第4話 嘘つきも、恋をする
優斗と絵里は、あれから表向きは特に問題はなかった。
朝、絵里がお弁当を作り、朝ごはんを食べさせて、優斗を見送る。幼稚園の時間になれば、大地を幼稚園バスまで見送る。
絵里の頭の中には、ずっと《みさ》《なな》の文字が残っていた。
(美沙? 美砂? 奈々? 菜々?……)
優斗は、過去に何度か浮気したことはある。その場では反省をするが、また繰り返す。
しかし、絵里は離婚するよりも子供のためにも自分のためにも我慢してしまう。
毎回、優斗の『もう二度としない』を信じてしまうのだった。
そんな優斗でも、浮気以外は特に悪いところはなかった。逆に優しく、気の利く明るい亭主だった。
(美桜も小さいし、我慢するしか……。とりあえず証拠を掴まないと……)
昼間、絵里は証拠を掴む方法を色々と考えていた。
◇
土曜日。
今日は、優斗は私、奈々と会う約束をしていた。
いつもの喫茶店に優斗が先に来ていた。
いつものように手を振る優斗。
私が優斗のテーブルに座ろうとした時、隣のテーブルの女性が倒れ、グラスと一緒に地面に落ちる音がした。
ガシャーン!
私は一瞬、頭が真っ白になり、何をしたらいいのかわからなくて立ち尽くしていた。
優斗もじっと倒れた女性を見ていた。
少し離れたテーブルの女性が近づいてきて、倒れた女性に話しかけた。
「私看護師です。大丈夫ですか?」
その女性は、倒れた女性の状態をテキパキと確認する。
私はなすすべなく立っていた。
優斗は小声で、「大丈夫ですか?」と言いながら立ち上がったが、動こうとしない。
倒れた女性は、意識があり、自分で立ち上がった。
「大丈夫です」
喫茶店の店員が来た。
「立てそうですか? 良かった。ガラス片付けますからあちらに座っていてください」
看護師の女性は、倒れた女性を椅子に座らせ介抱していた。
私は優斗にこう言った。
「見てあげたら?」
「まあ大丈夫だろう」
優斗はそう言って椅子に座った。
「もう……大丈夫です。お騒がせしました」
「なんかあったら声かけてくださいね」
看護師の女性は、微笑んで元のテーブルに戻っていく。
事態は収束したが、私の気持ちは高ぶったままだった。
「……優斗。医大生って嘘ね?」
優斗はしばらく黙った。
「……ごめん。言い出せなかったんだ。以前、医大生? って聞かれて返事した時から……」
「あっそう……」
「ほんと、ごめん。騙すつもりはなかったんだ」
優斗はテーブルに両手をついて謝る。
「……帰る」
私はそのままお店を出て、車に乗った。
(信じらんない!)
車のエンジンをかけると、優斗のすまなそうな顔が浮かぶ。
(……ちょっと一方的すぎたかな……)
「言い訳くらい聞くか……」
車を喫茶店の前に着けて、優斗が出てくるのを待った。
電話が鳴る。優斗だった。
『ほんとにごめん。悪気はなかったんだ……』
「……車、前に着けてる」
優斗が店から出てきて車に乗った。
「言い訳はしない。でも、凪くんが医大に行くって聞いて見栄張ったんだ。奈々に良く見られたくて」
「何でそんな嘘ついたのよ……。他は嘘ついてない?」
「ついてないよ。……嫌いになった?」
優斗が私の手を取って、指を絡めてくる。優斗の手が温かかった。
「なりそうになった……」
「……ごめん」
優斗が私の前髪を優しく払う。
私は優斗の顔を見つめた。
「こんなに好きなのに……。まだ、嘘ついてるように見える?」
「ううん」
優斗が優しくキスをする。
(私……やっぱり優斗が好き……)
「奈々と一緒にいたい。いつものところ行こう」
「……わかった」
私は、いつものホテルに車を回した。




