とある兵士と徐栄の対話?
第6話です。
相変わらず話が少しずつ進展すると言う仕様…
じっと萌に真剣な眼差しを向けられ、周りの少女達も釣られて見ている中、男は考える。
(情報収集ってのは、相手にも多少は情報を渡すべきだっつ~のは分かるんだが、なぁ)
萌、徐栄の名乗り方を聞き、先程聞いた地域の名称を当てはめた時、ふと、嫌な予感が過ぎった。
(まさかとは思うんだが、此処って東アジア方面か?)
少なくともアジア圏であると男は推察し、そして東アジア、果ては、とある共産圏の二大国家の一角かも知れないと頭が考えた瞬間、背筋がゾッとする感覚を覚えた。
彼の生まれた国や彼の所属していた部隊は、すこぶる共産主義国と仲が悪い為、入って来ようモノなら袋叩きに会う、と、男は思っていたので、男の思考は固まってしまった。
「? 大丈夫ですか?」
一方、名乗った萌は、男の顔色が悪くなった様に見えた為、純粋に心配した。
萌にとっては、色々な意味で助けてもらった為、真面目な性格の彼女からすれば、相手を心配するのが当然だったのだ。
(マジか…どうするよ、俺…十数人に目撃されている以上、逃げられるか? いや、そもそもこいつらの姿を見るに、奴隷みたいなもんか…なら、此処で口を封じても問題無いな)
思うが早いか、腕を腰のヒップホルダーに回そうとしたその時、藍が心配そうに声を掛けてきた。
「お、オジさん? どうしたの? 顔が青くなったよ?」
感づかれた、そう思った男だったのだが、藍や萌、響の顔を見た瞬間、右手の力が抜けた。
少女達の顔は、自分を本当に心配しているように、見えたのだ。
(…黙って殺される気はねぇけど、こいつらを殺る理由にはならねぇよな)
男は顔を左手で隠すように覆い、一瞬天を仰ぐと、萌の目を見て名乗った。
「俺の名前は、ジェフ、ジェフ・トルーマンだ」
とりあえず作戦時に使うことがある偽名を名乗ってみたが、明らかにこの国にそぐわない事に言った直後気付いたが、完全に遅かった。
男、ジェフも混乱してしまったと言うことなのだろう。
ほんの数十秒だったが、あれだけ黙っていたジェフに、萌は何も言わずに名前の呼び方を聞いた。
「じぇふとるぅまん殿、ですか? えぇと、姓がじぇふで、名がとるー、字がまん、と言った所でしょうか?」
そう聞いてきた徐栄に、ジェフは訝しんだが、徐栄がニコリと笑うと、ジェフは目を一瞬だけ瞑り心の中で礼を言う。
「いや、ジェフが名前で、トルーマンが姓だ。お前さんが言った字ってぇのは無いんだよ」
そう言うと、心配していた藍が、横から割り込んできた。
「なんか、聞いたことの無い名前だね。オジっじゃなくてじぇふさん? じゃないや、とるぅまんさんは、何処の生まれなの?」
ジェフは藍の質問に、答えにくそうにしていたが、徐栄が藍を遮った。
「こら、藍。とるぅまん殿は、今、私と話をしているんだ。いきなり割り込むなんて失礼だろう?」
そう窘められて、藍はハッとして、気落ちしながら、ごめんなさいと謝ったあと、緑の髪の少女の隣に座って落ち込むと、緑の髪の少女に慰められていた。
「すみませんでした、とるぅまん殿」
いや、構わない。と言った後、少し冷静になれた男は、徐栄に軽い質問を幾つか行い返ってきた答えを含めて、頭の中で情報を整理しだした。
(ふ~む、とりあえずアジア圏である事は予想出来るんだが、ちっと反応がおかしい箇所があるんだよな。この徐栄って嬢ちゃんは、まあ、人を騙すような質じゃねぇと賭けてみるか)
そう決意したジェフは、徐栄にとある質問をした。
「徐栄ちゃんよ、ア○リカ合衆国、ロ○ア連邦、中○人民共和国。この中で知ってる国ってあるかい?」
一か八かの質問だったが、徐栄は首を傾げながらも、ジェフにとってはある意味助かり、ある意味困る答えを返した。
「すみません、どれも聞いたことの無い名前です」
ジェフは、徐栄と目を合わせていたが、先程の弱々しかった瞳と違い、揺るぎない意志の強そうな瞳を見て、少しの沈黙の後、内心溜め息をついた。
そして、この状況を作った疑惑の犯人が確信出来てしまう。
(…多分あのクソ女だな、くそったれが!!)
