第6話 昼休みの着信
美咲は昼休みに自席でお昼を食べていた。
スマホに電話通知が表示される。電話がかかって来たが、知らない番号だった。いつもなら出ないのだが、誤って通話ボタンを押してしまった。
スマホから聞き慣れない女性の声がした。
(間違い電話かな……?)
次の瞬間、思ってもみなかった単語が耳から入ってくる。
「佐藤優斗の妻です」
美咲は勢いよく立ち上がると、周りのデスクでうたた寝していた同僚が美咲の方を見た。
あわてて掛け直すとだけ伝え、とりあえず電話を切った。
美咲の顔は青ざめていた。
事務所ビルの一階ロビーを抜けて外に出た。
人目を避けるように、ビルとビルの間の暗い隙間に入ると、スマホを見つめる。
(早退してかけ直そうか……旦那に見つかったらやばい)
美咲の夫、吉田圭介は、同じ会社の部長だった。
(早退しよう……)
事務所に戻ると、直属の上司に早退することを伝え、家に帰ることにした。
美咲は電車に乗っている間も、またかかって来ていないか、何度もスマホをチェックするのだった。
家に帰る途中、いつものように買い物しようと考えたが、体調不良にしたことを思い出す。
(そのまま帰らなきゃ……)
美咲は家路を急いだ。
◇
(どうしたのかしら……?)
美咲に電話した絵里は、なかなか電話がかかってこないので、機嫌が悪くなっていた。
(美桜のご飯ずらしたのに……)
絵里は美桜に幼児食を食べさせていた。
「ほら、もぐもぐしてちゃんと食べなさい」
美桜は、ベビーチェアに座ってスプーンを握って、テーブルを叩いている。ご機嫌な表情だ。絵里が手伝って食べさせる。
「まんま」
美桜が下に落ちた人参を見ている。
(昼寝の時間になっちゃう……。そのうち、幼稚園の迎え時間になっちゃう……)
絵里は、美桜のほっぺたについたコーンを人差し指で拭い、そのまま口に入れた。
食べさせ終わって、炊事をしていると、スマホが震えて電話通知が表示された。
《みさ》からの電話だ。
「もしもし?」
『佐藤さんですか?』
「はい。突然ごめんなさいね。みささん」
絵里は美桜を抱っこした。
『なんで私の電話番号知ってるんですか?』
「優斗が教えてくれたのよ」
『……』
美桜が「あー」と喋りながらスマホを触ろうとする。
「こら、美桜」
『お子さんいるんですか?』
「はい。二人います」
しばらく、沈黙。
(これは……黒かな……? カマかけてみるか)
「優斗は、あなたと別れたいと言っています。騙されていたんだと」
『なっ! 何言ってんの? 優斗、独身の医学生って言ってたのよ?』
絵里は少し笑った。
(やっぱり、そうだ)
「本当にごめんなさい。遊びだったと言ってたわ。優斗、普通の会社員よ」
『ひどい……』
《みさ》の声は震えていた。
「お互いのためにならないのだから、やめにしましょう」
『……』
「では」
そう言って、絵里は電話を切った。
「まま」
美桜が絵里の顔に手を伸ばす。
絵里は美桜をぎゅっと抱きしめた。




