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とある兵士と大切なモノ

 第10話で御座います。



 辺りが夕暮れ包まれた頃、野営地で焚き火を囲んでいるジェフと少女達一行は、少ないながらも食事をして穏やかな雰囲気を作っていた。

 そんな中、ジェフの前に徐栄と李儒が座り、ジェフは何かあるのかと思っていると、徐栄が話し掛けるのだった。


「お疲れ様でした、トルーマン殿。体調の方はどうですか?」


 ありきたりな事から言い始めた徐栄だったが、徐栄の目を見たジェフは、また何か面倒そうな事を言いに来たんだなと思っていた。

 嘘や隠し事が苦手で、真面目な性分の徐栄は顔に含んだ表情が滲み出ているのだ。


「ああ、絶不調だからそろそろ寝るわ。お休み徐栄、李儒」


 そう切り替えされて寝転がったジェフを見てまごつく徐栄を、苦笑しながら見ていた李儒が助け舟を出す。


「お疲れの所を申し訳ありませんが、少しわたし達にお付き合い下さいませんか? ほら、萌ちゃんも」


 そう促され徐栄も、頬を少し赤らめてお願いしますと言ってきた為、寝る体勢だったジェフは起き上がり話を待った。


「…あの時、あの森の中で、貴方に助けて貰わなければ、今頃私達は…あの時より酷い目に合わされていたでしょう」


 其処まで言うと、徐栄は目を伏せ、少し身体を震わせた。

 捕らえられていた時の事を思い出したのだろう。

 朱色の髪を三つ編みにして後ろに垂らし、目元は切れ長で瞳の色も髪と同色の朱色。

 目鼻立ちがはっきりしている上に、身体付きも、聞いた年齢より遥かに成熟しており、これで○代は反則だろ、とジェフが思うくらいだった。

 これだけの器量良しなら、男共に何をされたかなど、火を見るより明らかだと思っていたジェフは、何も言わずに徐栄の話に耳を傾ける。


「貴方には、大変な恩義があります。なので、私に出来る事で少しでもその恩に報いたいのです…」


 ジェフが、回りくどいなと思っていると、李儒が呆れながら促した。


「萌ちゃん、流石に長いわよ? トルーマン様も待ちくたびれてらっしゃるから、早く言っちゃいましょう?」


 そう言われ、う、うん、と赤かった頬が顔全体に広がりながら、徐栄は本題を話す。


「私達にとって、大切な名前である真名、萌を貴方にお預けしたいのです」


 顔は真っ赤だが、目は真剣と言う何とも言い難い状態の徐栄を見ながら、ジェフはふ~んと返した為、徐栄は一瞬怒り出しそうになったが、すれ違いの件もあったので、冷静になろうとした時に、李儒がジェフに解説を始めるのだった。


「トルーマン様に、少し私達の名についてご説明させて頂きますね? 私達の名前は、姓、名、字の3つの他に、真名と言う名前があります。此方は諱に似たものではありますが、親や親族だけでは無く、自身が信用した人物に言って頂く信用の証になります。真名については、注意点がありまして、諱と同じく基本的には言ってはならない名前ですので、例え聞いていても、ご本人に預けられていない場合は決して、言ってはなりません。斬られても文句が言えない位の無礼に当たりますので…」


 説明を受けたジェフは、辟易としていた。


(この国、マジでメンドくせぇ。名前言っただけで殺される? ジョーク。笑い話にもならねぇよ)


 ジェフは、んなもんいらねぇと思ったが、この二人にそんな事を言おうものなら、どんな反発が返ってくるか判らない為、何か良い言い訳は無いかと考え、思いつく。


「俺は、お前達を洛陽まで護衛するだけの、言わば傭兵だ。お前らが、どう思っているかは知らないが、お前らが支払ってくれた報酬である情報ってのはな、聞く人間からしたら(きん)より価値がある。そして、金の価値があると俺が認識したから護衛を勤めてる訳だ。まあ、満寵と言い争った時に前報酬云々言ったが、あれは、嘘っぱちだから気にするな」


 その言葉に反発しようとした徐栄に、早口でジェフがまくし立てた。


「お前らが恩義を感じる必要はないし、真名って奴も預ける必要はない。んじゃな、今度こそお休み徐栄、李儒」


 取り付く島もなくジェフは背を向けて眠ってしまい、徐栄は悲しそうな表情をしていた。

 李儒に至っても同じだったが、少し考えた後、徐栄に話し掛けた。


「萌ちゃん、大丈夫よ」


 悲しそうな表情から延長し、彼女にとっては、拒絶されたに等しい事態に泣きそうになっていたが、李儒の言葉に振り向く。


「何が、大丈夫なんだよ?」


 徐栄の目元の水滴を、人差し指で払いながら李儒は告げる。


「トルーマン様にとって、情報と言うのは価値があると認識していると仰ったわ。わたしみたいな文官や、桂花ちゃんや睦月ちゃんもそれを理解しているし、萌ちゃんだって判ってるでしょ?」


 李儒の言葉に、李儒の目を見ながら、徐栄は頷く。


「なら答えは簡単よ。此処の地理的な情報が、この方にとって価値あるモノなら、他に価値あるモノを渡して差し上げれば良いんです。萌ちゃんは真名を預けたいんでしょ?」


 そう言われた徐栄は、首を横に振りながら答える。


「イヤイヤイヤ、ちょっと待ってくれ、響!? 確かに真名をトルーマン殿に預けたいが、国の機密など渡せる訳がない!!」


 流石に国への反逆行為など出来るわけがないと言う、徐栄に李儒が言葉を返す。


「わたしもこの漢王朝の文官なんですよ? そんな事しません。この方はどなたかを探しているみたいなんですよ」


 森を出た後の旅中にジェフが、「あのクソ女…」と一度だけ悪態をついた事があったのだが、李儒はそれをバッチリ聞いていたようだったのだ。

 そう言われた徐栄は、なる程と頷く。


「トルーマン殿の探し人の情報ならば、きっと価値ある情報に違いないな」


 李儒も笑顔で頷く。


「となれば…うん、洛陽に着いてから急いでやらねばならぬ事が増えたな」


 さっきまで泣いていた何やらはと言う感じで、徐栄は元気を取り戻し、焚き火の下へ戻っていった。


「ふぅ、萌ちゃんはこれで良いかな。さて、トルーマン様。これは独り言ですが、わたしも萌ちゃんも意外にしつこいので覚悟しておいて下さいね? 後、もし情報を手に入れたら、今度こそ真名を受け取って下さい。それでは、お休みなさいませ」


 そう言ってジェフから遠ざかる李儒に背を向けたままのジェフは小さく手を二回振ると、寝息を立てるのだった。



 普通は受け取るであろう真名を、面倒と言う理由でキャンセルする主人公なのでした。



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