表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

第一章 6

「ねぇ……グエルダ」


もしかしたら、今なら先程のことを教えてくれるかもしれない。


駄目で元々。真剣な表情で見つめると、驚いたように首を傾げた。


「カリエ、急にどうしたのさ? 水でお腹でも壊した?」


「違う! 少しだけ聞いてもいい?」


「なにをーー」


言いかけ、何を聞きたいのか悟ったのかグエルダは不自然に目を反らす。


「……なに?」


「さっきは誤魔化してきたし、凄く怯えていたから聞かなかったけど……。さっきグエルダは何を見たの?」


「それは……」


「あんな姿、初めて見たもん。ちょっとした事じゃないんでしょ?」


口をつぐんで俯くグエルダに、カリエは悲しげに眉を歪めた。


「私が信用ならない? リオさんには言えて、私には言えないこと?」


「そうじゃない! そうじゃないけど」


歯切れ悪く呟くグエルダに、カリエは身を乗り出して顔を覗きこむ。


「ねぇ、グエルダ」


「ごめん……言いたくない」


「じゃあ言えない理由を教えて?」


「それも言えないよ……」


頑なに言われ、カリエは目を細めた。


「じゃあいいよ、村に戻ってリオさんに聞くから。なにかおかしな事なかったかって」


「う……」


「それに、私はグエルダと絶交するからね!」


「うぐぐ」


「いいんだ。じゃあね、さよなら。グエルダなんて迷子になってしまえ!」


立ち上がりかけると、慌ててグエルダが顔をあげた。


口を開いたり閉じたりを繰り返し、ようやく諦めたように息を吐きだした。


「分かった。ーー言うよ」


「本当に?」


「本当は言いたくないけど。カリエを巻き込みたくないんだ」


「どう言うこと?」


問いに、グエルダは深く息を吸って川を見つめた。


「正確には見たんじゃなくて、感じたんだ。視線を」


「え、視線? そんなの村の人の誰かじゃないの?」


問い返すカリエに、グエルダはかぶりを振る。


「いいや、ただの視線なんかじゃなくて」


思い出したのか身を震わせ、自身の腕を抱いて続けた。


「――うまく言葉に言い表せないけど。心を鷲掴みにされるような、色んな感情が渦巻いてるような嫌な視線だった。本当に息ができなくて――」


言葉を途切り、喘ぐように大きく息を吸い込む。


「――うまく言葉に、できない。あんな目を向けられたのは始めてだ。とにかく、怖くて恐ろしい視線だった」


「そんな、一体誰が? それに私は何も感じなかったよ……?」


「視線は俺のことだけをずっと見ていたから。すぐに気配は消えたけど……」


悪意とは無縁の場所で暮らしてきたカリエには、聞いただけじゃどんな感覚かわからない。けれど、グエルダがこんなに怯えるなんて相当なのだろう。


村に外から人が来ることすらあまりないのだから、もしや村の人達の誰かが――。


自然に浮かんだ嫌な考えを、カリエは振り払った。


「――だからさっきリオさんに耳打ちしてたんだね。グエルダは姿を見てないんだよね?」


「うん、まったく。リオさんには怪しい人が出入りしてないか聞いたんだけど、やっぱり誰も居なかったって」


「なら、誰かが隠れて忍び込んだ? 一体なんでグエルダを」


「……全然分からない。だから、カリエには話したくなかったんだ」


緩くかぶりを振るグエルダ。


その弱々しい姿に意を決し、カリエはグエルダの手に自らの手を添えた。


「確かに怖いよ。でも私が、私が不審者からグエルダを護ってあげるから!!」


「は? いや、なんでそうなるのさ! 危ない奴かもしれないんだよ!? だからカリエにはなるべく俺の近くにいて欲しくない。……だって、もしかしたら……あぁ、とにかく駄目だ」


「何言ってるの? 私はグエルダといつも一緒でしょ? だから離れたりしないよ」


その言葉に、グエルダは項垂れた。


「そうなんだけど……俺は」


「大丈夫! そんな影から見てるだけの奴なんて私が殴ってやる!! ね?」


ふふんと鼻を鳴らすと、グエルダは苦く笑った。


「なるほど。カリエのパンチは結構強烈だから倒されちゃうかもね。でも、やっぱり気持ちだけ受け取るよ」


「嫌。私が絶対グエルダを護るの。だってーー」


だって、大切な人が目の前で死んでしまうのは嫌だから。


ズキンッーー。


赤い景色が瞼裏に滲む。


(ーーまた、変な頭痛)


微かに顔を顰めたカリエに、グエルダは気づかない。


「気持ちは嬉しい、かな。ありがとうカリエ」


「……ぁ、う、うん。とにかく、帰ったら村長にも報告しなきゃ。見張り番の人を増やしてもらうように」


「そう、だね。でも一応俺は……ぁ」


「ん? 一応俺は、なに?」


「い、いやなんでもない。気にしないで」


「もしかしてまだ何か隠し事してる?」


ジロリと睨むと、グエルダは首を横に振った。


「そんなことないよ。一応俺は注意しなきゃねってこと」


「……もし他にも何か隠してたら、全力で怒るからね?」


「はい、分かってます。っと、それじゃあそろそろ進もうか」


「うん」


カリエは岩から立ち上がって荷物を持ち上げる。と、丁度その時、背後の茂みの草が激しく揺れ出した。


今まで話していた内容が頭に浮かび、カリエはびくりと身を震わせる。


「なに!?」


段々と近づいてくる音に、グエルダはカリエを背後に後ずさった。


短剣を素早く取り出して構えを取る。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