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五話 本と野獣

「おはよ優斗、今日も早いじゃん。」

「ああ・・・」

「もしかして、ミリアちゃんに謝ったの?」

「・・・。」

「・・・あーあ、今日もミリアちゃんに起こしてもらおうと思ったのにな~。」

「・・・。」

「昨日はとんだとばっちりだったな~。」

「・・・。」

「ミリアちゃんの制服姿って最高にかわいいよね~。」

「・・・春也、お前俺で遊んでるだろ。」

「あ、ばれた、でも罪悪感あるなら早めに謝っておいたほうが楽だよ。」

「前に、お前に言った言葉がそのまま帰ってくるとはな。」

「小学校の時の事じゃん! 引っ張るのやめようよ。」

「さて、もう9時になるか、春也行くぞ。」

「行くって何所に?・・・ちょっとまって、まだご飯食べてない。」

「寝坊するからいけないんだろ、早く行くぞ、お昼になっちまう。」

「もう、分かったよ、でも何処かでご飯買ってよ。」

「ああ。」


優斗達は”鳥小屋”を後にする、向かった先はギルドだった。



「ギルド・・・お金稼ぎ?」

「それと情報収集。」


二人は鎧を着た集団の中に入っていく、何所からか「子供が迷い込んだぞ」「かわいいねお譲ちゃん」やらが聞こえてくるが無視をきめこむ、無事に窓口までやってこれた。


「ごめんなさい、アレでも彼らなりの挨拶なの。」

「げせないな。」

「あなたの方が大人ね、で今日は何の用事?」

「仕事を引き受けたい。」

「色々あるわよ、何にする?」

「色々?」

「傭兵ばっかりだけど、基本的には町の問題事を全部。」

「たとえば。」

「ピンからキリまで何でも、そうね近所の公園の草むしりから町の外の薬草収集、モンスターの討伐もあるけどあなた達には無理そうね。」

「そうだな、公園の草むしりからやるか。」

「まぁ妥当ね、じゃーこの紙を持って西地区の広場のパナマノって人の家まで行けるかしら?」

「西地区の広場・・・羊肉のおいしい料理屋がある所か?」

「そう、そこの左2軒隣になるわ。」

「分かった。」


優斗達はギルドを出る、外に出たところで春也に言う。


「じゃー春也後はよろしく。」

「え、僕一人!」

「このぐらいは一人でやってもらわないとな。」

「えー優斗は?」

「俺は他の場所で情報収集だ、春也は仕事をしまくれ、そうすれば町に顔を覚えられるはずだ。」

「うん・・・なるほど、好印象を持たして町での活動をしやすくする作戦だね。」

「じゃー俺は文字やら覚えなきゃいけないからな、本屋をあたってみる。」


二人は別れ別々の行動をとることにした。



      優斗の場合



優斗は春也と別れ本屋へと向かう、以前ダンケに案内された時に目星をつけておいた店があったのだ。


(ここか)


優斗は本がぎっしりと並ばれた店の奥へと入る。

一冊一冊の本を見ながら確認する。


(まったく分からない・・・こっちのは文字が少し違うな、店の人に聞くか。)


定員を探してさらに奥に入る、足の踏み場が狭くなる、カウンターらしきものの前に来ると、そこには本を目隠し代わりに寝ている小柄な男がいた。


(防犯とか気にしないのか・・・つか寝るな。)

「すいません。」

ビクン ガタッ! バァササァー

「あの、だ「うわ、ビックリしたなもう!」

「いや、その何だ・・・そんなに驚くとは思わなかった、てか寝るな。」

「ふー、で何か用ですかね。」

「町の外から来て長く滞在する事になった、しゃべれるのだけど文字が書けなくてね。」

「なるほどなるほど、ちょっと待っててくださいなと。」


小柄な男は本の間を器用にとっとっとと飛び越え品物を選び出す。

そんな小柄な男に優斗は他に注文する。


「出来れば後、絵が入った簡単な本もほしい。」

「あいよ。」


小柄な男は5冊ほど本を抱えて戻ってくる。


「こんな物でいかがでしょ。」


優斗は手に取り本を開き確認をする。


(これは文字が綺麗に並んでるな・・・こっちは絵が入ってる、雑だけど分からないでもないか。)


