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二人のグルメ

私がオジさんになっても

作者: 添牙いろは

 お金の使い方は人それぞれだと思うけど、私の使い道は決まっている。

 それは、食事だ。食欲は人が生きる上での三大欲求の一つであって、それを満たすことこそ幸福であり、人が生きる意義ではないか!?

 ……なーんて、仰々しい理屈はどーでもいい。食べてる時が一番幸せなのだから、有限たるお小遣いをそこに突っ込んで、誰に責められることもないだろう。


 というわけで、ツレのきの子と一緒にD・V・D! D・V・D! のお店にやって来たものの、何かを買うつもりなんてさらさらない。っつーか、買えるか! 何なのあのコ! なんで何の迷いもなく赤字の丸18にスラッシュの入った暖簾を潜っていけるんよ! ガチでD・V・D! かよ!! 

 どーりで普段頭の両脇で結ってたトレードマーク同然のツインテールを下してたと思ったわ。それに、パンツはともかく、きの子のジャケットなんて初めて見たし。アレは恥ずかしさからくる身元を隠すための変装ってワケじゃあないな。少しでもロリっぽさを抜くための小細工だ。父親のスーツを着て隣町までエロ本を買いに行く男子中学生かよ!

『あたし、4月生まれですから』

 とは、彼女の談。ほむほむ、それなら法的年齢制限はクリアしてるな……って、そーゆー問題じゃないですから! 18だろうが、28だろうが、そこは女子が入るべき場所じゃないってーの! ほら、中のオッサンたちにビクビク意識させてんじゃん! 無駄に申し訳なさそうにさせてんじゃん!

 と、桃色エリアに入っていない私がどうして中の様子が判るのかってーと……ほら、アレだ。棚の隙間からね、見えるんよ。背板のないタイプの陳列棚だから。ネズミーDVDの中古品が並ぶ段と、その上の段の棚板の間の僅かな空間の奥は、一面の肌色。よくもまあ、ここまで揃えられたな、って感じの肌色。他にヤリようはないものか、って感じの肌色三昧。……あ、痴情物色中のおにーさんと目が合った。すいません。覗くつもりはなかったんです。ただ、ツレが心配だっただけなんです。

 うむむ、ここは近づくだけで気疲れしてしまう。いくら煩悩開放エロスゾーンだからとはいえ、いきなり襲われたりすることもあるまい。ここは日本だし。法治国家だし。

 彼女の貞操は彼女自身に任せて、私は他人のフリして適当に映画のパッケージでも眺めながら待っていることにした。

 本当は深夜系のアニメとかのが好きなんだけど、欲望に一直線なきの子と違って、私は一応世間体みたいなモノを気にするんだよっ!

 やっぱ、女子高生としては、同じ深夜番組でも、お笑い芸人のパッケージなんか見てる方がまだ自然かねぇ。最近の芸人さん全然知らないけど。それとも、海外ドラマなんてオサレかな? フル何とかとか、何某・アンド・ザシティとか。むしろ、それらの隙間を埋めるように突っ込まれた単発モノの謎洋画のが気になっちゃってるんだけどねー。

 とはいえ、買ってまで観たいと思えるほどの興味もなく、背表紙を見ながら無為に時間を潰している。あーーー! もゥ!! きの子を連れて早くご飯を食べに行きたいわ! エロビなんて捨てて出てこいよきのーーーっ子!!

 なんて心の中で絶叫してた私の目が止まる。……ウホッ! これは……!? 肌色は肌色でも、汗が輝くワクテカパツキンマッチョ! ってホモじゃねぇーーー!!! マッスルショウだよ! プロレスだよ! ちなみに、プロレスってのは和製英語だから、現地で使うと、今のきの子側の意味合いになるって聞いたことあるから要注意!

