第一章 2
一階の食卓にて、カリエは母親の作った料理を黙々と食べていた。
「うん。やっぱりお母さんの料理美味しー」
その隣の椅子では、グエルダがテーブルに突っ伏して小さく呻いている。
怒ったカリエに全力で殴られ、その後引っ張られてきたのだ。
ついでに一階へ行くまでの間に散々説教が飛んでいたのはご愛嬌。
ダメージが大きかったらしく、顔だけを持ち上げてグエルダはカリエを見上げた。
「うあー、まだ殴られた所が痛いんだけど……カリエ」
「……」
声をかけられるが、カリエは無視したまま黙々と食事を続ける。
「ねぇ、聞いてる?」
「……聞いてない」
冷たく一言で返され、グエルダは鼻を啜って顔を覆う。
「カリエが冷たい。凍りそうなぐらい冷たい」
「だってグエルダは変態だし」
「…………はぁッ!?」
数秒してから驚くグエルダをひと睨みして溜め息をついた。
先程の事を思いだし、怒りで手が震えてくる。
「私の、私の裸をーーッ。ほんっとに最悪、馬鹿グエル!!」
「それは悪いって思ってるよ! でも、仕方がなかったんだってば」
あの後にグエルダから言い訳を聞いてあげたら、どうやらカリエの母親に頼まれて、寝ているカリエを起こそうと部屋に来たらしい。
「――カリエ、だからグエルダちゃんには私が頼んだんだって言ったでしょう。あまり苛めちゃだめよ?」
と、向かい側で朝食を食べていた女性が、カリエにそう注意した。
黒髪を緩く結った女性、母親の言葉にカリエは首を振る。
「でも、グエルダは私の裸を見たのよ。絶対に、ありえない。しかもジロジロ見てたよね、ね?」
「ぅ、それは……」
「言い訳するのかな〜」
さらに冷えた瞳で見られ、グエルダは項垂れた。
「……いいんですよ、ティアさん。カリエに怒られるのはいつもの事ですし? もう諦めて――」
「ほーう?」
「ッ~~いッ!?」
カリエはテーブルの下で、グエルダの足を思い切り踏みつけた。
痛みに口をパクパクさせて此方を向くグエルダに、カリエは舌を出す。
「まったくもう……。カリエと違ってグエルダちゃんは大人ね。そうだわ、もしよかったら朝食食べていく? まだでしょう?」
「まだです、けど。でもいいんですか? ティアさんの料理美味しいから嬉しいですが……」
「ふふ、全然大丈夫よ。じゃあ今から持ってくるから、ちょっと待っていてね?」
ティアは自身の食べ終わった食器を持ち、台所に入っていく。
ティアからグエルダに視線を移し、カリエは深く溜め息をついた。
「ん? ちょっとカリエ、なんで人の顔見て溜め息吐くのさ」
「ん~、グエルダってばまた遠慮するから」
「そりゃあ、普通は遠慮するよね? カリエは平気そうだけど」
最後の一言を強調して言うグエルダを睨み、カリエは呆れたように首を振る。
「そうじゃなくて……、もう」
「まぁ、なんとなくは分かるけど。……でもさ、村の人たちにはあんまり迷惑かけたくないからさ」