優斗は本を閉じ小柄の男に買うことを伝える。


「ではこちら五点で銀貨1枚と銅貨20枚ほどに・・・」

「これで足りるか?」

「あい、ちょうどいただきました。」

「そうだ、魔法に関しての本は置いてないか?」

「魔法に関しての本は扱っていませんね、多分何所も置いてないでしょうね、教会の規定で魔法に関する書籍は扱えないんですよ、闇市場にでも行けばあると思いますが。」

「闇市場?」

「西の門から少し北に昼でも暗く湿った通り、闇市場があるそうです、今じゃ表向きは禁止になった奴隷の売買や、通常じゃ手に入らない魔法武具やらが売られてるらしいですね。」

「俺に教えて大丈夫なのか?」

「まぁ、有名な話なんで、それに闇市場も毎回開く場所や時期がばらばらで特定出来ないんですよ。」

「客が来るのかそれで?」

「固定客ばかりらしいので、接点が無ければ分からないと思います。」

「ほぅ・・・まぁ行くことは無いな。」

「ですね、そしたら後は魔法学校の中にある図書館ぐらいですかね。」

「中には入れないか?」

「それもつてしだいかと。」

「・・・。」

「どうか?」

「いや、なんでもない、じゃー本はいただいていく。」

「まいどー」


優斗は本屋を出て宿へと向かう事にした。



      春也の場合



雄図が本屋に到着した頃、春也は西地区の円状に開けた道に着いていた。


(ここらへんだよなー・・・あそこにダンケの家があって・・・一昨日食べた羊肉の店の二件隣、あれか!)


春也は早速、見つけた家へと向かう。


コンコン

「すいませーん、パナマノさんのお宅でしょうか?」


中から数秒送れてから反応が返ってきた。


「はいはい、あけますよー。」


いかにもおばちゃんと言う言葉が合う人が出てきた。


「あー、パナマノさんでよろしいですか?」

「はい。」

「ギルドの依頼で来たんですが。」

「何か依頼してたかしら?」

「公園の草むしりを依頼されてますね。」

「ああ、そうね、じゃーこっちに来てもらっていいかしら?」

「??・・・おじゃましまーす。」


春也は招かれて家の中へと入る、客間を抜けて台所へ、そして裏口へと抜ける、そうすると小奇麗とは言いがたい広場に出た、どうやらここは建物を壁のように囲って出来た広場のようだ。


「ここの草をむしればいいんですね。」

「とりあえず、ここの草を全部お願い、まぁ出来る範囲でいいわ、一人だと限界があるとおもうし。」

「出来るだけがんばります。」

「道具はここにおいておくは。」

「はーい。」


そう言うとパナマノさんは家の中へと戻る。


「(よーし、ここから向こうまでか・・・身体能力が強化されてるとはいえ、結構時間が掛かりそうだな、うん、一時間で終わらせよう。)」


一日ではどうにも終わられそうに無い量の草を前に春也は身体能力を最大限に活かし作業を始める、春也は頭を使う作業はあまり向いていないが、こういった体を使う作業は修行の一環で祖父によく鍛えられていた事もあり、ただの草むしりされど草むしり、春也はある意味極めていた。



