二話 不思議な力
二人は町らしき光の方向を目指し夕闇の中を歩き出す。
森を出るまでは二人は無言だった。
「何とか完全に暗くなるまでには森を抜けられたな。」
「優斗大丈夫?」
「何がだ?」
「だいぶ疲れているように見えるけど。」
「そりゃあんだけ走らされて、森の中を駆け巡れば疲れる、お前と一緒にするな。」
「日ごろの鍛錬の成果だな、うん」
「一人で完結するな、それにしてもお前のその力は何所から来るんだろうな、それとも爺さんの日ごろの特訓の成果か?」
「冗談ぬきな話だと、この世界に来たときからなんだけど、ずいぶん体が開放されたって言うか・・・今までが何かの枷に縛られてたというか・・・。」
「なるほど、春也くんは新たな力の解放で無敵な体を手に入れたと。」
「それを言うなら優斗は何も感じないの?」
「依然と何も変わらないが。」
「そうなのか」
二人は話しながら、傾斜のかかった野原を光が見えた方向へとまっすぐに歩き出す、やがて道と思える二つの溝が左右へと続く所までやってきた、ちなみに右は森の中へと、左は丘へと続いている
「あ、道がある、これって人が住んでる証拠だよね!」
「多分な、それにしても月明かりのおかげでここまで無事にこれたが・・・!!?」
「そうだね、どうした?」
優斗は月の位置を確認しようと上を向き、驚く。
春也は続いて夜空を見る。
「うわぁ、月が二つあるよ、でっかいのと小さいの・・・。」
「月以外にも星の配置がだいぶ違う・・・。」
「確実に地球外ですね、優斗先生。」
さすがの優斗も許容範囲を超えたのか、それ以上の事を言うのをやめた。
二人は道と思われる道を歩き出す、道は丘へと続いている、少し傾斜だ、そして丘を越え町らしき灯火が見えた。
「あれか・・・。」
「大丈夫かな・・・本当に人が住んでるかな?」
「そこは祈るしかないな。」
さらに30分ほどくだり、校舎ほどあるのではないかと思えるほどの巨大な影が見えてくる、やがてその影が門であることが分かる、門の前には小さな小屋があり、中から光が見える、そんな所まで近づいて二人は止まる。
「日本語通じるかな?」
「十中八九通じないだろ普通」
そんなやり取りを交わしていると、中で外の気配を感じたらしく、外を見るための小窓が開く。
「おい、外に誰か居るのか?」
小窓が開く瞬間、二人は生唾を飲み込んで警戒した、だがしかし中から掛けられた声が日本語で話しかけられた事により、二人は驚き、数秒の間返答できないでいた。
「おい、そこの二人、聞いてるなら返事ぐらいしろ、入れてやらんぞ?」
優斗は何か違和感を感じたが、あわてて返事をする。
「すいません、日本語が通じるとは思わなくて。」
「おい、そこで止まれ!」
優斗らが不用意に近づくと止められてしまった。
中から3人ほどの鎧と思しき格好をした人間が出てくる。
槍が見えた瞬間二人は警戒する。
3人の中で前に出た一人が話しかけてくる。
「後ろのお前何を持っている、見せろ!」
どうやら春也の掲げているイノシシもどきが気になったらしい、春也は慎重におろす。
暗がりで全体像が見えなかったらしく光の下に入った瞬間、鎧を着た後ろの二人の門番が槍を構える。
「おい、こいつをどうした?」
話しかけてきた人物は動揺もせづに優斗に話を続ける。
対して優斗も正直に答える。
「森の中で襲われて、後ろのこいつが倒した。」
「そうか。」
門番が二人を見ながら間をおいて言う
「それは小屋の外の脇にでも置いて・・・まぁ中に入れ。」
二人は警戒しながらも春也は小屋の脇にイノシシもどきを移動させて、小屋の中へと優斗に続く。
優斗は春也に小声で話しかける。
「(俺が話をあわせる。)」
