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とある兵士と少女達の午後

 第5話です。


 やっと1人目が…ごふっごふっ…

 流石に無理だろうと思われた事態が現実の物になり、男は目を線にしていた。

 振る舞ったスープを十数人の少女達が、食べ尽くしてしまったのだ。


(デカい鹿一頭丸ごと使って、骨しか残らないのかよ…)


 当然ながら、肉が無いのだからスープも有るはずがない。

 昨日の様子や弱った少女達を見て、いくら十数人いるからと言っても、無くなるとは思っていなかった為、呆れかえってものが言えなくなっていた。

 仕方がないので、リュックサックに手を突っ込んで、中を漁り彼にとっては慣れ親しんだ円筒形の物体、缶詰を取り出す。

 そして缶詰を軽く振った後、缶詰と一緒に出したアーミーナイフの缶切り部分で、缶詰の蓋を開けると缶切りの刃を軽くふき取り、またリュックサックに手を突っ込み取り出したフォークで、缶詰の中身、トマトと挽き肉の煮物を頬張るのだった。

 その様子を見ていた萌は申し訳なく思ってしまった。


(助けてもらった上に、食事まで出してもらって、あまつさえ全部平らげてしまうとは、あの子達には罪はないんだが…)


 そう思い暗くなりそうになる萌だったが、その様子を見ていた男が言葉を掛けた。


「デカ女、あんまり気にすんな。そんなに食えないと予想した、俺が悪かったんだからよ。ガキ共の食欲はおっかねぇな」


 そう言い、男はケラケラと軽く笑いながら、缶詰を食べていると藍が側に寄ってきて、男の近くにちょこんと座る。


「あの、オジさん、あのね。怒っちゃってごめんなさい」


 そう言って藍は頭を下げてきたが、男は藍の頭に手をおいてワシワシと乱暴に撫でながら話す。


「本当に怖かったんだろう? なら仕方ねぇよ。あれは俺が悪かったんだからな、だからお前は気にすんな」


 そう言葉を掛けてにこやかに笑う男を見て、藍も笑顔になる。


「それになぁ、ガキんちょ。男なんだったらそんな細けぇことに拘るんじゃねぇぜ? お姉ちゃん達を守れないだろ?」


 途端に、辺りの空気が凍りつく。

 腹を満たした少女達は、落ち着いたのか小さな声で談笑を楽しんでいたが、藍が男に話し掛けた時には、男の話を皆が聞いていたのだが、急に空気が凍りついたので、男は訝しんだ。


「うん? なんだ? 急に静かになったな」


 缶詰を平らげた男は、藍の方を向くと何時の間にか顔を伏せていた藍が震えていた。

 何か調子が悪くなったのかと思い、声をかけようとしたその時、藍の声が響き渡った。


「私はこれでも女の子だよ!!」


 涙目になり先程の言葉以降、30分近く叫びまくる藍に男は、只思う。


(…知ってて冗談言ったつもりが、とんだ地雷になっちまったよ、畜生)


 その後、ひたすら平謝りを続ける男と、もう知らないといった風な藍の言い争いが発生し(主に話していたのは男だったが)最初は凍り付いていた少女達だったが、次第にクスクスと笑い出すのだった。


「オジさん、ちゃんと反省したの?」


「ああ、したした。したから許してくれ」


 その言葉に不機嫌になりそうになったが、久しぶりに他愛ない事で感情を露わにしたためか、藍は不機嫌になるよりも嬉しさが心の中に湧き上がっていた。


「分かったよ、オジさん許してあげる。ありがとね、オジさん」


 最後の部分を小声で言うと、男の隣に座り直そうとした藍だったが、響に引っ張られてしまった。


「あぅ、ど、どうしたの、響姉?」


 その行動に、また何かあったのかなと思っていた藍であったが、萌や響が真剣な表情になっていた為、押し黙った。

 一瞬静かになったタイミングで、萌が口を開いた。


「貴方には大変お世話になりました、ありがとうございます」


 頭を下げる萌に、男は首を振る。


「気にすんなとは言わねぇよ、こっちにゃこっちで考えがあるんでな。それで? お前さんの望みはなんだ? この森を出るまでの護衛か?」


 さらさらと話す男を前に、やはり感づかれてしまうよなと萌は思ったが、男が言っていたように、交渉材料など初から無いのは事実であり、都に帰れない事には金子すら出せないのだから、どうしようもなかった。