 むーん、980円かー……。気になるなぁ、このメリケンプロレス。今んとこ一番気になってるよ! 昔ツレんちでチラっと見たことあるけど、海の向こうは本当にショウなんだよねー。レフリーや観客(に扮したプロレスラー)まで巻き込んだ壮大な筋書き! 八百長? いいじゃない、それでも! 実際に物凄い派手なんだからさ! プロレスってのはね、狂言師がビョウビョウ言いながら空中からダブルチョップキメるくらいが丁度いいんだよ! 日本人はどーも『真剣勝負』ってのに拘りすぎなんだよねー。その癖、本当にガチンコでやると、今度は地味だってゆーしさ! どーせーっちゅーねん! 

 メリケンプロレスっつーと、きっとアレなんだろうなぁ。大技食らわされてわざとらしく目眩を起こしている感じで頭を振ってるレスラーの背後から掴みかかろうとする対戦相手! で、ピンチのレスラーを救うべく観客席からファンがリングに乱入! レスラーへの阻止しようと対戦相手の後頭部を目掛けて手にしたパイプ椅子を振りかぶる! が、しかし! 申し合わせたようにしゃがんで避けられて、凶器は応援していたはずのレスラーの後頭部に直撃! この失態にファンも自ら大袈裟に大後悔! Noooo!! こんなハズじゃなかったんだよー!! とショックに打ちひしがれるファンもセットで、対戦相手は二人まとめて掴んで予定調和のスープレックス! とかやるんだろうなぁ。わぁ、見てぇ。超見てぇ。

「お待たせしました。さあ、行きましょう?」

「ぎにゃあ!?」

 パッケージ一つでうっかり妄想バトルを繰り広げていた私は特戦隊みたいな悲鳴をあげてしまった!? そして、そんな私を気にすることなく無地の茶色い紙袋を鞄にしまうきの子。買った……のか……? 本当にあのゾーンのナニかを買ってしまったというのか!?

 と軽くショックを受けてみたものの、きの子の性癖なんざ知りたくもないし、性欲旺盛な肉食系女子のツレ、という奇異の目で見られるのも嫌なので、そそくさときの子を連れて店を後にした。くそぅ……今度きの子がこういう店に寄りたいってゆった時は、私は店の外で待っていよう……。


 さて、アレはこないだの金曜のことだったか。大学受験を控えた高校三年生たる私は、今度の日曜に一緒に赤本買いに行くおー! ってきの子を誘ったら

「あたし、専門行くんで」

 とか敵前逃亡宣言しやがるじゃないですか! そんな士道不覚悟は切腹ジャー! そこへ直れ! 辞世の句を詠み綴れ! 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK? とありとあらゆる罵倒文句を並べて責め立てたところ

「一緒にご飯を食べに行きたいんですね。分かります」

 と見事私の意図を汲んでくれた。ありがとう、我が心の友よ。

 そして、その日曜の昼下がり。用もないのに私の参考書選びに付き合ってもらったところで、きの子に、ちょっと寄りたいところがあります、なんて言われたら寄らないワケにゃーいかんじゃんか! で、ついて行ったらD・V・D! だったワケですよ。おかげで私の乙女ゲージと満腹度はダダ下がりでござる!

「さて、今日は何を食べましょうか?」

 きの子はあまり食に好みがないようなので、レストラン選びは概ね私の役目だ。

「私の乙女ゲージを回復してくそうなのはパスタ、かなぁ」

 表路地の商店街にはパスタ屋の一つや二つは目に入る。小ぢんまりとしたお皿の上でカラフルな具材によって華麗に彩られたパスタ、そして野菜サラダとデザートプティング。まぁ、オサレ。しかし、これじゃあ、乙女ゲージの方はともかく、育ち盛りのお腹は満たしてくれない。だからといって、ここで「大将! 大盛りでっ!」なんて頼もうものなら、乙女ゲージはサヨナラ逆転押し出しボークで大炎上だ。

 むしろ、そのセリフが似合うのはこっちのラーメン屋か。しかし、ココこそ乙女とは縁がなさすぎる。好きだけど。好きだけどさァー!!