      一時間ほど経過


「ふー、一時間以上かかったかな。」


見事に草がすべて綺麗にむしりとられていた、広場の奥は身の丈はあった草も生えていたが、今では日が当たり反対側の家屋が見える。


「(とり終わった草とかどうしようかな・・・にしてもかなりの量だな、手入れとかしてある場所もあったけど、自分の家の周りだけって感じだったな、よし報告するかな。)」


春也は裏口のドアをたたく。


コンコン

「パナマノさんすいません、取り終わった草とか何所に運べばいいですかね?」

「はいはいってええぇ!!」

「?」


パナマノはあわてて外へと出る一面を見渡し、そして山済みになった草を見てから春也に視線を戻し告げる。


「あんたあんな量の草どうやって取ったの!?」

「普通に取りましたけど・・・こうやって」


春也が適当に取る作業を見せる。


「はは、そうなの・・・はは」

「で、このむしり終わった草はどうします?」

「え!? ああ、これだけあれば農家の方で引き取ってもらえると思うから、そのまんまにしておいて大丈夫よ。」

「じゃー依頼はこれで完了で・・・他に何かやることはありませんか?」

「他に!? まぁ探せば色々あると思うけど、今日はこれでいいわ、それじゃこれが約束のお金・・・これだけじゃ足りないわよね、ちょっとまっててね。」

「あーいいですよ、また何か依頼してもらえれば。」

「そんな分けには行かないわ、他のお家の分までやってあるし・・・」

「こんなの朝飯前です」ぐぅ~


春也のお腹が盛大に鳴る。


「そう言えば朝から何も食べてなかった。」

「あらあら、じゃーお昼にはまだ早いけど、作るから食べていって。」

「いいんですか!?」

「遠慮しないで食べていって。」

「お言葉に甘えさせていただきます。」

「そうだ名前を聞いておこうかしら。」

「はい。春也です。」ぐぅ~

「ハルヤね、分かったわ。」


パナマノはいそいそと台所へと向かい春也は客間へと移動する、料理を待っている最中に台所のほうで騒がしそうに他のおばちゃんが入ってきて、草がどうのこうの聞こえてきた、どうやら自分があの量を片付けたのが話題に上がっているようだ、その後、なぜだかおばちゃんが複数呼ばれてお食事会に発展した。



「じゃーギルドの方に報告しておきますんで。」

「またよろしくね。」


食べ終わった春也は初の依頼をかなりの好評かで終わらせてルンルンな気分でギルドへと向かう、午前とは比べ人通りが少なくまばらだ、しかしギルドへと着くとやはり鎧を着た人が溢れんばかりに居る。


(ここは相変わらずいっぱい居るな・・・暇なのかな?)


先ほどは優斗が先導して入っていたので、一人で入るに抵抗が感じられた、しかし優斗の言葉を思い出し中へと入る。

そのまま窓口までやってく来たが人が五人ほど並んでいる。


(・・・・・・・)


待つこと五分、前の人がやっと一人終わる。


(・・・・・・・)


二人目の受付が終わった頃、春也はずいぶん注目されている事に気が付く。


「なぁ、あんちゃん」

「・・・・・・」

「なぁ、おい!」

「・・・・・・」

「お前だよ!」

(やっぱり僕か、めんどくさい。)

「僕ですか?」

「そうだよ、お前さっき二人でいたよな、もう一人はどうした?」

「トイレに行きましたよ。」


平然と嘘を付く、しかし春也は男の目配せに気が付かない。


「へへ、まぁいいや、依頼でもこなしてきたのか?」

「まぁね。」

「じゃー、俺が変わりにここで待っててやるよ。」

「いいですよ、依頼は報告するまでが依頼ですから。」

「そんな事は無いぜ、いつも俺はここで変わりに待っててやるんだ、人の善意を無碍にしちゃーいけないぜ?」

「・・・」(優斗だったらこんな時、なんて言うんだろう)

