とある兵士と少女達の旅情
第9話です。
ジェフが徐栄を伴い、賊徒の下についてから、徐栄は傷ついた身体で、装備品を漁っていた。
(ふむ、この短槍なら何とか使えそうだな。後は、っと、少し苦しいがこの鎧も使わせて貰おう。他には…)
徐栄の突然の変わりように、ジェフは驚いたが、静かに見守る事にした。
(生き残る事を前提に動き始めたってとこか? こいつと良い、あいつらと良い、真剣に生きようとする奴らはすげぇな。俺には、もう真似できねぇ)
ジェフは、そんな事を考えながら徐栄を見ていると、回収が終わったらしい徐栄がジェフの下に帰ってきた。
「お疲れさん、なんか多いな? どうするんだ? その剣とボロ切れは」
そう聞かれた徐栄が、口元に笑みを浮かべながら答える。
「剣は、藍に使って貰おうと思います。あの子は、武に関して言えば、…貴方を除いて私達の中で群を抜いています。嫌がるかも知れませんが、今は少しでも戦える者が欲しいので…この布は私達の足に巻こうかと思って持ってきたんですよ」
そう言うやいなや、早く戻りましょうと元気良く野営地へ戻ろうと、腕を引っ張る徐栄に、ジェフは苦笑しながら少女達の下に戻るのだった。
徐栄や李儒が中心となって移動の準備をしている最中、ジェフは声にならない声を出していた。
(何でA_R 6.8が無くなってL1_8Aになってんだよ!?)
ジェフが驚くのも無理無かった。
自分の愛銃であるARが目を離した隙に、SRに早変わりしていたのだから、さしものジェフでも理解しきれない事態だった。
(なんでだ? ちっと小便行った瞬間に変わるとかよ、いや確かに武器を手放すとかあり得んが、戦闘中って訳でもないんだぜ? …また、あのクソ女が何かしたってのか?)
少女達に気付かれぬ様に表情は変えず、飄々としながら、L1_8Aのメンテナンスを開始したジェフだった。
(サプレッサーと拡張マガジン…ね、これから森を出る事を考えたらお誂え向きのチョイスだが、いけすかねぇな)
得物に妙な細工や危険は無さそうなことを確認したジェフが、立ち上がろうとした時、徐晃が目の前まで走ってきた。
「オジさん、見て見て!! 萌姉に着せて貰ったの!!」
無邪気に笑いながら、ボロ切れの上に革製の鎧を着込んだ徐晃の頭を、ジェフは乱暴に撫でつけた。
「ハイハイヨカッタネー。徐晃、準備は良いのか?」
棒読みに口を尖らせながらも、徐晃は答えた。
「うぅ、で、出来てるよ!! オジさん、頭ワシワシするの駄目だよ、目が回る! あれ、オジさんのそれ、形変わった?」
目聡い徐晃がSRに指を差して聞いてきたので、乱暴に撫でつけながら答えた。
「まあ、な。徐晃、とりあえず行くぞ」
そう言ってすぐさま立ち上がったジェフに、待ってよオジさん!と言いながら笑顔でジェフを追いかける徐晃であった。
ジェフ達一行は、ジェフの持っている磁石と少女達から聞いた地形に、地図を重ね合わせて北へ進んでいた。
2日程で森を踏破した少女達に、ジェフは馴染めずにいた。
(徐晃や徐栄は、体力がかなりあるのは分かったんだが、体力の無さそうな李儒や満寵に戲志才と荀イク、それに後ろのお嬢ちゃん達まで、普通について来れるってのはどういうこった? こいつら化けモンかよ)
ジェフの予想で森を抜ける為に移動した距離が、凡そ50mi/hなので80kmを2日で踏破した事になる。
普通の状態で且つ靴を履いていても、子供が歩くには辛い距離だが、少女達は遥かに劣悪な環境で、励まし合いながら移動し、森を抜けた時は、泣き出す者もいた。
森を抜けた後、目の前に広がる荒野に、軽く目眩がしたジェフだったが、森を抜けた事により少女達は逆に元気を取り戻していた。
暗い森より明るい日差しがあり見晴らしの良い荒野の方が、気分が良いからだろう。
(こっからが地獄なんだが、お嬢ちゃん達は其処に気づいてるのかねぇ?)
