第9回 誤解のあと
美咲は夕飯の支度をしながら、絶えずため息をついていた。
これから、旦那とやっていかないといけないのか……。
夕飯の支度をしていると、圭介が帰宅した。
圭介は着替えながら考えていた。
(夕方電話したら、鼻声だったんだよな……)
「ほんとに大丈夫なのか? 無理してるんじゃないのか? 休んどけよ」
「今日は優しいじゃない?」
圭介は腕まくりしてキッチンに立つ。
(今日は……か)
「いつも感謝してるよ」
美咲は自分の理性の制御ができなくなっていた。
「そんな嘘ばっかり!」
「どうしたんだよ」
圭介は美咲の手首を掴んだ。
「離して!」
「何があった?」
圭介が優しく聞くと、美咲は横を向きながら頬に涙が伝う。
「あなたから見て私は何? 家政婦?」
「何言ってんだよ。妻だよ。家事やりたくないなら言ってくれればいいのに」
「だって、夫婦らしいこと何一つしてないのよ。会社では上司と部下だし、家でも変わらない。……それに、会社にいい人がいるんでしょ?」
「いい人って?」
「私の同僚の渋谷さんとできてるんでしょ? あなた」
美咲は、圭介を睨む。
圭介は深いため息をつくと、美咲の背中を優しく支えて誘導した。
「座って話そう」
リビングに移動してソファに座った。
「社長の命令を飲んだ俺が悪い。ごめん」
「どういうこと?」
「実はさ、社長と渋谷くんができてて、裏工作頼まれてたんだ。部長として……」
「なにそれ」
「伝書鳩状態だよ。それでお前が誤解したんだ」
「嘘よ。信じない」
「じゃあ、今から社長に電話して断るよ」
そう言って、圭介は電話をしている。スピーカーにして。
「あ、社長? 今まで渋谷くんとやりとりしてましたが、妻に疑われたので、明日からその役を降ります。すみません」
『吉田くんか。そうか……。すまなかったな。まあ内密に頼む』
「はい。失礼します」
圭介は口をへの字にして、おどけた。
「こんな感じ。ごめんな」
美咲の顔が少し赤らんだ。
「あと……夫婦生活もないじゃない」
「お前がさ、嫌がってから気になってさ……。俺って結構繊細だから」
「あー……」
(確かあれは、優斗に会った後だわ……)
「ごめんなさい……」
「嫌なの?」
美咲は首を振った。
「じゃする?」
答える代わりに、美咲は圭介に抱きついた。
(……ごめん、圭介。裏切って――)
美咲は満足そうな、幸せそうな笑みを浮かべていた。