「おいおい、無視ですかぁ?」ちっ

「いい加減にしないとぶっ殺しますよ?」ニコリ


いつの間にか並んでいた人が居なくなり自分の番になっていて、その先に笑顔な窓口の女性がぶちぎれていた。

迫力と圧力に耐えかねて男が春也から離れる。


「すいません、ああいうのはどうやったら回避できるか分からなくて。」

「まぁあなた達みたいな普通な人は来ないものね。」

「あの、これ先ほどの依頼が終わったので。」

「へぇ、だいぶ早く終わったのね、まぁ二人でやればこれくらいかしら?・・・もう一人は何所へ行ったの?」

「優斗は自分の用事があるからといって、一人で何処かに行っちゃいました。」

「ふーん、二人で一組って数えちゃっていいかしら?」

「はい。」

「じゃーはい、これでよしと、それとこれ。」

「お金?・・・貰いましたよ直接本人から。」

「これはギルドからの特別依頼料よ。」

「特別依頼料?」

「そう、この手の依頼は難度が低い上に雑務ばかりだから、みんな手を出さないのよ、そうすると必然的にどんどんたまってちゃうの、この依頼だって3ヶ月も前のだしね。」

「そんなに前なんですか!?」

「半年もたつとギルド側は依頼が達成されないと賠償やら依頼金の値上げやらして、大変なのよ。」

「それで特別依頼料って事ですか。」

「そう、だから受け取ってね。」

「はい、あ、それと他の依頼とか今受けられますか?」

「今から・・・そうね、じゃー配達お願いできるかしら。」

「配達ですか、分かりました。」

「この書類を魔法学院までお願い。」

「あ、ちなみに学院はどのへんですか?」

「えーと、地図はっと。」


受付の女の人がカウンターの下から地図を取り出す。


「へーこうなってるんだ」

「ここが魔法学院、ちなみに今ここよ。」

「なるほど、じゃー西地区の広場を抜けて北に行けばいいんですね、この地図って売ってますか?」

「これ? 高いわよ、銀貨1枚になるわ。」

「買います。」

「あなた達って貴族かなにか?」

「ただの旅の商人です。」

「そう。」


春也は地図を見た後折りたたんで腰に挟む、窓口の女性に別れを告げ、ギルドを後にしようと出口へと向かう。


「おいおい、あんちゃん、だいぶ金持ってんじゃん。」


先ほどの男が話しかけて来たが無視をして出口へと向かおうとするが別の男が壁になり止められてしまう。


「へへ、お前の連れはトイレには居なかったぜ? もしかして騙してくれちゃったりしてくれた?」

「あの、すいません急用なんで。」

「あーあ、こりゃ迷惑料と慰謝料が必要だな」

「本当に面倒ごとはやめてください、連れに怒られるんで。」

「有り金と持ち物全部」

「はぁ?」

「おいてけって言ってんだよ、ほら脱げ。」


さすがの春也も呆れて言葉が無くなる、すると後ろに居た男が春也を押さえつけようとしがみ付いて来る。


「あー最近の運勢は男にしがみ付けられるのかな、そっちの趣味は無いんだよな・・・」

「暴れると痛いだけじゃすまないぜ、へへ、そいつ男でも穴さえあれば何でもやるからな。」

「マジかよ!」

「先週なんて修道士のじいさん相手にして死ぬまでいたぶってた位の奴だからよ。」

「・・・へーそれ本当?」


春也が冷静に怒りをむき出しにする。


「マジだよ俺が見てたんだからな、だから下手に暴れてくれるなよな!」

「・・・こいつまったくうごかない。」

「いつまでくっついてんだ、押さえつけろ。」


拳を握り全身の筋肉に力を入れ、怒りのままに動こうとしたその時、一人の大男が近づいて自分達を見下す、その大男はだいぶ野生的な獣に近いニオイを放っている。

すると、先ほどまで威張っていた男は黙り、緊張が高まる。


「おいおい、”狂犬”殿が出てくるところじゃねーだろ。」


何とか言葉を口にするが、迫力だけで男が威圧される、引っ付いていた男はいつの間にか離れていた。


「わ、分かったよ、やめるよ、お前に睨まれちゃ何もしないよ、だからそんなに睨まないでくれ、な?」はぁはぁ


耐え切れづに後ろの男が逃げる、するとそれお追いかけるように目の前の男もあわてて逃げ出す。


「おい、逃げんな、置いてくなよー!!」


「はぁ、よかった・・・ありがとうございます。」


春也は向き直り礼を告げる、しかし一向に黙った男は春也を一瞥し、ギルドを出て行ってしまった。


(かっこいいなー、あのぐらいの威圧感はあれば絡まれ無いんだろうな・・・ん?)


周りで物音がしないことに気づく、先ほどのやり取りで回りもかなりの緊張に陥っていた、すると。


「あれ、お兄ちゃんは!? あれれ何所行ったの!?」


なにやら物陰からかわいらしい女性の声が聞こえた、その女性はまだ若干あどけなさが抜けないといった感じの反応に、周りに雑音が戻り始める、やがて入ってきたときと同様の騒がしさへと戻る。

棒立ちになりながら春也は先ほどの女性と目が合い、話しかけてくる。


「ねぇねぇ、さっき大きな男がここ通らなかった? 私のお兄ちゃんなの。」

「え!? 通った・・・よ、外に。」

「そう、ありがと!」


短い会話を後にその女性が外へと走って行った、その後を見つめて春也はまた唖然としてしまう。


(・・・獣耳!?)


そう彼女には人間の耳と呼べる部位が無く変わりに頭の上に三角の尖がりあった、しまいに去っていく後姿には尻尾も着いていた。

優斗は数秒固まっていたが、自分の仕事を思い出し、出口へと向かう。


(優斗に報告しなきゃ!)

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