小休止中の明るい少女達を余所に、若干陰鬱としていたジェフが後ろをチラリと確認すると、徐栄や李儒達は強張った顔をした後、ジェフに微笑みかけた。
(気づいてる奴も居るわな。とりあえず、川を探しながら移動しないとな、大至急)
ジェフは警戒を強くしながら、移動を開始する旨を少女達に告げると、少女達も動き出すのだった。
水場を求めながら移動して、早3日が経ち少女達には疲労の色が出始めていた。
分かり切っていた事だが、水不足に陥っていたのだった。
ジェフ本人も、何も考えずに移動していた訳では無いのだが、如何せん人数が多すぎた。
森で補給した小さな小川の水を、ジェフの水筒(何故か3つ入っていた)と、満寵が見つけた竹で水筒を作り凌いでいたが、流石に無理があった。
「あ、オジさん!! 上!!」
徐晃が、ジェフに告げ、ジェフが上空を伺うと5羽程の鳥が飛んでいた。
すぐさまジェフはスコープで狙いを定めて引き金を引くと、L1_8Aは気の抜けた音を発して弾丸を放ち、瞬く間に鳥を落とした。
残りもすかさず落とすと、直ぐにジェフと徐晃は落とした鳥の下に向かう。
「さっすがオジさん、あんなに高い所にいた鳥を落とすなんて凄いよ!!」
唇をカサカサにした、徐晃が元気に話しているが、空元気であることはジェフも理解しているため、軽く徐晃の頭を撫でると、鳥の羽根を確認していた。
そして、ニヤリとジェフが笑うと、少女達に小休止を言い渡して移動した。
鳥の飛んできた方向を目指して。
ジェフが戻ってきた時、少女達はクタクタになっていたが、水筒を差し出して水場が有ったことを伝えると、少女達は弱りつつも喜び、移動を開始した。
「トルーマン殿、本当にありがとうございます」
ジェフの名前に漸く慣れた徐栄が、ジェフに対して感謝を述べたが、代わりに返ってきたのはデコピンだった。
「っ!? 何故ですか!? 藍ならいざ知らず私まで!!」
この言葉に徐晃が、若干拗ねていたが、気にせずジェフが返事を返す。
「お前も徐晃と俺の話を聞いてたんだろ? 運命共同体だってな、なら、礼より出来ることをしてくれ」
そう言われた徐栄が、首を傾げると、ジェフが更に話した。
「水場に着いたら、2日は休養に当てるつもりだ。そん時に悪いんだが、1日寝かしてくれ。正直限界なんだわ」
少女達が寝静まった後、一週間もの間、ほぼ眠らずに番をし続けた為、ジェフも流石に不調が体に来ている様だった。
15分等のかなり短い時間を睡眠に当てていた。
ジェフがほぼ眠っていない事は、徐栄も知っていたが、ジェフは、今は良いから寝てろと言われたので黙っていた。
何だかんだ言いながら、ジェフに恩義を感じていた徐栄にとっては、正に渡りに船の申し出だった。
「っ!? はい、任せて下さい。トルーマン殿は、水場で暫くお休みを番は私が…「私もやるよ、オジさん!!」藍!?」
話に割り込んできた徐晃に、やや目がつり上がりそうになったが、徐晃のやる事なので、と、自分を諌めたが、何故急にジェフとの会話を邪魔されて、不快だと感じてしまったのか、疑問に思ってしまう。
この感覚の答えを徐栄が知るのに、長い時間を要するのだった。
水場に着いた少女達は、喜び勇んで水場に飛び込…む様な事はせず、野営の為に動き出した。
ある少女が、数人で近場の燃えそうな物を探していれば、また、ある少女は戲志才と荀イクが、野営地に適した場所を示すと、その場の簡単な掃除をしだした。
少女達は、ただ守って貰う事を良しとせず、自分達に出来ることをしようと、自分達で考えて行動していた。
「…っ、寝みぃ」
欠伸をかみ殺しながら、ジェフが何とか捉えた獲物を肩に担いで野営地へ着くと、賑やかな少女達の笑い声が聞こえてきた。
「元気が良さそうで何よりだ」
呆れ顔で、そう言うジェフに気付いた少女達は、口々に、お帰りなさいと挨拶をする。
短い時間ではあったが、ジェフは少女達に怯えられながらも話し掛け、問診を繰り返していた為、徐栄達以外の少女達も多少はジェフに慣れていった。
一番少女達とジェフを結びつけたのは、徐晃であろう。
徐晃がジェフに話しかけては、ジェフが徐晃を怒らせ、それをジェフが軽い謝罪をして更に徐晃を怒らせたり、ジェフが徐晃に嘘を教えて、徐晃が真剣に聞いていた後、ネタ晴らしをし、徐晃がからかわれたと知るや、ジェフに噛み付いて行ったりと、普段の生活にあるような風景や、冗談を言い合ったりする姿を見せていた為、他の少女達もジェフが悪い人では無いのでは無いかと、警戒心を徐々にではあるが解いていったのだった。
そんな様子を見て、年長者である徐栄や李儒は胸を撫で下ろす。
「まだ、洛陽へは遠そうですが、何とかなりそうな気がしますね、萌ちゃん」
微笑みながら徐栄に話し掛ける李儒に、徐栄も鎧を脱ぎながら頷く。
「ああ。もう駄目だと思った矢先に、色々変化して最初は戸惑ったが、トルーマン殿が居てくれたお陰で、獣が多い筈の森や荒野をこうして生きていける。響、私達はトルーマン殿に、報いることが出来るだろうか?」
真剣な顔をして、自分達が突然現れたジェフに、絶望の淵から此処まで引っ張り上げて貰った事を感謝しながらも、とても大きな恩義を返せるのだろうかと、不安に思っていることを、親友に打ち明ける。
その様子に、李儒も頷きながら、答えた。
「わたしもそう思います。ですから…せめて、出来ることからしませんか?」
李儒にそう言われ、少し考えた後、徐栄は頷く。
自分を差し出すことは、ジェフが契約の際に断ってきたので、駄目なのは分かっている。
ならば、もう一つある自分達にとって大切なモノを預けようと決心するのだった。
とりあえず序章が長いなぁと書いている本人が思っていたりして…
やっと次話辺りで、恋姫の代名詞の一つが出せそうです。