片岡飢人
ほぼ思いつきで書きました。半分は創作です。
ある日、聖徳太子が遠出をした。
道中で、乞食や行き倒れを見かけるたびに食物を恵んでいたので、沢山あった食事もほとんどなくなってしまったし、予定よりだいぶ時間が遅れて、従者はいらだっていた。
辺りが暗くなってきた頃に片岡山を通った。
すると、道端に飢えて倒れている人がいた。
話しかけてみたが、言葉が喋れないようだった。
聖徳太子は残った食事と水をあげようとした。
そこで従者が言った。
「太子よ、失礼ですが、この世には飢えて死ぬ人間は山ほどいます。
たとえ太子が会う人全てに施しものをしたとしても、その全てを救う事はできません。
この人は今日助けても明日死んでしまうかも知れませんし、助かったとしても、我々の見えない所で多くの人が死んでいるのです。
この人を助けて、他の人々を助けないのは不公平ではありませんか。
皆を救うことができないなら、いっそ施しなどやめるべきです。」
聖徳太子は言った。
「今死にかけているこの人を捨てて行けば、慈悲の心そのものを否定する事になる。
そうしたら、たとえ私に全世界を救う力があったとしても、誰も救われはすまい。」
聖徳太子はその人に食事と水をあげて、自分の服を掛けてやった。
翌日、同じ場所を通ると、その人は死んでいた。
聖徳太子は悲しんで、そこに彼を埋葬して、彼にあげた服をまた着た。
完