先ほどまで暗がりだったため顔が良く見えなかったが、今松明の明かりの下で男の顔がはっきりと判別できる、見た目は髭の性で年が判別しにくいが20代後半ぐらいだろう、そんな事を考えていると、男が問診してきた。
「何所から来た?」
「日本からきました。」
「ニホン?・・・聞いたこと無いな。」
「よく言われます、東の最果ての地で、さらに海を渡った所にある小さな島国です。」
「そんなところから来たのか、世界は広いな・・・。」
「ちなみにこちらは・・・?」
「ん?・・・ああ、ここは”ランドリア”の”メルビム”だ。」
「メルビムでしたか。」
「話を変えるが、さっきのでかい”ノルド”は二人で倒したのか?」
「いえ、先ほども言った様に連れが倒しました。」
「あんなデカブツを一人でか・・・。」
「見ていたでしょう、一人で軽々とあの巨体を持ち上げていたのですから。」
「・・・。」
両手を組みうなる門番。
「分かったそういうことにしておこう、そう言えば名前を聞いていなかったな。」
「名前は砂原優斗ともうします、隣のこいつは。」
「霧島春也です。」
「そうか変わった名前だな、俺は”ハンス=ボークマン”だ、ハンスと呼んでくれ。」
その後ハンスと名乗った門番に他にも聞かれたが、優斗はすべて答えた、本当3割嘘7割程度で・・・。
二人は小屋の奥・・・門の反対側に通じる扉に案内されて町へと入る。
「じゃー明日、門が開いたらアレを取りに来いよ!」
二人はハンスに別れをつげ、紹介された宿へと向かう。
「すごいな・・・RPGみたいだ、でも、日本語が通じてよかったね!」
「ああ、でも・・・ハンスさんは日本語を話してはいなかったように思える。」
「え?」
「違和感を感じて、注視していたから分かった、口の動きが妙だった・・・多分俺達には都合よく日本語に聞こえるんだろ。」
「と、とりあえず、これ以上の事は深く考えても仕方ないな・・・前向きに行こう!」
「だな、そういう春也の考え方は嫌いじゃない。」
二人は宿へと続く道を歩きながら町の外観を堪能していた、やがて宿らしきにぎやかな店の前までやってくる。
「ここだな、入るか。」
春也の返答を待たずして中へと入る、若干奇妙な目を数人が向けてくるが、すぐに目お戻して手に持った酒へと細い意識を向ける。
奥にあるカウンターへと近づく二人、優斗がカウンター越しにいるの厳つい中年男に話しかける。
「ここが”鳥小屋”か?」
「ああ、そうだが・・・何のようだ?」
「門番のハンスって人から紹介された、部屋を借りたい。」
「銅貨2枚だ。」
「すまない、今は持ち合わせが無いんだ、物々交換は出来ないか?」
「まぁいいだろ・・・見せてみろ。」
優斗は持ってきたサバイバル用品の中からマッチを取り出す。
「これなんだが、見たことはあるか?」
「いや初めてだが・・・何の道具だ。」
「これは火をおこす為の道具で、マッチと言う。」
「こんな小さな棒で火を起こすって言うのか?」
「まぁ見ててくれ、これをこの箱の茶色い部分ですばやく擦るんだ。」
そういって火を点けてみせる、すると中年男が驚いたように火を見つめる。
「すげーあんた魔法が使えるのか!」
「魔法・・・ああ、これには魔法がこめられていて、この赤い部分をこの茶色い部分で擦れば火が出る仕組みなんだ、俺自体は魔法は使えないよ。」
「ほほぅ。」
「で、どうだ取引は成立か?」
「いいだろ、好きな部屋を使ってくれ、奥の階段から上がれば開いている部屋があるはずだ。」
「ちょっとお父さん!何やってるの!?」
「ん? ちょうどいい、この人たちを部屋へ案内してくれ。」
そこには先ほどまで忙しそうに配給をしていた女が居る、話からして中年男の娘だろう、背は自分達より若干低く、髪の色は赤く、そして長く背中の半分、後ろ髪は束ねてある、顔にはそばかすがあるが、そんなものが逆にチャームポイントと思えるほどの綺麗に整った顔立ちをしている。
