とある兵士と青州への旅路3
お久しぶりです。
第30話でございます。
徐栄と李儒が買い物を済ませ、野営地へと帰ってきた。
そして、普段通りに過ごしその日の夜、他の少女達が寝静まった後、徐栄達はレオンに、困ったことになった事を告げた。
「なる程ねぇ」
内容を聞いたレオンを顎に右手を添えて考え込んだ。
徐栄達が持ち帰った情報とは、所謂村同士の諍いだった。
近隣の村々は、夏真っ盛りである現在の日照りの影響を、既に受けていた。
日照りにより田畑は、干からびてしまい無残な状態になっている。
そして、まだ残っている川を巡って争っているらしい。
(やれやれ。こうなると、村での補給には慎重にならざるをえないな)
殺気立っている村に余所者が入り、食料やその他の物資を買うなど、危険極まりない。
徐栄と李儒も当然そのことを理解しているし先立つ物はあるが、着の身着のままに近い自分達ではこれ以上旅を続けるのが厳しいと思っていた。
これ以上、レオンの負担になりたくはなかった2人だったが、少女達の為を考えるとどうしようもなかったのだった。
暗い顔をして俯いている徐栄と、縋るような表情でレオンを見つめる李儒に、レオンは事も無げに話す。
「んー…… おい響、確か買い足した分は、まだちっと残ってたよな?」
レオンは食料の保管をしている李儒に在庫の確認をすると、李儒は神妙に頷き返した。
「は、はい。ですが、それも後数日保ちません」
若干涙目になりそうな李儒にレオンは頷くと、レオンは自分のバックパックを開いて食料関係の荷物を取り出していく。
その様子を見ていた徐栄と李儒は、目が点になっていた。
「ふむ。まあ、確かに俺の平均的な旅装なら、こんなもんか。ボトルが補給されるなら暫く飲み物も困らないだろう…… 響、1日毎に俺の持ってる食料品関連を全部回すから、何とか出来るか?」
そう聞かれた李儒は、ハッと正気に戻った後、暫く考えて答える。
「た、確かに1日毎にこれだけ頂ければ多少は何とかなりますが、それでも……」
「わぁってるよ、それにガキ共だって育ち盛りなんだからな、足りねぇのは百も承知だ。俺も狩りの量を増やすつもりだが…… 響、何とか保たせろ」
其処まで言って、レオンが李儒を真剣な眼差しで見つめると、萎縮していた李儒の目つきが変わる。
「分かりました、藍ちゃん達にも伝えて、更に切り詰めて行きます」
その答えに頷いたレオンは、ふと徐栄の方へ目を向けると、さっきの陰鬱な表情から一変し、何故か李儒を睨んでいる様だった。
その様子から、レオンは若干頭を痛めたが、一瞬目をつむって頭の中を切り替えた後、徐栄に話しかける。
「おい、萌。お前にも手伝って貰うぞ」
「へ? あ、はい!! レオン殿、私は何をすれば良いのですか?」
先程の不機嫌さが何処かに霧散し、満面の笑みを浮かべてレオンの指示を待った。
その姿を見たレオンは、内心呆れ顔になったが、表情には出さずにこれからの予定と役割(主に主軸となって護衛)を与えると満足げな表情になった後、笑顔のまま「分かりました」と言って少女達の眠る場所へと移動した。
その様子にガックリ肩を落とすレオンと、それを見て苦笑する李儒だったが、レオンは気を取り直して李儒に向き直る。
「おい、響。ちっと、萌の奴不味くないか? それとも気を許すとああなるのか? 与えた指示っつっても何時もと変わらんぞ?」
「ええと…… ま、まあ、わたしと真名を交換した後も、あれに近い感じになりましたね。レオン様からの指示は何でも嬉しいんだと思います。落ち着いたら冷静沈着ですから……」
信じて下さい、と拝むように手を合わせる李儒に、レオンは「萌がこれ以上馬鹿にならないように手綱を取ってくれ」と言い、李儒は涙目になりながら表情で「無茶を言わないで下さい、怖いです」と告げるのだった。
○
レオン達一行は、村に寄れないというハンデを背負いながらも、何とか最初の目的地である国境の山脈の前に到着していた。
レオンや兵士である徐栄、そして一人旅をしていた沙摩柯以外は、暑さや疲労でヘトヘトになっていた。
…ハズだった。
「うんめー!! やっぱ親父が食ってた食事はうめーぞ!!」
「ちょっ!? 神楽!! 食べるの早すぎ! 私のは、あげないんだからね!!」
「……けふっ。あ、いけないいけない。ふう、けど藍。慌てて食べてしまうのも仕方ないわよ」
「そ、そうね。こんなに美味しい物を1人で食べてたなんて…… レオンの奴……」
「などと文句を言っておきながら~、1人でレオンオジサマに~、口移しでご飯を~、食べさせて貰った桂花ちゃんであった~」
「「「「「何!?(だと!?)(だって!?)(ですって!?)」」」」」
驚愕(レオン以外)の事実が暴露された瞬間、荀イクに無数の目線が集中していた。
「事実無根よ!! でっち上げないで、睦月ちゃん!!」