 三十分ほど乙女と満腹の両立を求めて彷徨ってみたけど、迫りくる空腹感に、もう乙女ゲージは減らなきゃいいや! くらいの諦観を決めつつあった。露骨な男気が感じられず、老若男女に大人気なメニューは……と……。

 そこにフワリと漂うスパイスの香り。これだ!!! あらゆる性別、あらゆる世代、あらゆる国境を超えて根付いたこの辛味! 森羅万象全ての食材との相性が抜群で、とりあえず一緒に煮込んでおけば何でも美味しく食べられるとゆー魔法の調味料!

「きの子! カレーにしよう! 大人も子供もおねーさんも、みんな大好きカレーライス、ってお婆ちゃんがゆってた」

「パスタを食べて乙女ゲージを回復させたい、と成美がゆってました」

「じ……時代は刻一刻と移ろうもの! ゆえに我々はっ、先ず満腹度を回復させっ、その後に優雅な午後ティーをフランソワーズボンジュールでOK?」

 きの子の答えも聞かずに、私はスパイシィな香りに導かれて店舗を構える地下へと続く階段を下りていく。

「言葉の意味はよく解りませんが、本当にこのお店でいいんですか?」

 私の後ろをついてくるきの子の方を振り向くと、下り階段の天井の方を指さしている。その指先には……っ!?


 ゴリラのマークの『ゴリゴリカレー』


 うわぁ……。私としたことが、空腹に気を取られて、カレーならどこも美味しいはず、ハズレはない、と何も考えずに踏み込んでしまった! 油断したわ! あまりの男臭さに香辛料に刺激されていたはずの私の空腹感がみるみる縮小していく……。い……いかん……。こんなところでゴリゴリ食べたら私の乙女としての沽券が保てない……!

 が、踵を返そうにも、地上からはこれまたゴリゴリが似合いそうなオッサンの集団がぞろぞろと! うひー!!

 細い階段をゴリゴリ集団を掻き分けて引き返す理由が「乙女だから」とか、だったら何故途中まで入ったし、って感じなので、この際カレーのパワーを信じて男の世界に突入することにした!


 うを……っ!! これは……!! 男・男・男・男……女!? 店内は、男100%、というわけではなかった。お客さんは私たち以外みんな男の人なんだけど、クルーはむしろ女の人の方が多い感じ。いいのか、このキャスティング!?

「成美、後ろがつかえてるので、あまり悩まずスチャっとキメてください」

 おっと、私としたことが食券機を前にして店内の様子に気を取られてしまった。私に注文を促しているきの子をチラ見すると、迷うことなく『男なら黙って』と銘打たれた『カツカレー』を選択していた。

「男か!?」

「生えてません」

 ナニがよ!? 不必要に下ネタ絡めてくんな! そんなんだから、一瞬実は生えてるんじゃないかとガチで疑ってしまったわ。や、彼氏いんの知ってるけどさ! 薄い本が捗るカップリングだって世の中にはあったりするもんだし!

 勿論生えてない乙女な私は少しでも乙女チックなメニューを……と、食券機を眺めるが……ゴメン、食券機って苦手なんよね。どこに何があるのかよく判らん。

 そんな中から乙女度を検出するなどという無理ゲーを試みていたら、異色を放つ期間限定メニューが目に入った! これだッ! キューティーカレー!! ポチっとファイナルフュージョン承認!

 しっかし、このカレー……どうやら、女の子が主人公の某バトル漫画とのコラボ商品みたいだけど……漢のお店で何でこのチョイスなんだろう……。注文しといてナンだけどさ。

 垢抜けない感じの野郎共の間を通って、隅っこの席にちょこんと鎮座する女子高生二人。テーブルナプキンの代わりにボックスティッシュがドカンと置いてあるあたりも実に漢らしい。

 しかし、客層からは浮いているはずの私たちだけど、何故だかあんまり浮いてる気がしない。それは、妙に軽快で楽しげなポップス調の店内BGMのおかげなのかも。

『ゴリゴリカレ~♪ ゴリゴリカレ~♪ Ah~~~♪ 元気にな~れ~る~♪』

 ああ……おかげで私も元気になれそうだよ! もしこれが永ちゃんとか超兄貴だったら、居た堪れなくていつもの半分も食べられなかったかもしれん。そういうのは、部屋でコッソリ聴きたいんよ。乙女としては!

