第14話 訪問者
優斗は新星建設でまだ働いていた。
大口案件を落としてから、小口案件担当にされていて、会社でも信用の失墜となった。
「田村くん、保育所の改修工事の見積り出しに行こうか」
「はい、課長」
保育所につくと、幼児の黄色い声が聞こえる。
(――最後に大地、美桜に会ったのいつだろう……)
理事長に挨拶に行った。
「新星建設の佐藤と申します。今日は改修工事の見積りを持って来ました」
「理事長の秋野です。よろしく」
秋野は見積りに目を通すと、頷いた。
「想定通り。で、実際の工期はいつからいつになりますかね?」
「来月の十五日から一ヶ月になります」
「意外と長いね。まあ、ここも古くなったし、仕方ないか……」
「なるべく早く終わるよう進めますので。あと、お子様たちの安全を考え、園庭にプレハブを建てまして、退避一時教室とします」
「遊び場が狭くなるけど、仕方ない」
「安全第一で行きますので……よろしくお願い致します」
優斗と田村は深々と頭を下げた。
「じゃ、よろしく頼みますね」
「「はい」」
帰り、大地と同じ年頃の男の子が遊んでいるのを見て、胸が痛くなった。
「帰りは君が運転してくれないか」
「はい、課長」
優斗は、絵里と別れてから、大地と美桜に会わせてもらえていなかった。二人の可愛らしい笑顔を思い出す。
(大地……美桜……)
帰りの車の景色が滲んでいた。
◇
絵里は朝早く起きて二人分の弁当を作り、美桜のオムツの代えや着替えなどの保育園の準備をして、朝ごはんを食べさせて、仕事の準備もする。朝から夜までフル稼働だ。
しかし、忙しさにも慣れ、何より心は自由だった。
絵里の新しい仕事は、病院事務だった。
ようやく仕事にも慣れてきたが、仕事も毎日忙しかった。
受付のデスクに座ると、すぐに電話が鳴った。患者からの予約変更、保険証の確認、診療報酬の入力。端末と伝票を行き来しながら、絵里は手を止めることなく対応する。
隣の同僚が書類を渡してきた。入力ミスが許されないので、一文字ずつ確認しながら処理する。間違えれば患者や病院に迷惑がかかる、という緊張感が常にある。
少しの仕事の合間に、ふと子供のことを考えた。大地はお弁当ちゃんと食べるだろうか、美桜は熱が出たりしないだろうかと心配になった。
仕事帰りは、急いで保育園に迎えにいく。
保母さんから子供達の園での様子を伝え聞く。保母さんには感謝していた。
買い物に行き、夜まで子供の世話。忙しいながらも子供達との生活は、楽しかった。
寝る前の絵本読み。子供達が寝た後、考える時間が来ると、やはり優斗のことを思い出してしまう。
未練ではないが、失ったものとしてまだぽっかり穴が空いていた。
◇
――数年後。
優斗は、ずっと一人で暮らしていた。
何度か女性を口説きかけたこともあったが、直前で止まった。自分でも驚いていた。
何より心の中に占める子供達の割合が高かったからであろうか――? 優斗自身、理由はわからなかった。
楽しみはといえば、テレビを観ながらの毎晩の晩酌くらいだった。
最近、昔の元彼女たちと連絡を取り合うことはあった。奈々、美咲、そして、絵里。
みんなそれぞれの生活を充実させていた。
絵里も今ではラインでやり取りできるくらいにはなっていた。子供達とも年に数回会わせてくれている。
奈々は結婚し、美咲には子供が産まれ、絵里は……新しい彼氏ができたらしい。
(結局、取り残されたのは俺だけか――)
そんなことを考えていると、夜、誰かがドアをノックした。最初空耳かと思ったが、ドアを開けると、彼女が立っていた。
「君か……。どうしたの?」
「近くまで来たから……。ふらっと寄る時間でもないけど」
そう言って彼女は笑う。
「なんかあった?」
「ううん。でも、なんか会いたくなっちゃって」
「……なんもないけど、とりあえず上がれば」
優斗は頭を掻いた。
「お邪魔します」
彼女は両手を重ねていた。左手の薬指の指輪だけが、妙に光って見えた。
「なんで来たの……?」
「顔見たくなっちゃった……」
彼女はそう言って優斗の首に手を回した。優斗も抱きしめる。
「寂しいのかい?」
彼女は頷く。
(上手く行ってないのか……?)
「俺には慰めてあげることしかできないよ」
「いいよ」
二人は唇を重ね合った。
未来のない関係がまた始まる――。
最後までお読みいただきありがとうございました。コンテスト用として書きました。
予定と違って復讐劇とまでは行きませんでしたが、嘘をつく心理を私なりに追ってみました。
楽しんでいただけたら幸いです!