「ん~、レオンオジサマに~、横になった桂花ちゃんが~、顔を真っ赤にして~、食事をさせて貰っていた件については~?」
「な、なんてところを…… あ、あれは……」
戯志才の首元を両手で掴んで揺さぶる荀イクだったが、戯志才の放った言葉が荀イクの赤い顔を急激に青くさせ、トドメとばかりに戯志才が告げる。
「まあ~、私は~、驚愕の事実の内容を知ってますが~、後ろの方々は~、どうでしょ?」
相変わらずのスローテンポな喋りをしている戯志才だったが、最後の台詞だけは演技ではなく素だった。
そして、最後の台詞と共に小首をかしげて、ニコリと笑っている戯志才の表情を見た瞬間、荀イクは悟る。
(こいつ、なんだかんだ言ったって気にしてるん……)
と、心の中で叫んでいると途中で、心の声が止まった。
何故なら、荀イクの左肩に小さな右手が乗った為だった。
この肩に乗った手が誰の物か聡明な荀イクには、大体理解出来ていたが……
「ね、ねぇ。私達って、は、話し合えば、分かり合えると思うのよっ!?」
ね。と言葉を締め括りながら振り向いた荀イクの口から「ね」の台詞が消え去った。
荀イクの振り返った先には、真っ黒なナニカが存在したからである。
「フーン。デ、レオンオジサント、ナニシテタンダッテ?」
何時も馬鹿をやって笑い合っていた相手が、得体の知れないナニカになっていたが、荀イクは勇気を振り絞り反撃に出る。
「口移しなんてしてないわ!! 私は……!」
「と~、じゃれ合う~、藍ちゃんと~、桂花ちゃんであった~」
「んで、俺の胡座の上に座って、何ご満悦なんだよ、睦月。桂花とは友達じゃねぇのか?」
ちゃんちゃん、などと言いながら、何事も無かったかのように、戯志才がレオンの胡座をかいている上に座ってきたので、ツッコミを入れると、またもや小首をかしげて「う~ん」と小さく唸ると、レオンに答える。
「不可抗力だったとしても、抜け駆けはメッなんですよ。例え親友だったとしても、いえ、親友だからこそです。疲労で調子を崩してたから、天幕で特別に1人で寝かされた桂花ちゃんに、レオンオジサマが抱きかかえながら食事をさせていたとしても~、ですよ~」
スローテンポな喋り方が一転して、饒舌に喋っていた戯志才だったが、途中で口調が素になっていると気付いたので、戻しながらレオンに答える。
そして、ニコニコ顔の戯志才が、レオンを見上げて更に話しかけた。
「みんなオジサマならって~、安心してますし~、甘えたくって~、仕方ないんですよ~。これくらい~、許して下さい」
ね。と、最後だけ素に戻して小首をかしげながら告げる戯志才に、レオンはため息をつきながら、戯志才の鳶色の髪を柔らかく撫でつつ、抱っこの体制になると、戯志才は「ん~」と一言呟きながら意識を手放したらしく、急に戯志才を支えるレオンの腕が重くなった。
「好かれてんな、親父」
「な、何というか、場をかき乱して自分だけ良いとこ取りするとは……」
食事をいつの間にか終え、呆れ顔で一部始終を見ていた何平と、頭を痛そうに抑えている李儒が、静かにレオンの両隣に座った。
「ま、騒げるだけマシだろ。明日から暫く此処で小休止だ。山の上だけ天候がヤバそうだしな。食事自体は何ともならんが、まあ、大丈夫そうだしな」
レオンはそう言った後、丁度話しておかないといけない2人が近くに来たので、ついでに用事をしませる事にした。
「響、あの自分よりも年下の連中を威圧してる奴の手綱を握っとけっつっただろ?」
「えっ!? あの状態の萌ちゃんをですか!? そこはレオン様の方が良いのでは?」
慌てる李儒にレオンは、先程までの冗談の様な空気をはねのけて、真剣な表情になる。
「響、何があっても萌から離れるんじゃねぇぞ。絶対な」
「? は、はい。分かりましたわ、レオン様」
若干首を傾げた李儒だったが、徐栄の様子を見た瞬間に焦りだし、両頬を自分で叩いて気合いを入れてから、徐栄の仲裁に入っていった。
その様子をチラ見しながら、レオンは何平に向き直る。
「神楽、おめぇもだ。藍の側に居て、あいつの気持ちを読み取れるように努力してくれ。まあ、彼処で暴れてたりしても止められる位にはな」
「うっ…… あ、ああ。分かったよ、親父」
何平にも真剣な表情で徐晃の事を伝えるレオンに、訝しみながら何平も頷いたので、騒動の和の中に移動させた。
側に居た2人を移動させた後、苦い顔をしたレオンが舌打ちをしながら呟いた。
「チッ…… 貂蝉の奴いらねぇ情報を寄越しやがって。んな事言われたら気にするだろうが……」
愚痴を言いながらやんややんやと争っている少女達を眺めながら、戯志才を抱えながらため息をつくレオンであった。
何とかまた1話投入出来ました。
相変わらず亀ですが、今後ともよろしゅうです~。
戦闘シーンが、出てこんなぁ(-_-;)




