とある兵士と藍色の髪の少女
2話目でございまする~。
森の一角に爆音が響きわたる。
少女達は爆発地点より若干離れてはいたが、それでも余波を受けない距離とも言えなかった為、全員が起爆スイッチを押した男の後ろに吹き飛んだ。
(やべぇ、死んではいないと思うけど、冗談みたいに飛んだな)
内心冷や冷やしていた小僧と言われた男だったが、吹き飛んだ箇所を見た瞬間、目つきを鋭くさせ男達が居た箇所へ飛び込んだ。
男が飛び込むと辺りは焼け焦げていたが、男達の後方に居た生き残りはそこそこの人数が残っていた。
とは言えいきなり目の前で爆発が起こって平気な者は居なかった様で、気を失っていたりへたり込んでいたりと男達の様子は惨憺たる状態だった。
「カモ撃ちだなぁ」
そう呟きながら、男は惚けている者の頭を撃ち抜いていく。
言葉とは裏腹に、この現場を見た者を1人たりとも逃さない、といった表情だった。
残りが1人になった時には何とか正気に戻った男が、這々の体で逃げていったが、小僧と言われた男はサイトを覗き込み、深呼吸をして息を止めた。
サイト・サーマルスコープには、這々の体で逃げている男が白く映し出されており、丸見えになっていた。
呼吸を止めていた男はトリガーを数回引くと、逃げていた男に当たり、男は倒れ込んでしまった。
小僧と言われた男は、逃げた男の後を警戒しながら追いかけ、倒れ込んだ男の反応を確認したが、サーマルスコープは、倒れ込んだ男を白く映すことはなかった。
(ふぅ、どうやらこれで最後らしいな)
最後の男を始末し松明を処理しながら男は、少女達の下へ移動を開始しようとしたが、真っ暗闇になったその直後、後ろに大きく後退する羽目になった。
何かが来ると男は感じた為だが、実際には、男の居た位置に横なぎに剣閃が走っていた。
男の目には、まだ何も見えていないが、気配は確実に目の前にあった。
しかし、男はサーマルスコープを覗けないでいた。
(覗いた瞬間にざっくりいかれるなこりゃ、くそっ)
剣閃を放った相手もまた驚愕していた。
(暗くなった瞬間を狙ったのにどうして!?)
剣閃を放った相手は、萌に藍と呼ばれた藍色の髪の少女だった。
一瞬にして、自分達を吹き飛ばし、男達をも消し去ってしまった相手に、藍は恐怖していた。
(この人を萌姉達や緑の下に行かせちゃ駄目だ!)
唯でさえ疲労により弱っていた少女達には、男の攻撃は強烈過ぎたようだった。
が、少女が一閃を放とうとした瞬間、男は大きく後ろに飛んだため距離が開いてしまった。
(うぐっ、あ、足が、動かないよ…)
藍の足は、今までの疲労と先程の必殺の一撃の為に、無理をしたため、立っているのがやっとの状態になっていた。
生まれたての小鹿の様に足を震わせながらも、懸命に動こうとする。
(まだ駄目だ、倒れちゃ駄目なんだ。お願いだから動いてよ!!)
しかし、彼女の願いも虚しく、足は既に限界に達しつつあった。
(うん、動かねぇな。一体どうしたんだ?)
片や攻撃を回避し、更に距離を取った男は、悠々とスコープに目をやり、自分を攻撃しようとした相手を見つめていた。
(さっきの匂いといい、あの華奢な身体付きから言って子供か、マジかよ…)
男は、自分が死ぬかもしれないと判断し、後ろに後退させた正体に少々げんなりしていた。
(となると、さっきのお嬢ちゃん達の知り合いと見て良いとするなら、俺を危険と判断するのは、まあ、理解出来るな。さて、そうなるとどうする?)
