蛙の家路
帰れども帰れどもそこに家はない、雨で焼けてしまった私の家が何処かにあったはずなのに。
頼まれたのは数ヶ月前、古物商の姉からの手紙を受け取ったことからはじまる。
僕には姉が10人ほどいた、弟はその倍はいる...。いまどき腹違い親違いは珍しいことでもなく、試験管で生まれてくる子供も徐々に増えているぐらいだ。『不足しているのは物ではなく人員なのだ』と毎日のようにニュースで言っている。問題はそこではない、手紙には綺麗な字で僕と同居をさせてほしい旨が書かれていた。古物商をしている姉は3人いたが、その中で子を持たないと決めた古物みたいな姉が一人...。たぶんこの姉だろう。寝正月期に一度見たことがある、隅のほうで黒甘酒を片手に酔いつぶれ寝ていて、顔はビン底メガネで見れなかったが小柄な女性だったような...気がする。どうにも記憶が曖昧だったが、もし会ったらはじめましてと言えばいいのだろうか?女性とはあまり接したことはない..それこそが問題...。年頃の高校生、しかも男性の安アパートに普通は同居はしてこない、何か裏があるに違いないと疑ってしまう。顔が原蛙人に近かくてドドドブスだったとか?子を持たないのもそのせいかもしれないな...。僕はハズレを掴まされた。接し方もわからない、面識もない、花嫁修業の実験体、それが僕に与えられた罰か...。
よからぬ想像をしているうちに数日たち手紙が何通か届いていた、文面は全て同じで、差出人は全て古物姉さんからだった。心配性な人なのだろうか?一通目のときに書いた同居を承諾する手紙が遅れているのか?どちらにしても僕は待つしかなかった。
日付は今日、姉が僕の家に訪れるのも今日だった。緊張はしていなかったし押し付けられたと落胆するのも失礼な気がしてできなかった。
『ピンポーン』
ベルが鳴り、僕は、はいはいはいと半分惰性で扉を開けた。
どうしたことか扉を開けるとそこには三人いた、前に二人が陣取って、後ろにいたのかもしれないが隙間からズボンが見えているだけで顔は見えなかった。
「姉さん...達..?一人なら部屋が空いてるけど?」
僕はおどろおどろしく聞いてしまった。失礼だったかもしれない、その証拠に姉さん達が面食らっているのが表情でわかった。
『やーね私達は付き添いよー、こんなおばさんが同居してくるわけないでしょー。』
前の二人は笑窪を強調させて手を口にあてた。僕もすいませんと手を頭に当て小声であやまった。
『覚えてない?この子、あなたの四つ上のミケイちゃん。』
美しい人だった、メガネもビン底でなく普通の丸メガネに変わっていて眼鏡越しに見た古物姉さんは僕の想像のはるか上をいっていた。顔はだれが見ても美しく化粧も濃くない。身長は僕と同じくらいでカエル族にはない細身の手足。服装もどことなく流行に乗り遅れたかのようなゴテゴテしていないすっきりとした大人の女性だった。
「これからよろしくねカグチ...。」
「は..はい...。」
声が出なかった、見惚れてしまって、はじめてヘビ族に会ったときみたいに体がうまく動かなかった。姉さん達には部屋にあがってもらおうとしたのだが、用事があるらしく、二人はミケイ姉さんを置いて帰ってしまった。戸惑いながらもミケイ姉さんを部屋に案内して、僕は部屋にもどった。ベッドに寝転がり声が漏れないように枕を顔に当てて、フッシャ~と言葉にならない言葉を喜びのまま吐き出した。大当たりじゃないか!!あんな綺麗な女性今まで見たことがない。テレビに出ている女優でも、あんなに綺麗な人はほとんど見ない。ありがとう人類...僕らに遺伝子操作をしてくれて。僕は地球に居もしない過去の文明人に感謝をささげるとともに、心の底から生まれを祝いながら目をつぶりそのままうつらうつらしていつの間にか眠った。
遠くのほうでストストと音が聞こえる。
朝と思われる時間に起きると全てが用意されていた。味噌汁、焼きおにぎり三つ、魚の塩焼き、ネギ納豆、もう花嫁修業なんていらないんじゃないかと思わせる面子がそこには並んでいた、ふと目をやるとテーブルの上に白い紙が四つ織にたたまれている、紙を開くと僕の額から脂汗がひたひたと流れ落ちた。
新婚一日目ですね
漁港近くの朝市に行ってきます
書置きにはそう書いてあり、いつの間にか新婚ということに...。
僕は姉さんと話がしたい、ミケイ姉さんと切実に話がしたかった。
僕には帰る家があるが見つからない...私の心には大粒の雨が降っていた。
この話は何億年かわからない未来の話
人間が宇宙に移り住み地球を放棄
人間は地球再生を願い動物達に全てを施した
数々の動物達が人間以上に進化した
人間と変わりない姿形思想文明を築いた
しかし全ての動物達が両性具有のアルビノであり
全ての動物が短命であった
ある種は多産を良しとし生態を広げ
ある種は体を作り変え進化を続けた
数々の動物の派生が生まれまた人間へと進化していく
ここにそんな進化から目を背けるカエル族の少年がひとり
工場に卵精子を提供せず独り身で生きようと勉学に励み
努力を重ねるの男性がいた
時を同じくしてここにも変わったカエル族の少女がひとり
過去の文明に古物を通じて魅了され人間らしく生き
愛の形を模索する女性がいた
二人はのちに出会うことになるのだが
それは本編で綴られていく話である
二人は新文明の人間になれるのか?
それは神である存在にも予知することはできないだろう
今日の観測を終わる