再び天を仰ぎそうになったが、とりあえず、即発見即射殺は無いと断定し胸をなで下ろしたジェフは、気持ちを切り替えつつリュックサックに手を突っ込んだ。
少女達もあまり慣れていなかったが、ビクつく者は居たものの、怯えてしまう者は流石に居なくなっていた。
ジェフが取り出した物は、無人機の照準用にジェフが使用するノートパソコンである。
即座に起動した後、ネットワークに繋ぐが、予想通りの反応を示すのだった。
(繋がらない、よな)
少女達の発言や、少女達を襲った男達の服装や行動、徐栄から貰った情報と今のパソコンの反応を考えたジェフは、確信とまでは言えなかったが、一応の現状把握とした。
(とりあえず此処は、東アジア方面っぽい文明があるって事だな。正味、東アジア方面なら○本の方が助かるんだが、この状況を見るに希望的観測は捨てるっきゃねぇな。そして、あのクソ女が一枚噛んでいるとなると、こいつぁやっかいな事になったぜ)
ジェフは、其処まで考えながら、パソコンのコンソールを指で叩き、データを開いた。
不思議そうに作業を見る徐栄に、ジェフはモニターを見せながら質問した。
「徐栄。こいつを見てどう思う?」
データが開いた状態のモニターを見た徐栄は、目を見開いた。
「なっ、こ、これはっ…」
目を見開き、口をパクパクと開閉している徐栄を、不思議に思った響は失礼しますと謝りながらモニターを覗き込むと、徐栄と同じ反応になった。
「…これがここいらの地図って事で良いかい?」
内心溜め息を再びついて、言葉をかけると重々しく徐栄と響は頷いた。
「と、とるぅまん殿…あなたは一体」
少し語気が強くなった徐栄を、見て怪訝な表情をするジェフだったが、直ぐに語気が強くなった理由を知ることになる。
「何故貴方は、こんなに精密な地図を持っているのですか!!」
怒り出した徐栄の剣幕にたじろいだジェフは、何故徐栄が怒っているのか分からなかった。
地図の重要性は、今も昔も変わらず高いが、精密な地図となるとほぼ手作業になる為、昔の地図作成に掛かる手間と時間が膨大になる。
軍事・政治等様々な分野で重要な意味を持つ国を写す『地図』を精密に描いた物など萌からすれば、持っている人間等恐れ多くも天子様しか居ない。
そんな精密な地図を他国の、しかもとんでもない武力を持っている男が所持している時点で、何をしに来たのか気が気ではなかった。
「あー、何をそんなに怒っているのか知らんが、コイツは俺が仕事用に使ってるモンでな。この国の奴も入ってたんだよ」
教育は当然様々なモノを受けているジェフだったが、流石に古代史を深く知っているわけでもなければ、地図が重要な物だと認識してはいるが、温度差までは分かるわけがなかった。
「こ、こんな精密な地図、恐れ多くも天子様すら持っておられない筈です!!」
この言葉に萌の後ろで、話を聞いていた少女達はざわついていた。
見たことこそ無いが、天子様、皇帝陛下はこの国で一番偉い人と言う認識は持っている少女達も、皇帝陛下より凄い物を持っているというジェフに困惑した。
「え~と、天使様って何者? まさか翼でも生えてんのか?」
天子様=皇帝と言う認識が無いジェフも、また何で徐栄が怒っているのか分からなかった。
天子様を馬鹿にされたと思い激怒した徐栄を、響は藍と一瞬に抑えながら、ジェフとのすれ違いを解消する事に、暫く時間が必要になってしまった為、ジェフの質問タイムは完全に止まってしまうのだった。
所々ファンタジーですが、1日1話を書けた頃よりペースが落ちてますなぁ…
などと考えてる作者で御座います。
週3から週4で出した方が楽かしら…