武器でもベース系の一つ上しか売って無いだろうし、チャクラムとなると、ベース系しか無いぞ。」
「それならそれで素材を集める必要があるだろ。それに今はベース系でいいから、数が欲しいんだよ。」
暫くそんな問答を続けていると、やがてイルカがため息を吐きつつこういった。
「分かったよ。そこまで言うんなら好きにしろ。」
どうやら折れたようなので、俺は武器屋でベースチャクラムを三つ買った。一つ20Gだったので、合計で60Gだ。チャクラムは投擲武器に分類されるらしいので、他の武器と比べると安めだ。
「満足したか?」
「ああ、これで漸くやりたいことができそうだ。」
呆れ顔のイルカとは対照的に、俺はほくほく顔だ。 俺の買い物が済んだところで、再び神託所にむけて歩きだした。
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「ここが神託所かあ。」
あのあと少し歩き、神託所にはすぐに着いた。
「何感慨深げに言ってるんだよ。最初にも見ただろ。」
うるさいな、そういう気分なんだからいいじゃないか。
「とりあえず入ろうぜ。」
そんなことを思いつつもそういうと、イルカは首肯し、俺達は神託所に入った。
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神託所の中は、簡単に言えば教会のようなところだった。というかまんまそれである。
入口から奥の神父さんらしき人の元まで赤い絨毯らしきものが敷いてあり、その左右には長椅子がある。長椅子にはNPCが何人か座り、祈りを捧げていた。
俺とイルカは中央の通路を通り、神父さんらしき人物……ああもう面倒臭いから神父さんでいいや。神父さんの元へと向かう。
「おまえは初めてなんだから、先にやれよ。」
イルカがそういうので、お言葉に甘えさせてもらう。
「あの、すみません。」
「神より使わされし戦士よ、何用で参った?」
神父さんに話し掛けると、こんな返答が返ってきて、視界にスキルを取得すると、クラスを返るの二つの項目が出た。
俺は先ずはスキルを追加しようと思い、スキルを取得するを選ぶ。
「どのスキルを追加するのだ?」
神父さんがそういうと、視界にスキルの一覧が出る。というかキャラメイクの時にも思ったことだが、このゲームスキル多すぎだろ。この調子なら、クラスもかなりの数になりそうだな。
スキルを取得するためには、SPが必要であり、そのSPは追加する数に応じて多くなっていく。
具体的な数字としては、一つ目が1、二つ目が2、三つ目が6、四つ目が12となっている。なにかしらの法則があるようだが、数学は苦手なので、検討もつかない。
今の残SPならば、三つのスキルが取得できる。
多数のスキルの中から俺は、《跳躍》《無音歩行》《敏捷強化》の三つだ。全部忍者っぽさを出すためにとってみた。
「そのスキルでいいんだな?」
神父さんがそう念を押してきて、視界に確認のメッセージが流れたので、はいを選択する。
「神よ!あなたの送りし戦士に新たな力を授けたまえ!」
すると神父さんがそういったので、新たなスキルが追加されたのだろう。後で確認しておこう。
「他に用はないか?」
神父さんがそういうと、また最初の選択肢が出てくる。今度はクラスを変えるを選択する。
「どのクラスがいいんだ?」
神父さんがそういうと、視界にクラスが表示され、なれるものだけ明るくなっている。というか、予想通りクラスもまたすごい数だな。
俺はその中から、迷わず《投擲Level 5》《掴みLevel 5》《軽業Level 5》《隠蔽Level 5》でなれる忍者を選択する。
「そのクラスでいいのだな?」
確認のメッセージが流れたので、はいを選択する。
「神よ!あなたの送りし戦士に新たな道を歩ませたまえ!」
神父さんがそういうと、何やらファンファーレのようなものが流れた。これでクラスが変わったのだろう。
「これはこれから新たな道を歩むおまえへの神からの餞別だ。受け取るがいい。」
神父さんはそういって俺に忍装束のようなものを渡して来る。
「それと神からの餞別はもう一つある。おまえにはそのクラスで取得できる専用のスキルを使えるようにしておいた。後で確認してみるといい。」
神父さんのその言葉とともに、クラスの変更は終わったようだ。
「恙無く終わったようだな。教会の前で待っててくれ。」
そのタイミングでイルカがそういったので、俺は教会を出てそこでイルカを待つことにした。
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教会の入口で少しの間待っていると、イルカが出てきた。どうやらあちらも終わったようである。
「その恰好を見るかぎりでは、宣言通り忍者にしたようだな。」
イルカは俺の恰好を見てそういってきた。待っている間に神父さんからもらった忍装束に着替えていたのである。ステータスウィンドウで今のクラスと新しいスキルも確認した。
「まあな、有限実行が俺の信条だからな。そういうおまえは何にしたんだ?」
俺はイルカにそう聞いた。イルカはまだ着替えてないので、恰好で予想することはできない。
「俺は、剣士にしたよ。シンプルだが、これが一番だ。」
ふむ、剣士か。単純だが、それゆえに幅が広そうだな。
「ところで、おまえはこれからどうするんだ?俺は攻略組の連中と行動しようと思っている。」
イルカの選択についてあれこれ考えていると、突然そう聞いてきた。これからはそうだな、攻略組に入るにしてもうまく混ざれなさそうだし、それに俺の戦闘スタイルを確立できなさそうだし、勝手に一人でやらせてもらうか。
「俺は適当に一人気ままにソロプレイさせてもらうよ。」
「そうか、ならここからは別行動だな。お互い頑張ろうぜ!」
イルカがそういって拳を突き出してきた。
「おう、お互い精一杯ゲームを楽しもう!」
俺はそういって、イルカが突き出した拳に自分の拳をぶつけた。
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名前:海月
クラス:忍者
装備
武器:ベースチャクラム
頭:忍の頭巾(《隠蔽》スキルにプラス補正)
首:無し
胴:忍装束(《隠蔽》スキルにプラス補正)
腕:無し
脚:忍の袴(《隠蔽》スキルにプラス補正)
指輪:無し
スキル構成
通常スキル
《格闘Level 3》《投擲Level 5》《掴みLevel 5》《平行感覚Level 4》《軽業Level 6》《無音歩行Level 1》《跳躍Level 1》《敏捷強化Level 1》《隠蔽Level 5》《索敵Level 5》
忍者固有スキル
《忍術Level 1》《忍具制作Level 1》《気配探知Level 1》
特殊スキル
《忍術Level 1》で《変わり身の術》
攻撃力:10
防御力:7
残SP:9
残金:94
大罪さんは来るならいつでも来いというスタンスです。
海月のやりたいことが分かる人はいるかな?ヒントは、チャクラムは投擲武器だから、やろうと思えばいくつでも併用できます。
問題
1、2、6、12、20……
この数列の一般項は何でしょうか?