 ただ、ウキウキリズムではあるものの、断固として店名連呼の宣伝ソングなところは、商魂逞しいなぁ。見れば、店内壁一面販促告知ばっかだよ!

『毎月何日はサービスデー!』

『タレント・ナントカもゴリゴリカレーを応援してます!』

『大人気だった伝説のあのメニューが復活!』

『おうちでもゴリゴリカレーを! レトルトも好評販売中!』

 うーむ、ここまで露骨なのも珍しい。客に食事を楽しませるより、とにかく売り込もうって気迫がムンムンだ。

 カウンター横の大型モニタでは、私たちが席に着いた時は無難な歌番が流れていたけど、実はそれも宣伝チャンネルの1コーナーだったらしく、今では日本各地の新装開店行列の様子を勇ましいサウンドと共に紹介している。てか、チェーン店のカレーにこんな行列できんのか。どんなフェアを催してたんよ。

 この商売人の陳列に対して、きの子が一言。

「お店中がカレーのポスターだらけですね。さすがカレーのお店です」

 む、そういう見方もあるか。

 普段こういう店には来ないので、物珍しく店内を見回していたが、メニューはカレー。そうそう時間の掛かるものではない。

 店内を縦横無尽に行き来するスタッフが手に持つのはどれもカレーだから、どこの席の注文の品だか見分けが付かない。が、あのオネーサンが持っているのは私たちのテーブルのカレーだと断言できる! この際立つチーズの香り! 私のカレーで間違いない!

「お待たせしましたー! キューティーカレーとカツカレーですっ!」

 ハートのマークのキューティーキター!! ポークソテーの上に飾られたハート型のスライスチーズ! これこそキューティーであり、乙女の証! その上から更にキラキラ粉チーズまで振られて、思いっきりチーズカレーだよ!

 カレーの深い色合いの上に、薄金色のソースが掛かってるけど、これは何だろう? 一口掬って舌に乗せてみると……甘辛い! 蜂蜜ベースの甘味アクセントだ! バーモントな恋するまろやかさだ! カレー本体がよく煮込まれた辛口だから、この甘さがとても際立つ。

 家で作るカレーと違って、専門店のカレーって具が完全に溶けて舌触りが物足りないものだけど、厚切りお肉のお陰で歯ごたえあるボリューム感を味わうことができる。前にどこぞの牛丼屋でカツカレー食べた時は『ハムカツかよ!?』ってガッカリカツが出てきたけど、ここはお肉もしっかりしている。さすが『男なら黙って』と勧めてくる店だけはある。

 そんな中でも、衣レスでカロリー控えめなところがヘルシーな雰囲気で、気分的にちょっと嬉しい。これだけしっかりした肉厚じゃ、衣の有無なんてヘルシーアップとしては微々たるもんだろうけど。

 乙女仕様のとろけるプリティーチーズカレーが私の乙女ゲージをじわじわ回復させているというのに、それを押し流す野太い歓声がモニタからワッーとやってきた!

 うわっ、リングだ! プロレスだ!!

『本日デビューするのは……ゴリラ!?』

「ゴリラ……だと……!?」

 思わず番組のナレーションにスタイリッシュ復唱してしまったわ! どうやら、このカレー屋のマスコットキャラのゴリラが、何を思ったかプロレスラーとしてデビューしましたよ、という設定らしい。着ぐるみのゴリラが生身のレスラー相手にガップリオツだよ!

「へぇー……凄いですねー……中の人」

「中の人などいない!」

 ゴリラがロープに振ってェ……ラリアットォ!

 トップロープからのォ……フライングゴリラプレス!!

 やべぇ。私の中の乙女がやべぇ。いや、乙女ゲージはそのままに、隠しステータス・漢ゲージがグイグイ上がってきやがりんす!

 カツが……油っぽいカツが食いてェ……ッ!

