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朱い空  作者: 早川朱音
2/2

祈り

少女は祈りを捧げていた。


雪が積もった地面に膝をつき、顔の前で手を組み合わせ、花の咲いていない花壇の前で、頭を垂れて祈っていた。


空には粉雪が舞っており、少女の頭にうっすらと雪が積もっていることから、祈り始めて長いことが窺えた。


少女は暖かい恰好はしていたが、組み合わされた手は手袋をしておらず、寒さから顔と同様に赤くなっていた。


「リリーベル、そろそろ朝ごはんの時間だよ。」


ざくざくと雪を踏みしめてやって来た少年は、少女に穏やかに声をかけた。


対する少女―リリーベルに返事はない。祈りに集中していて聞こえていないのだ。


それを知っている少年は、リリーベルの頭に積もっていた雪を優しく手で払いのける。

少年も暖かい恰好はしていたが手袋をしていなかった。


リリーベルは頭に触れられて初めて少年の存在に気付いた。


「トール、朝ごはんの時間には早い。」


リリーベルは不満そうな声で、祈りを止めて立ち上がり、膝についた雪を払った。


「祈りの時間には長いんだよ。」


少年―トールは苦笑して言いながら、リリーベルの手を取った。




悪魔を迎えに来る天使。


リリーベルはトールに手を引かれて歩きながらそんなことを思った。


トールはいつも朝早くに家を抜け出して、花壇にお祈りに行くリリベールを迎えに来る。


優しいから放っておけないけど、祈ることを止めさせようとはしない。


やりたいようにさせてくれて、リリーベルの体に支障をきたさない程度に気遣ってくれる。


天使というのはその性格もだが、リリーベルと正反対の見た目からも連想しやすい。


金に珊瑚色の混じる髪ーこちらではストロベリーブロンドというらしいーに、青磁色の瞳。雪よりも白い透き通るような肌、整った天使のような愛らしい顔立ち。


男の子に愛らしいというのも変かもしれないが、事実そうなのだから仕方ない。


リリーベルより一つ年下ながら、兄のように包み込むおおらかさは、普段人を寄せ付けないピリリとした空気をまとっているリリーベルをも優しく突き崩していく。


自分のことを悪魔というのも大げさな例えではない、とリリーベルは思う。


この土地の者にはない烏よりも黒い髪、黒い目、肌も黄色みを帯びており、やはりこの土地には馴染まない色だ。


誰かれ構わず愛想を振り撒く気はないし、元から喜怒哀楽が顔に出にくく、扱いにくいだろうと自分でも思う。


異端者、とまではいかないが、よそ者。得たいが知れないものは「内」にいる者には恐怖であり、排除の対象、悪魔のようなものだ。


そんな自分を受け入れて毎朝迎えに来てくれるトールには本当は感謝していた。


その気持ちを上手く表現できずに、ぶっきらぼうな返事しかできなかったが、迎えが来た時はすぐに帰ろうと、自分の中で決めていた。




この手も、とリリーベルは思う。


迎えに来る最初の頃は拒んでいたのに、いつのまにか躊躇いなく繋いで帰るようになってしまった。


自分の思いを貫く、岩を穿つ水滴のような柔らかな強さがトールにはある。


そういうところが困る、とリリーベルは思う。


雪を踏みしめ、二人は無言で少し速めに歩く。


帰りはいつも寒さから自然と足が速まるのだ。


繋がれた手は互いに冷えきっていたけれど、だんだん熱が伝わって温もり始め、汗ばんでくる頃には家に帰り着いていた。

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