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第一章 14

「……」


向い側の椅子に腰掛けて優雅に紅茶を飲むヒューナを、グエルダは額に汗を浮かべながら見つめていた。


その横でリアは俯き加減で押し黙り、シンと3人の周りだけ静まり返っている。


次いでフルーツケーキを頬張ったヒューナは、ふわりと頬を緩めた。


「ふふ、此処のケーキは美味しいわね。そう思わないかしら」


「そう、ですね」


その姿は、年頃の女の子と大差ないように見える。

だが、それでも直感がこの人に気を許してはいけないと告げている気がして。


早くカリエ達と再会したいな、と深く嘆息した。


「ところで、グエルダさんは何故この街へ来たの? 今日は一人で来たわけじゃないんでしょう?」


またーー違和感。


「……何でそんなこと聞くんですか」


緊張した面持ちで問い返すと、ヒューナは肩を竦めた。

金髪がさらりと流れ落ちる。


「あら、親しくなりたいから聞いただけなのだけれど。柔和な顔に似合わず、怖い人なのね」


「誰かに怖いなんて言われたの、初めてですけどね」


「そう? 私が思うに貴方は、心の奥深くに暗闇を抱えているように見えるけれど。ーー悲しみと憎しみ、そして他者への羨望を感じるわ」


さらりと告げられた言葉に、グエルダは思わず目を見開いた。


ヒューナを睨みつける。


「何が言いたいんですか」


「クスクス、何でもないわ。ただの戯言だと思って頂戴。ーーねぇ、グエルダさん。貴方はこの国を素晴らしいと思うかしら?」


突然の問いに、グエルダは当然だと大きく頷きを返す。


「ーーそれは勿論、陛下のお陰で争いも貧富の差もないですから」


「ふふ、そうね」


窓から見える賑やかな街並みを、紫の瞳に映しだす。


「貴方が言うように、とっても平和でなんの悩みもない国だと思うわ。この国全体が甘い蜜を吸って暮らしている。なんて幸せでーー」


赤い唇を舐め、ヒューナの顔に暗い影が掛かる。


「愚かな者達。この幸せが、偽物だと気づかずに」


「……!」


低く澱んだ呟きに、リアが肩を揺らして顔を上げる。


顔を歪めて苦しそうに胸元を抑えた。


「大丈夫!?」


「う、うん。平気だよ」


気丈に笑うリアの姿に、息を呑む。


「この子の発作は何時もの事だから気にしなくても大丈夫よ。ねぇ?」


「……うん」


「いくらなんでも、苦しんでる妹にそんな言い方はーーッ」


怒りを露わにするグエルダに、ヒューナの鋭い瞳が向けられる。


その有無を言わせぬ瞳に射竦められ、思わず口を噤んだ。


「そんなことは今どうでもいいの。ーーそれより、最後に一つ貴方に聞きたいことがあるのだけれど、良いかしら?」


「……」


無言で睨み返すと、ヒューナは楽しげに口角を持ち上げた。


「貴方は、この国の何処かに眠る『光と闇の竜神』って知ってるかしら」


「ーー竜神?」


「そう、竜神。世界を創造した対なる神。その存在を、貴方は知っている筈よ」


ヒューナの言葉に、ふと思い出す。


家の書斎に、確かそんな御伽噺の本があった気がするがーー。


「その御伽噺に出てくる竜神がどうしたんですか。俺は、そんな話をしてる暇は無いんですけど」


「ん? あら、まさか何も知らないの? あぁ、違うわね。貴方は何も教えられていないのよ」


「それは、どういう……」


戸惑いに瞳を揺らすグエルダに、憐みを顔に浮かべる。


竜神なんて、知るわけがない。


なのに、俺は……。


「本当に可哀想な人。何も知らぬまま、自分の運命が決められているなんて。いいわ」


クスクスと嘲笑い、ヒューナは静かに椅子から立ち上がる。


「折角なのだから、私が貴方に教えてあげましょうか」


ヒューナの手が、スッと此方へと伸ばされる。


途端、


「お姉ちゃん!!」


今まで黙っていたリアが、ヒューナの腕を掴んでいた。


「リア……?」


「あら、何のつもり?」


妹に向けるにはしては、あまりにも冷たすぎる声に驚く。

しかし、リアは臆すことなく首を横に振った。


「まだ、早いよ。今情報を与えても、お兄ちゃんが一緒に着いて来るとは限らない。それに……この街では、私は動けないから」


意味の分からない会話に、グエルダは眉間に皺を寄せた。


2人は一体何を言っているのだろう。


「また出直そうよ。ね?」


「ふぅ、確かにそうね。まだ急ぐ必要はないもの、ゆっくり追い詰めればいいわ」


笑顔を浮かべ、ヒューナは大人しく腕を下ろした。


「リア、行くわよ」


「はい」


名を呼び、リアを背後に携える。


此方を見下ろす紫の瞳が、血のような赤色を写した気がして。


「今日は余計な邪魔が入ったお陰で、沢山お話が出来なくて残念だったわ。でも次こそは、」


ーー貴方を我が元に。


そう言い残し、2人の姿がぼやけてゆく。


「お兄ちゃん、ごめんなさい。……またね」


悲しげなリアの瞳が、最後に深く記憶に残った。

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