男は考え込み始めたが、とりあえず、自分の命を狙った相手の無力化を図ることにした。
(え~と、お、あったあった)
かなりのんびりとだが、男は腰に備え付けてあるグリーンのラベルが貼られた、黒い円筒形の物体を掴みピンを引き抜くと距離を調整後、少女の背後に放り投げるのだった。
震える藍の背後に、円筒形の物体が到達し転がりながら藍から離れていったが、男から投げられた物だったので、藍は咄嗟に眼を瞑るのだった。
その直後、投擲物から激しい光と音が発生したが、藍の背後だった為、光に目をやられることは無かったが、頭の方はそうはいかず思考が停止してしまったので身体が思うように動かせなくなり、激しい眩暈のせいで三半規管もおかしくなってしまった。
更には音まで聞こえなくなり、脳がパニック状態になった為、藍の目に映る景色はゆっくりとなっていた。
(あぁ、これが父さんが言ってたそうまとう?って奴なんだなぁ…ごめんなさい。萌姉達、緑、帰れそうにないや)
藍の視界には、男がゆっくり移動しているのが見えていたで、剣を振ろうと藍は腕を動かそうとしたが、身体が全く反応せず、男の接近を許してしまい…
男が藍を横切った様に藍に見えた瞬間、藍は意識を失った。
(…あの状態で、剣振ろうとしてたコイツが怖いんですけど)
脳震盪と耳鳴りをメインに考えた為、(視界まで塞ぐと無理やり暴れるかもなぁと判断した)スタン・グレネードを使用したが、それでも武器には違いないため男は子供の状態を確認する。
(心拍はあるな、生きてるし外傷は…、一応軽微…って事にしよう)
ぼろ布を纏った子供の状態を一応の確認を済ませ、両腕で子供を抱きかかえると、男は再度少女達の下へ歩いていくのだった。
萌は焦っていた。
相当怖かったのだろう、桂花や桂花に抱きつかれた鳶色の髪の少女が、そのまま萌の下に移動し抱きついていた。
他の少女達も萌や響の下に移動し抱きつかれてしまった為、藍が1人で男の下に行ってしまったのを止めることが出来なかったのだった。
(ど、どうすれば良いんだ、このままじゃ藍が!?)
少女達を捕らえようとした男達を、躊躇なく瞬く間に殺してしまった男の下に藍が行ってしまった事と止められなかった事に、萌は気が気では無くなっていた。
「萌ちゃん落ち着いて」
そう穏やかな声音で話しかけてきた響に、萌は多少自分を取り戻した。
「…っ、すまん響、助かった。だが、どうしようか藍が1人で行ってしまった」
現在の状況を考えても、ボロボロである自分達では、藍を助けるどころか何をされても防ぎようがない。
そう考えた萌は、身体が震えていた。
「萌ちゃん、変なこと考えちゃ駄目だよ!!」
そう言われたが、萌の心も限界になっており、何時折れてもおかしくない状態にまで追い込まれていた。
すると萌の側に響がやってきて、肩を抱かれる。
「萌ちゃん、大丈夫だよ。絶対何とかなるよ」
響も実際に言えば、萌と似たような状態だったが、響は萌が居た為、辛うじて自分を保っていたが、萌自身は捕らえられていた時の事も重なった事もあって、事態が急転した今に追いつかなくなっていた。
「き、響、わ、私…」
この状態でもまだ涙を流さない親友に、響は焦っていた。
確かに、萌自身がこの集団の中心だが、一番傷ついているのも親友の萌である事は、響が一番、それこそ痛い位理解していた。
だからこそ、響はこのままだと今の萌が、失われてしまう様な例えようもない不安を覚えていた。
(萌ちゃんは、わたしが居るから。わたしは、萌ちゃんが居るからどうにかなってたけど、萌ちゃんが居なくなったら多分わたしも駄目になってしまう)
響は、これ以上何も起きないで欲しいと願った。
もう自分達は、限界であると理解していた。
もし神と言う存在が居るなら、これ以上何も奪わないで欲しいと、響が思った時、先程とは違う爆音が発生し、少女達は意識を失ってしまった。
男が子供を抱き抱えて、少女達の下に戻ると、少女達は全員意識を失っていた。
「ちょっ!?まっ!?」
男もこれには焦りだし、辺りを即座に警戒したが、これといって何かが警戒網に引っかかることはなかった。
「もしかしなくても、トドメさしたの俺かしら?」
どんよりとした空気を男は纏いそうになったが、とりあえず爆発地点から少し離れた所に少女達を全員移動させる事にしたのだった。
長々と話が続きます。