第13話 虚実の波間
「一つだけ約束、いい?」
私と優斗は、熱海に車で旅行に出かけた。
東名高速に乗り、小田原を抜けたところだ。運転手は私。
「ん?」
「この旅行は……体の関係は無しね」
「なんで?」
優斗が私の首を指で撫でる。
「もう……。触れたら帰るよ」
優斗の手が止まる。
「実は、これを最後にしようと思ってるの」
今日私が車を選んだのは、いつでも帰れるからだ。
「私カメラマンだから、あなたをいつか撮りたいと思ってたの」
「ほう。……でも、最後って、会うのが最後ってこと?」
「そうだよ」
「まじ……」
優斗が真顔になった。
「前に言ったと思うけど、奈々と一緒になりたい。もう離婚するし……」
「そういうのね、もう信じられないの……なんであなたって、息をするように嘘をつくの?」
「俺自身は、嘘をつこうと思ってないんだ……ただ、相手を傷つけたくないだけなんだ」
「目先のことしか考えてないってことね。より深く傷つけてる」
「結果的にそうなっちゃってる……」
優斗は下を向いた。
「あなたってさ、相手が誰でも《特別》って言えちゃう人でしょ」
「惚れっぽいんだよ。みんな魅力的に見えるんだ」
優斗は目を瞬いた。
「だからって手を出すの?」
私はバックミラーとドアミラーをみて、ウインカーを出して高速を降りた。目的地が近かった。
「いまは奈々だけだよ」
「自分で自分の首絞めたくせに。私もいなくなるんだから」
「奈々……文句言いに来たのかよ」
「さあ、どうかな……着いたわ」
目の前にはビーチが広がっている。
車を降りると、オフシーズンながら気持ちがいい。
私は凝った背中を伸ばした。
優斗は海の波の近くに歩いて行った。
私は車からカメラを取り出した。
――カシャ、カシャ、カシャ。
海をバックに優斗を写真に収めた。
やはり、絵にはなる。
身長が高いし、見た目もかっこいい。
写真を撮りながら思った。
(なんでこの人はこうなんだろう? ある意味、自分に真っ直ぐってことなんだろうか)
宿に到着した。
部屋でも写真を撮っていた。
「なんかモデルになった気分だよ」
そう言って優斗は笑った。
「今日はモデル気分でいいよ」
部屋にご馳走が配膳されていた。
「美味しそう」
食べながら優斗が自分の生い立ちの話をした。
「俺の親父ってさ、厳しい人でさ。結果しか見ない人なのね。でも、その求めてる結果が俺よりこーんなに上なのよ」
優斗は、右手を高くあげてアピールした。
「自分はどうしても足りないから、それで嘘つくようになったのかも」
優斗はカニにしゃぶりつきながらそう言った。
「お母さんはどんな人だったの?」
「お袋は、普通の人。親父には歯向かわない人だった。だから、庇ってもらえなくて寂しかったな。悔しかったし」
「そうなんだ」
(この話は、本当なのかな――?)
「奈々は?」
「うちは自由だったよ。優斗の家と真逆だね」
「それは羨ましいな」
優斗はそう言って微笑んだ。
(嘘ついたり、浮気しなきゃいい人なのにな……)
食べた後、お風呂に行った。
温泉ということで、私は少しウキウキしていた。
風呂から上がって部屋に戻ると、布団が隣同士にくっついて敷かれていた。
「優斗は窓際で寝て。嫌なら私が窓際の板張りに行く」
「俺がそっちに行くよ」
優斗が布団を移動した。
「じゃあ、おやすみ」
私がいうと、優斗が残念そうに「おやすみ」と言った。
◇
夜寝ていると優斗が覆い被さってきた。
「嫌……」
優斗が私の両腕を体重をかけて抑え込んだ。
優しく優斗がキスをする。
「愛してる……奈々」
「嘘でしょ」
「本当」
「ばか」
「奈々……」
何度も相撫するキス。
そのうち深いキスになり、私は頭が真っ白になった。
私は耐えられなくなって、優斗を受け入れた。
――それでも私は、優斗と離れることを選んだ。