「まーた変なのにひっかかって・・・何これ?宝石箱?」
「これはマッチって言って火を起こす魔道具だぞ。」
「何言ってるのお父さん、これ魔力も何も無いじゃない、ただ木の先を赤く塗っただけよ」
「お前こそ何を言ってる、ちゃんと・・・ほら火を起こせるじゃないか、客に失礼だぞ。」
本当だとつぶやいて娘がマッチを見つめた後、自分でも試してみたくなったのか、マッチを手に取ったが父親にそれ以上はもったいないと止められる、しぶしぶ優斗達を二階の部屋へと案内する。
「あんた達、私は騙されないからね、そんな変な黒い服着て。」
春也が”はは”と自嘲気味に笑う
「はい、ここがあんた達の部屋・・・あと、もう変な物お父さんに見せないでよね。」
「分かった、部屋を案内してくれてありがとう・・・えーと。」
「ミリア、ミリア=ボークマンよ。」
「砂原ゆ「霧島春也です!」」
「砂原優斗だ。」
「変わった名前ね、えーとサハラって呼べばいいの?」
「ああ家名は砂原で名前が優斗だ。」
「ふーん、本当に変わってるわね・・・ユートと・・・。」
「春也です。」
「そう・・・ハルヤね、覚えとくは。」
そういうと、下から大きな声でミリアが呼ばれる。
「じゃ、私まだ仕事あるから。」
「また!」
春也がミリアが見えなくなるまで目で追いかけた後、部屋に入る。
「ふーやっと一息つけるな。」
「ミリアちゃんか。」
「収集する情報が多すぎるな・・・。」
「ミリアちゃんかわいかったなー。」
「最後に魔法と言う単語ごが出てきて考えるのをやめそうになったが、まだ早いか。」
「ミリアちゃんって何が好きかな!?」
「・・・。」
「優斗どうした、何時に無く侮蔑な目で。」
「そうだ、こいつを殺して俺も死のう、そうだヤッちゃおー。」
「うわぁ、すまんすまん、もうしないから、キャラ戻ってくれ!」
「・・・・・・本題に入るからな。」
「うん。」
「とりあえず、ここが何所なのかって情報だ、”ランドリアのメルビム”・・・多分”ランドリア”ってのは国もしくは大陸の名前でそこの”メルビム”って町、その中の”鳥小屋”って宿だ。」
「宿に”鳥小屋”って名前か・・・。」
「それについてもある程度憶測は立ててみた、多分そういうふうに翻訳されたんだ。」
「翻訳?」
「さっきも言っただろ、都合よく日本語に聞こえるって。」
「ああ・・・勝手に自分達で都合よく日本語に変換してるから”鳥小屋”っていう単語を頭が勝手に翻訳したと?」
「頭が翻訳しているのかは分からないが、この世界の何らかの力が働いてるんだろう。」
「自分も世界の何らかの力が影響して、力がみなぎっているということになるのかな?」
「だろうな、それにさっきカウンターで聞いた魔法・・・関係性があるだろ魔力がどうのこうの言ってたし。」
「ファンタジー!」
「ギャルゲーの方が何ぼかましだ。」
「いいじゃんミリアちゃん居るし!」
「そういう問題じゃない、今までの物理法則やら何やらが通用しないかも知れない、今息してるのだって空気とは限らない・・・そのなんだ、魔力とか言うのかもしれない。」
「まじか・・・まぁいいんじゃない? 生きてるし。」
「だな。」
「そういえば、ミリアちゃんも、”ボークマン”って言ってたねハンスの妹さんかな!」
「そういう事は覚えているよな・・・。」
その後二人はカップ麺を取り出しサバイバル用ガスこん炉でお湯お作り食べることにした。
まだ寝付くには早く、優斗は今日の情報をノートに書き移す、春也は筋トレをするなどをして寝付けるまで暇をつぶした。
そして朝を迎える・・・。