「きの子! カツを一切れ交換しない!?」

「いいですよ、あたしも成実のポークソテーが気になってたところですし」

 交渉成立! カツカレーとキューティーカレーの等価交換!

 きの子からいただいたカツの衣はきめ細かく薄め。綺麗な縞模様を描くソースがカレーとよく合う。

 カレーにソースってさ、何でこうも合うんだろうねー。でも、カレーにソース掛けるのって、何か邪道というか、オッサン臭いようで、ちょっと気が引ける。でも、カレーの上にカツが乗ってれば『やっぱカツにはソースだよねーこれはあくまでカツに対してソースを掛けてるんであってカレーに掛けてるんじゃないんだよカツのためには仕方ないよねー』みたいな感じで、わざとカツからはみ出さんばかりの勢いでソースを大奮発してもベリーベリー自然だ。

 んで、さっぱりヘルシー乙女カレーの時は気づかなかったんだけど、カツカレーを食べた後の付け合せの千キャベが……超爽やか!

 くっ……これは盲点だった! カツ+ソース+カレーの濃ゆい三連星によるジェットストリームアタックで口の中がとことんコッテリする分、それを踏み台にする白いキャベツが相対効果で通常の三倍瑞々しく感じられる! ヤツらに甘味成分が殆どない分、葉っぱそのものの僅かな甘さが舌に優しい。

 キューティーカレーは素で爽やかな分、キャベツの引き立てを必要とせんのよねー……。そうなると、キャベツが浮く! もはや、キャベツの引き立てのためにカレーを要するという主従逆転状態! 実際、私のキャベツはきの子のソレに比べて随分余ってこんもりしている……ッ!

「きの子っ! ワンモアチェンジプリィーーーズッ!」

 こうして二切れ目! サクッ! カレーのルーに浸されても衣が活き活きとしている。トンカツの表にソース、裏にカレーって贅沢な組み合わせだよね。それらがよく馴染むように細かいパン粉を使っているのかもしれない。

「あ、ルーの方も貰っていいですか? このお肉にはそっちのが合いそうです」

「私もトンカツにはプレーンなカレーの方が合う気がしてきたよ……」

 結局、皿ごとチェンジ。

「成美も黙って男の子になっておけば良かったですねー」

 だとよ。チクショウ。悔しいからキャベツはひったくってきの子の分(元は私のだけど)も食ってやったわ! 美味しいカツカレーでキャベツも進む!

 そう考えると……乙女ゲージって何なんだろうねぇ……。乙女じゃない方が美味しいご飯を味わえるのなら、そっちのが人生得する気がしてきたよ。

 モニタに映し出されていた宣伝チャンネルはいつの間にかループしていて、再びゴリラが最初からプロレスデビューしている。

『ラリアットじゃなくて、ゴリラットですね(笑)』

 なーんてオヤジギャグを遠慮無く飛ばせてしまうのがオヤジなんだろうなぁ。でも実況席は、それはそれで楽しそうだ。

 ゴリラットに触発されたのかはわかんないけど、さっき見かけたDVDを買わずに出てきたのが無性に惜しい気がしてきた。基本、食事にしか使わないお小遣いの一部を、男臭い時間に費やすのも悪くないかもしれない。黙った男の方が、こうして美味しいカツカレーを味わうことができるのだし。

「きの子、帰りにもっかいさっきのDVD屋に寄っていい?」

「何買うんです? 青姦ですか? 輪姦ですか?」

「ホーガンだっ!」

 ハルクアップすんぞコラ! てか、私はまだ17だ!!

 一瞬プロレスのように睨み合ったものの、すぐにお互い吹き出して和解。こういうのって、プロレス的様式美、ってやつかねぇ。

 いずれ、私の中から乙女が失われ、ゴリゴリが似合う歳になる日も来るだろう。しかし、恐るるに足りない。それもそれで面白そうだから。

 画面の向こうに未来の自分の姿を探しながら、漢らしいカツカレーを最後の一粒まで平らげたのだった。


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