「…平たく言えば、その通りです。そして私達には差し出せるモノが何もありませんので…」


 そう言うと、顔色を悪くし萌は震え始めたが、意を決して言葉を紡ぐ。


「な、なので、私を好きにしていただいて構いませんから、どうかこの子たちを助けてもらえないでしょうか!!」


 震えながら地に頭を着け懇願する萌に、少女達にも悲壮感が湧き出した。

 まだ、危機的状況から抜け出せた訳ではないのだと、理解できてしまったのだった。


「あ、あの萌ちゃんだけでなく、わ、わたしも好きにしていただいて結構ですから、どうか、どうかお助け下さい!」


 萌の言葉に続いて響も同じ事を言ったので、響を見て目を見開いた萌が、止めさせようと口を開きかけた時に、男が口を挟んだ。


「いや、お前ら貰っても扱いに困るだけだし、正直いらんのだけど…」


 再び辺りの空気が凍り付いていた。

 決死の覚悟で、萌や響が懇願しているのに、即話をぶったぎった男に、藍だけでなく他の少女達まで憤った。

 そして、一番ショックだったのは、言うまでもなく最初に言葉を発した萌である。

 目の光が消えかかった萌が、目の端から雫を零す。


「じ、じゃあ、なにを差し出せば良いんですか? 何をすれば助けてくれますか? 私、わた、し、わ、わた、私にはこれ以上、さ、差し出せるもの何て、後は、こ、この命位しかな、あり、ません…」


 襲ってきた恐怖を押しのけて行った懇願が拒否され、只でさえ限界に近かった萌にとっては止めを刺されたに等しかった。

 少々萌の精神状態を甘く見ていた男は、なるべくゆっくりと話すことにする。


「お前らにして欲しいことっつったら、幾つか教えて欲しい事があるだけだ、お前が自分自身を差し出す必要は無いぜ?」


 そう男が言い、萌が混乱する頭で言葉の意味を理解すると、周りに自分が守らないといけないと思っていた親友や少女達がいる前で、声を殺す事も忘れて泣きじゃくるのだった。

 泣き出し始めた萌を男が一瞥すると、響と藍を見て顎をしゃくった後、森の中へと入っていた。

 その後直ぐに響は萌を抱きしめて慰め、藍は友人である緑の髪の少女と一緒に、萌の変化に動揺する少女達の相手をするのだった。




 森の中に移動した男は、何もしない訳には行かないので、とりあえず狩りをするべく森の中に入る際に持ち出した、昨夜使用した自分の愛銃『A_R 6.8』を片手に森の奥へと、息を潜めながら移動している。


「はぁ、情報収集ってこんなに面倒だったかねぇ」


 頭を掻きながら見つけた獲物を、狙い仕留める。


「あの嬢ちゃん達、あんな食い方するって事は、晩飯も相当食うだろうし、覚悟すっかなぁ」


 大型の猪を仕留めた男は、後一頭はいねぇと俺がなぁなどと考えつつ、猪の血抜きをし、再び獲物を探すのだった。

 暫く時間が経ち日が暮れだした頃、男が野営地に戻ると、大泣きしていた少女、萌の周りに藍を含めた他の少女達が抱きついた状態で、萌が困惑している場面に遭遇した。

 側に居る響は苦笑気味なので、『解決とはいかないだろうが、マシになったのかね?』と思い血抜きを済ませた猪の内一頭を置いて再び森の中に戻る。


(重労働万歳だな、畜生が)


