第一章 11
「じゃあ先にカリエの予定を済ませちゃいましょ? 何処に行けばいいの?」
「あーっと、ちょっと待ってね。グエルダ頂戴?」
グエルダの背負った荷物を受け取り、バッグをガサゴソと漁り出す。
「んーと、あったあった」
中から紙切を取り出し、覗き込もうとするグエルダを無視してターシャにだけ見せた。
「あぁ、ここね。ってまさか目的ってコレ?」
「そ、そうだけど……まだ秘密だよ?」
「ひゅー、やるわねカリエ!! 可愛いんだからもう!」
「か、からかわないでよ!」
グエルダの不審な者を見る目に、カリエは拳を握りしめる。
「私に何か言いたいことあるのかな? グエルダさん」
「い、いえ。決してカリエがキラキラ輝いて怖いなんて思ってないから!」
「……ふーん、まあいいけど」
「あ、あれ?」
くるりと背を向けると、殴られると思ったのかグエルダの惚けた声が聞こえてきた。
「せ、せっかく街に来たのに喧嘩したくないから……」
「え?」
ボソリと呟き、カリエはニヤニヤと傍観していたターシャを睨みつける。
「素直じゃないんだから〜」
「別に良いの!」
「そう? ウチ的には早くした方がいいと思うけど?」
片目を瞑り、ターシャは人並みを分けて歩き出す。
「案内するから着いてきて。誰かさんが迷子になる前に」
「うん、誰かさんがねぇ」
「俺は絶対迷わない!」
ーー数分後、やはりと言うべきかグエルダは忽然と消えていました。
気がついた時には何処にも居なくて、まさにあっという間だった。
「あ、あれー? グエルダー?」
目的のお店の前に立ち尽くし、頬を引きつらせながらグエルダを探す。
が、人ごみの中に姿を見つけることはできなくて。
「あー、まさか本当に迷子になるとはねぇ。これは探すの難しそうだわ」
額に手を当てて苦く呟くターシャの横で、ぎしりと歯を噛み締めた。
「あれだけ迷子にならないって言ったクセに、ふふふ、覚えてなさいグエルダ」
どす黒いオーラを放つカリエに、ターシャは数歩距離を置いてから口を開く。
「ね、ねぇカリエ。怒ってる時間あったら早く探してあげないと」
その言葉に、カリエはキッと目を吊り上げた。
「いいの、少しは反省させないと!」
「こ、子供みたいな扱いなのね……」
「もちろん! 17歳になって迷子になるなんて子供扱いでいいの。本当あり得ない!」
鼻息荒く腕を組み、しかしすぐにカリエは嘆息した。
「はぁ。けど流石に可哀想だからね。仕方ないから探してあげる」
「そ、そうね。そっちの方がいいかもしれないわね」
「でもどうやって探せばいいと思う? 昔迷子になった時は夕方だったから人が少なくて楽だったけど、流石にこんな人が多いと難しいよねぇ……。グエルダの馬鹿」
肩を怒らせるカリエにターシャは苦く笑った。
「まあまあ、とりあえず此処の周辺を探しましょう。グエルダも迷子になったと分かったらそんな遠くには行かないと思うわ」
「うん。……あー、なんかターシャにも迷惑かけちゃってごめんね。せっかく案内までしてもらったのに」
「いーのいーの。どうせウチ暇だし、それにちょーっとばかり気になることもあるから、さ」
妙に含みのある言葉に、
「気になること? それってさっきからターシャが気にしてることと関係あるの?」
カリエが不安げに問うと、ターシャは瞳を細めて行き交う人々を眺めた。
その顔に言い知れぬ表情が浮かぶ。
「あらら、やっぱバレてたのねぇ。そうね、まだ詳しいことは言えないけれど、でも本人達に黙ってるわけにもいかないかぁ」
そして、ターシャは静かに告げた。
「――あなた達、とんでもない奴に付け狙われてるかもしれないわよ」