第一章 10
カリエは行き交う人混みを子供のようにキョロキョロと見回し、おぉっと声を漏らした。
漸くたどり着いた街では色々な屋台が商品を広げ、ガヤガヤと賑わいを見せている。
それだけではなく煉瓦造りの小奇麗な建物が所狭しと建ち、石畳がしっかりと均等に並べられた街は管理が行き届いていて綺麗だった。
旅人や商人など様々な人々とお祭りのような雰囲気に、カリエは感嘆の息を漏らした。
「さすが流通の街、凄く広いしお店沢山!! でもちょっと人に酔いそうかも……」
そんなカリエに、ターシャはクスクスと笑い、
「ふふ。この街に初めて来た人は皆驚くわ、すごい賑わいだって。
まぁ、港町から王都へ行く途中にある街だから、その恩恵を受けてるだけだけどね。
森に囲まれたあなた達の村は店なんてほとんど無いって聞くけど本当なの?」
「そうだよ!! 年が近い子もグエルダぐらいしか居ないし、お店だって酒場と宿屋と小さな雑貨屋ぐらい! 本当街に住むターシャが羨ましいもん」
「俺は良いところだと思うけどな。落ち着いてて長閑だし、野菜美味しいし」
「私は嫌なのー!!」
「ふふふ。でもまぁ、この街で驚いてちゃ、王都行ったらひっくり返っちゃいそうね」
「あり得るね。凄ーいってずっと言ってそうだなぁ」
けらけらと笑い合うグエルダに、カリエはニヤリと悪人のような笑みをつくる。
「ほうグエルダさん、貴方随分余裕ですこと。王都に行ったら、街を一生彷徨う事になっちゃうんじゃないかなぁ?」
「うぐ……それを言うのか」
くしゃりと顔を歪めるグエルダに、ターシャは興味深そうに顔を覗き込む。
「え、何? グエルダってまさかーー」
「ち、違う! 決して方向音痴な訳じゃない!」
「あ、方向音痴なのね」
「‼」
自分で墓穴を掘ったグエルダの肩を、カリエはそっと叩いてあげた。
「大丈夫だよグエルダ。たとえ方向音痴でも死にはしないから! ほら、迷子になったら私達が衛兵さん達と一緒に探してあげるから、ね?」
「ぷふふ、方向音痴なんてグエルダ可愛いわね〜」
「く、屈辱……」
肩を震わせるグエルダに、カリエはターシャに耳を寄せた。
「それにね、グエルダ方向音痴だからよく迷ーー」
「ぎゃー! それだけは言わないでください!」
止めようと必死に伸ばしてくる手を掻い潜り、カリエは口元に両手を当てる。
「グエルダってばよく昔から迷子になるんだよー。前なんて見つけた時は泣いてたしー」
「うわぁー! 思い出させるなぁ!」
顔を覆うグエルダに、ターシャはやれやれと息を吐く。
「もう子供じゃないんだから、流石にグエルダも迷子にはならないわよね?」
「も、もちろん!」
「ほほーう、ターシャ今の言葉しっかりと聞いたよね」
「えぇ、ばっかり聞いたわ。もしグエルダ迷子になったらどうしましょうか?」
「ねー、何してもらおうかなー?」
「ーー絶対に迷子にならないから!」
不敵に笑う二人を睨み、グエルダは街の中をずんずんと進んでゆく。
「あ、ちょっと待ってグエルダ!」
「迷子になっても知らないわよ?」
その言葉に、ぴたりと足を止めた。
「……」
スススと戻ってきて、顔を逸らして口笛を鳴らした。
上手く吹けてないのが痛々しい。
「まぁ、取り敢えずウチも一緒に居るわ。グエルダが迷子にならないよう案内してあげる」
「良かったねグエルダ!」
「わー嬉しーなー。ありがとうー」
親指を立てて肩を叩くと、グエルダは棒読みで手を叩いた。