 爺さんや旦那には悪態をつく男だったが、精神的抑圧から解放された相手の居る場所で悪態をつく程、非道でも愚かでもない為、内心でグチグチ言いながら作業を淡々と進めていった。

 二頭目の猪を肩に担いで、再び野営地に到着した時、元気な声で出迎えられた。


「あ、オジさん。お帰りなさい!!」


 萌が落ち着いたので離れたのか、藍が満面の笑みで戻ってきた男を迎えたのだが、男は「ハイハイタダイマー」と気のない返事をして、また藍に騒がれている。

 内心溜め息をつく男だったが、解体されていた猪を見て驚いていた。


「おい、誰が猪を解体したんだ?」


 そう男が聞くと、男が小娘と呼んでいた少女、響が小さく手を挙げて男のアーミーナイフを差し出した。


「さ、差し出がましいかと思いましたが、あなた様だけに食事の用意をして頂くのもと思いまして…」


 響は言いながら、上目遣いに両の手の平で、丁寧にアーミーナイフを返そうとした。


「そう言や、リュックサックに戻すの忘れてたな」


 男は食事の為に、日用のアーミーナイフをリュックサックから出し缶詰を開けた後、片手で弄ってナイフ形態にした後、そのまま地面に放置していたのを今更思い出した。


(下手すりゃ刺し殺されてるぜ、迂闊すぎだろ。アホか俺は!?)


 一瞬自分にキレそうになったが、藍に怖がられたのを思い出す。

 その為、自分自身への憤りを飲み込むと、「ありがとよ」とアーミーナイフを受け取ろうとして思い立つ。


「そう言や、お嬢ちゃん。お前さん、料理が好きそうだな?」


 そう男に言われた響は、頷くとアーミーナイフをそのまま押し付けられた。


「ならワリぃんだがよ、ちっと手伝ってくれよ。ああ、後ろからブッ刺すのだけは勘弁な」


 男がおどけながらそう言うと響は「そんな礼儀知らずじゃありません!!」とプリプリ怒りながらも、男の担いでいた猪の解体を始めた。


 夕食も怪我人が多いと言うことで、猪肉のスープにし、少女達が落ち着いたのを見計らって男が話し掛けた。


「あ~、くつろいでる所ワリぃんだが、ちっと聞いても良いか?」


 男に声を掛けられた少女達は、ビクつき萌や響にしがみついたが、しがみつかれた萌や響、藍に緑の髪の少女は、その場を動かなかった。

(緑の髪の少女は、藍にしがみついたが…)


「何でしょうか?」


 率先して萌が答える体制になってくれたのを、見た男は頭の中にある、現在聞きたいことを萌に聞くことにした。


「ああ、んじゃな、先ず此処って何処か分かるか? 俺の居た場所と明らかに違ってよ、勝手がさっぱり何だわ」


 そう聞かれた萌が申し訳なさそうに答えた。


「申し訳ありませんが、私達にも詳しい場所が分かりません。連れ攫われる前は、司州のケイ陽辺りに居たのですが…」


 萌が真剣に答えている為、男は嘘は言ってないと思うことにしたのだったが…


(聞いたことの無い場所の情報渡されてもなぁ)


 流石に、北米や南米、欧州なら大抵分かるのだが、萌から聞いた地名に男はピンと来る場所がなかった。


「そ、そうかい。んじゃ、次の質問なんだが…」


 質問をしようとした矢先、萌が逆に聞き返してきた。


「あ、あの、話を遮って申し訳ないのですが、貴方のお名前を伺っても宜しいでしょうか? 私の名前は、姓は徐、名は栄と申します」


 そう萌が言うと、ジッと男の目を見て答えを待っていた。



 1人目のオリジナルキャラクターは、知っている人は知っている、あの孫策達の父親である猛将、孫堅や旗揚げ前とは言え曹操を撃破した徐栄さんでした。


 敢え無い最後を遂げる人ですが、普通に考えたら名将だと思う人かと…

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