第一章 8
「貴方達は何歳なのかな?」
急に年齢を聞かれ、二人は顔を見合わせて眉を顰めた。
「え……私16歳ですけど」
「俺は17ですよ」
「うんうん。やっぱりね」
ターシャは頷き、腰に両手を添えた。妙に大きな胸元が強調されてカリエは唇を噛み締めた。
くッ!
「実は、敬語やめてほしいのよね。ウチは18歳だから歳はあまり変わらないでしょう?」
「え……でも」
戸惑うグエルダに、ターシャは頬を膨らませた。
「いいのいいの! 知り合ったばかりだけど、歳近い人からの敬語って余所余所しいからなんか嫌いなのよね。だからお願い」
「そこまでいうなら……。分かりーー分かったよ」
「改めてよろしくね、ターシャ」
グエルダとカリエが言うと、ターシャは満足そうに頷いた。
「よろしくねぇ〜?」
楽しげに笑うターシャに、カリエはふと自分の気が緩んでいるのに気づいた。
隣を見るとグエルダも自然に笑っていて、ターシャは悪い人ではないと、なんとなく分かった気がする。
「さて、街にさっそく行きましょ。あ、でもちょっと待ってて?」
そう言い、ターシャはサリィに向き直ると耳に顔を近づけた。
「?」
「ターシャ?」
二人が首を傾げて見るなか、ターシャは何かをサリィに囁いた。
『わふッ』
サリィは目を光らせ、耳を揺らした。
「……お願いね?」
『わふわふッ』
サリィは小さく頷いてカリエ達に背を向け、素早く地面を蹴って木々の隙間を沿って走って行った。
「あれ、サリィは何処行ったの?」
カリエの問いに、ターシャはサリィが去った方を見つめる。その瞳が微かに真剣味を帯びた。
「ん、ちょっとお使いにね。サリィの種族は頭がいいから、色々とお願いしてるのよ」
ターシャは視線を此方に戻す頃には、普通の笑顔に戻っていた。
「まぁ簡単なことしか出来ないけれど、本当にサリィは良い子よ」
「へぇ、信頼しあってるのかぁ。いいね」
「勿論よ。私とサリィはずっと昔から一緒にいるもの」
グエルダに自慢げに胸を張り、カリエはふと笑った。
「なんか、私とグエルダの関係みたいだね」
「確かに」
「二人は幼馴染なのね。じゃあ仲が良いのも納得だわ」
しかしグエルダは顔を顰めた。
「んー、よく虐められるけどね。殴られたり、カリエは凶暴だよ」
「言うなぁ!」
グエルダを必死で止めるカリエに、ターシャはくすくすと笑った。
「あはは、それが仲の良い証拠じゃない」
そう言ってターシャは背を向け、サリィが去った方向とは逆に歩き出した。
「ほら、お二人さん行くよー」
「あ、待って!」
カリエは慌てて重たい荷物を持ち、ターシャの後を着いて行く。
カリエ達が来た小さな道とは別道を進みつつ、ターシャは此方を振り返った。
「そういえば、カリエ達は街に何しに行くの?」
「それが、なにもカリエが教えてくれないんだ。酷いよね」
「嘘ー? カリエったら人に言えない理由があるの? いやらしいわぁ」
冗談めかしてにやりと笑うターシャに、カリエは息を呑む。
「んなッ!? また変なこと言って!」
「まあまあ。で、実際のところどうなのよ? お姉さんに教えなさいな」
「何がお姉さんだか! さっきと言ってる事違うよね!?」
「うふふ。敬語は使うなと言ったけど、年齢は上だもの」
「屁理屈!」
カリエは叫び、もごもごと口を動かす。
「へ、別に変な事じゃないけど、内緒だから」
「あ、分かった!」
ふとグエルダは手を打ち鳴らし、カリエを見た。
「大食いカリエの事だから、きっと美味しいご飯目当てにーーうげッ」
「へぇ、今なんて言いかけたの? グエルダさん?」
素早くグエルダの足を踏み付け、カリエは微笑んだ。
痛みにしゃがみ込み、グエルダは口を開く。
「だって、カリエがわざわざ街に行くなんてそれぐらいしか……」
「グエルダー?」
優しく笑いながら拳を作るカリエ。ぼきばきと音が響く。
「それってどう言うことかなぁ? 私を重いと言ったことといい、どうやら馬鹿にしているようで」
「ちが、違うよ。ただ、カリエは食べることだけは逸品だからーー」
「いいから死ね!」
「うぎゃあぁー⁉」
ボコボコと激しい音をたててグエルダを殴っていると、ターシャは一歩後ずさった。
「カ、カリエは怒らせたら危険なのね。グエルダありがとう。貴方のお陰でよく分かったわ」
「ターシャ、助げでくだざい」
「ごめんなさいねぇ。ウチは命が惜しいのよね」
助けを求める声に、ターシャは冷や汗を拭ってスルーを決め込む。
「ふんッ! ターシャ行こう!?」
「は、はーい」
鼻を鳴らして歩き出すカリエの後には、地面に倒れたグエルダが残っていた。