第12話 告げられた終止符
撮影が終わったのは、夜も更けてからだった。
「おつかれー!」
撮影後、スタッフが慌ただしく片付ける中、私は最後のチェックだけ済ませて立ち去った。
車に機材を乗せ、運転席に座ると、優斗に電話をかけた。
……出ない。
喉が渇いたので、ペットボトルの水を飲んだ。
すると、優斗から折り返しの電話がかかってきた。
『遅くまでお疲れ様』
「なんかあった?」
『いや……奈々の声が聞きたくなった』
(優斗って……本気で言ってるのか、その場の思いつきで言ってるのかわからない……)
「それで? 私疲れてるのよ」
『奈々……旅行に行かないか? お前いつもデートしたいって言ってただろ』
(何よ今更……。うーん、でも……。《最後の》ってことで行ってもいいかな……)
「うん。わかった」
(前々から、優斗をファインダーで映してみたかったのよね)
『良かった……断られるかと思ってたよ。詳しいことはまた後で知らせるよ』
「うん」
やはり、あのことが気になる。
「奥さん……絵里さんとはどうなったの?」
『これから話し合うところだ』
「そっか。変わったことあったら教えて」
『もちろんだよ』
「子供いるんでしょ?」
『ああ……。もう嘘はつかない』
「簡単に別れられないでしょ?」
『簡単ではないけど……』
『ただいまー!』子供の声が聞こえた。
『絵里と子供が帰ってきた。じゃあまた』
電話は切れた。
私はこれからどうなるのかを考えると、少しドキドキした。
そして家に帰るため、車を走らせた。
◇
優斗はもう絵里の前で隠そうとしなかった。
絵里は電話している優斗を横目に子供達を風呂に入れる支度をする。
「あ、大地は俺が入れるから」
いつものように優斗は大地を風呂に入れた。
二人は一切口を聞かなかった。
子供達はいつものような賑やかさだった。
「今日は遅いから、ふざけないで早く寝ますよ」
絵里が大地の着替えを手伝う。
「パパと一緒に寝ようか」
優斗は大地の手を引いて寝室に行った。
美桜は眠たそうにしていたので、絵里が体を蒸しタオルで拭いて着替えさせた。
子供達が寝た後、優斗と絵里はリビングに居た。
「まだ、謝罪されてないわ」
絵里が床を見つめながら言った。
「すまなかった――」
優斗は頭を下げた。
「もう浮気はしないよ」
「……」
「本当だよ」
優斗が絵里の手を取ろうとすると、絵里が手を振り払った。
「さっき電話してたじゃない」
「あれは別れると告げたんだ」
「じゃあ、また。って聞こえたけど?」
「う……」
絵里は書類のコピーを引き出しから取り出した。
「これ見て。一切を弁護士に頼んであるの。……それは、離婚協議書。裁判に持ち込みたくないなら速やかに同意することね。……これが公正証書と、証拠書類のリスト」
そして絵里が『バン!』とテーブルに叩きつけたのが、《離婚届》だった。絵里の署名がすでに記入、捺印してあった。
「そうか……」
優斗は肩を落とした。
「子供はどうするんだ?」
「二人は幼いから私が引き取るの。裁判してもいいわよ。あなた負けるだけだし」
「……」
優斗は長いため息をついた。
「離婚するとしてさ、お前は働くのか? 住むところは?」
「もう仕事は見つけたわ。住むところは探しているところ。働いてないとなかなか見つからないのよね。まあなんとかなるわ」
「なら、俺が出ていくよ」
優斗は、眉間に皺を寄せ、辛そうに言った。
「悪いのは俺だ。俺が出ていく」
絵里は少し驚いて優斗を見た。
(反省しているの? それとも、誰かのところに転がり込むの――?)




